運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど

Q矢(Q.➽)

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38 メッセージ

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庄田のスマホにそのメッセージが入ったのは、そろそろ仕事の区切りを考え始めていた夕方の4時頃の事だった。彼は常にパソコン横にプライベート用のスマホを置いて作業をする為、すぐにそれに気づいた。
即座にマウスを操作する手を止め、スマホを開く。送り主は、最愛の恋人である斗真。名前を見ただけで心がほっこりと暖かくなった。
斗真がこれくらいの時間にメッセージを入れてくるのは珍しい事ではない。週に2回程度は、30分や1時間程の残業が入ったと言ってくる。自分の送迎をしている庄田に気を使って退社できる時間を伝えてくるのだ。だから今日もその連絡なのだろうと思った。
だが、直後に表示された簡素な文面を読んだ庄田は、虚をつかれたような表情になった。

『急用が出来て、暫く実家に戻る。』

「…は?」

急用?実家に戻る?

(家族に何かあったのか?)

そう考えた庄田は、すぐに返信を打った。

『実家で何かあったの?』

送信して待ったが、既読が付かない。何時もなら、返信には間が開いたとしても既読くらいはすぐに付くのに。
気づいていないのかと思い、もう一度文を送った。

『緊急で実家に帰らなきゃいけないとか?早目に迎えに行こうか?』

しかしそれから数分待ってみても、既読は付かなかった。
その時点で、妙だとは感じた。だが、急いで帰宅の準備でもしているのだろうと、また10分ほど待った。
が、やはり既読が付かない。

急激な胸騒ぎに襲われた。足下からザワザワと悪寒が上がってくる。羽純が事故で緊急搬送されたと連絡を受けたあの日の記憶が蘇ってきて、手足が震えた。

(いや違う。今回は違う。実家で何かあったんだ。そういう文面じゃないか。斗真に何かあった訳じゃない。メッセージだって、本人が送って来てるんだし…。)

庄田はあらぬ想像を、頭を振って打ち消した。そうだ。あの時とは状況が違う。
本人はスマホを触れる状況のようだし、きっと上司に事情を話したり、実家と連絡を取っているのかもしれない。何かしらやる事があるのだろう。

「…もう少し待ってみるか。」

そう呟いて、スマホを元の位置に戻した。だが、5時を過ぎても返信は無いし既読も付いてはいない。気になって仕事どころではなくなり、結局切り上げてしまった。
急ぎ足で、駐車場に停めていた車に向かう。羽純を自動車事故で失ってから、車の運転から遠ざかっていた庄田が車の運転を再開したのは、斗真と付き合い始めてからだ。彼を自由に色んな場所に連れて行きたくて、彼の安全を他の誰かに託したくなくて。大切なものを失ったからこそ、今度こそは自分で守りたかった。
車に乗り込んでから斗真に電話を掛けてみたが、電波が届かないか電源が入っていない旨のアナウンスが流れて困惑する。どういう事だ。斗真に出会ってから今日まで、こんな事はなかった。
電波が届かない場所なんて、今どき少ないだろうが、あるとしたらどういう場所だろうか。それよりは、携帯電話の使用を禁止されている場所で電源を落としていると考える方が妥当だろうか?例えば、病院…とか…。

(実家の家族の誰かが、病院に運び込まれた、のか?)

そう考えが浮かんだが、それも打ち消す。もしそうであったとしても、連絡があってからまだ1時間。斗真の実家は新幹線や在来線を乗り継いで4時間はかかる県にある筈だ。実家のある県に帰っているとは考えにくい。まだ会社にいるのだろうか。まさかもう家に戻って帰省準備をしているのか、と自宅の電話を鳴らしてみたが斗真が取る事は無く、じき留守電に切り替わった。 

庄田は溜息を吐いた。

斗真の現在地を把握しようとアプリを開いてみたが、何時もならすぐに出る筈の位置は全く表示されない。
GPSアプリをインストールする時に許可は取っているから、斗真本人もそれを知っている。まさか、位置を知られたくなくて電源を落としたのだろうか?

(いや、そんな、まさか…。)

そんな筈はない。庄田が心配する事をわかっていて、そんな事をする筈は…。そう思うのに、気持ちが掻き乱された。


居ても立ってもいられず、斗真の会社に向かった。何時ものパーキングに車を停めて会社の入っているビルの入口に向かうと、折り良く見覚えのある男が出て来た。何度か斗真と喋りながら出て来るのを見た事がある、同僚の男性だった。捕まえて斗真はまだ中なのかと聞くと、

「菱田は午後になってすぐに早退しましたよ。かなり具合いが悪かったみたいで…。」

と言われた。
具合いが悪くて早退?実家からの連絡を受けて動揺していたという事、だろうか?
その後すぐに実家に向かったのだろうか。それとも一旦家に戻って、幾許かの荷物を持ってから?

庄田は急いで自宅に帰ってみたが、斗真の帰って来たような形跡は無く、服や旅行用のボストンバッグなどもクロゼットの中にそのままあった。
相変わらず繋がらない電話と、今朝出た時と何一つ変わりの無い部屋を見て、庄田の焦りと動揺は頂点に達した。

何故、多少無理にでも、実家の連絡先を聞き出しておかなかったのかと。




斗真は大学進学で家を出てから、滅多に帰省した事は無いと聞いた。意外な事に、家族ともあまり交流が無いらしい。不仲というより付かず離れずかな、と斗真本人は言っていたが、進んで話題にしたいようではなかったから、それ以上は聞かなかった。どれだけ親密になろうが、踏み込んではいけない線はある。
だから、その内話してくれる日が来るだろうと追求はしなかった。だがその事を、こんなにも悔やむ日が来ようとは。
斗真の出身県以外、実家の場所も連絡先も、庄田は知らないのだ。スマホが使えないとなると、実質、連絡手段が絶たれた形になる。然るべき所に金を積めば今から調べる事は可能だろうが、日数は掛かるだろう。

(いや、もう少ししたら連絡がつくようになるかもしれない。)

きっとアクシデントがあって、この状況は一時的なものなのかもしれない。
何時も庄田に心配をかけまいとする斗真の事だから、状況が許せば気づけば真っ先に連絡して来る筈だ。

きっと、きっと。



だがその日、着替えも食事もせずに待ち続けた庄田のスマホがなる事は無かった。








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