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40 手蔓
しおりを挟む和久田の調査の結果、斗真の実家の場所は意外な所から判明した。
しかもそれは、調査を請け負った和久田自身の持つコネクションから齎された情報からだった。庄田が聞いていた斗真の出身大学に、たまたま和久田の悪友の1人がいた事が幸いしたのだ。
最初、斗真がSNSのアカウントを持っていない事から、その線からは何も期待できないようだと和久田は手をこまねいていた。ダメ元で以前住んでいたマンションの管理会社や勤務している会社の関係者をあたっていこうかと考えていた時に、ふと閃いた。庄田から聞き取った斗真の出身大学の名に、悪友の1人の顔が思い浮かんだのだ。斗真と庄田、和久田達は同年代だ。確証があった訳ではなく、もしかしたら…という程度の気持ちだった。一口に同じ大学と言っても、その中には様々な学部があり学生の数は多い。顔を知らずに卒業する人間の方が多いだろうが、人の繋がりというものは思いもかけないところで繋がっていたりするものだ。
思いついた事は取り敢えずやってみる事にしている和久田は、すぐにその悪友に連絡を取った。
幸運にも、悪友は菱田斗真を知っていた。特別親しかった訳ではなく、話した事が1度あるだけだったらしいのだが、彼の友人の中に斗真に熱を上げている男がいたのだという。
『確かに妙に気になる男ではあった。どこを見ても普通の奴だったけどな。』
「気になる?」
『何処が、とは上手くは言えない。だけど、話してると何か惹かれるんだよ。』
結局、斗真に片想いしていたという友人の恋が実る事は無かったらしい。その当時斗真には、恋人がいたからだ。
何度もアタックしたというが、丁寧に断られるのだと終いには苦笑していたらしい。
『オメガ相手なら何とかなるけど、フェロモンの効かないベータ相手じゃな。』
そう言った悪友も、斗真に横恋慕していたという友人も、アルファだった。
斗真がその当時付き合っていたという恋人の素性はアルファだという以外はまだわからないが、現在付き合っている庄田もアルファだ。庄田によると、庄田と付き合う直前に破局したという恋人はオメガだったらしい。
斗真に横恋慕していた悪友の友人であるアルファは、元々斗真の友人でもあったらしい。その友人とコンタクトを取りたいと言うと、悪友は『本人に聞いてからすぐに連絡する。』と言ってくれた。
その通話を切った後、和久田は考え込んでしまった。
偶然だろうか。菱田斗真という人間の付き合っていた相手が、同じベータではなくアルファとオメガという特殊バース性の人間ばかりである事は。
(…特殊バース性を引き寄せるベータ…?)
そういう体質という事だろうか?しかし和久田が知る限り、そんな話は聞いた事が無い。ベータとはそもそも、特殊バース性とは影響し合う事のない性の筈だ。アルファとオメガは互いの遺伝子が呼び合うが、ベータは遺伝子上、何方への誘引遺伝子も持たない事がわかっている。万が一、それを持つベータが存在するとしたなら、それは特異体質に他ならない。
やはり偶然なのだろう、と和久田は考えを打ち消した。
もし斗真がそういう変わった体質だとしても、現在の和久田の調査には関係が無い。依頼は菱田斗真の実家と斗真本人の所在を探し当てる事だ。
その後、悪友から連絡をもらったという友人のアルファから和久田に直接の連絡が来た。
月岡と名乗ったその男は、斗真とは地元の高校から一緒だったと語った。
月岡に斗真の実家の連絡先を聞くと、少し躊躇いはしたが教えてくれた。あくまで斗真本人の無事を確認したいだけなのだという、和久田の言葉を信じてくれたようだ。
しかしその結果わかったのは、斗真は実家に帰省などはしておらず、それどころか滅多に連絡が来る事も無いという事だった。
実家に戻るという、斗真のメッセージは偽りだった。
では何故、斗真は庄田にそんな嘘をついたのか。
菱田斗真という人間の足跡は、そこから一旦途切れてしまった。
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