運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど

Q矢(Q.➽)

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43 迷い

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庄田と和久田は、営業の邪魔になるだろうからと一旦店を出た。周囲を30分ほど見て回り再び店に戻ると、ちょうどあの朝森というスタッフが客の送り出しをしている最中だった。朝森は2人を視界の端に認めると、向き直って小さく会釈をしてくる。庄田はやや足早に朝森の立つ店の出入り口に歩を進めた。どうしても気が急く。目が合った時から、彼はきっと斗真に連なる人物だという気がしていた。


「お待たせしました、朝森です。」

そう名乗った時には、男は先程の動揺が嘘のようにそつの無い営業用の笑顔を張りつけていた。

「急に申し訳ありません。私は和久田と申します。」

和久田は名乗りながら名刺を渡し、受け取りながらそれに目を通している朝森の表情を観察した。間近で見ると朝森は、色白で容姿端麗な男だった。店のトップスタイリストだと、さっき受付スタッフは言っていたが、それにしては若く見える、と和久田は思った。

「…探偵社の方ですか。」

朝森の表情は崩れず、そこからは何も読み取れない。先程は咄嗟の事で対応が遅れただけで、平時はこういう感じなのだろうか。

「はい。」

和久田は返事をしながら隣の庄田に目配せをしようとして、ギョッとする。庄田はじっと朝森を見ていた。

「庄田です。」

庄田は朝森から視線を外さないままに名を名乗った。瞬き1つしないその視線の強さは和久田ですら少しゾッとするものだったが、それを受ける朝森の表情にもう動揺は見られなかった。その上、次には…。

「存じ上げてます。斗真の恋人の庄田さんですよね。」

朝森の口から出た思いがけない先制に、和久田は瞠目し、流石の庄田も眉を動かした。

「……何時、私の事を?」

「以前、一緒の所を1度。お邪魔をするのも何なので声はかけませんでしたが、後から本人に付き合っている人なのだと聞きました。」

「そうでしたか…。」

朝森の答えに、庄田の纏っていた険が和らいでいく。正直に対応されていると感じたからだ。やはり朝森が、斗真が頼った先に違いない、と半ば確信出来たのもその理由だった。
これで斗真の所在がわかる。そう安心しかけた所に、今度は朝森の方が庄田に問いかけた。

「…斗真をお探しなんですよね。」

「はい。彼は朝森さんの所に?」

「……はい。」

やはり。
庄田は和久田と顔を見合わせて頷いた。

「彼は無事なんでしょうか?」

和久田が問うと、朝森は一瞬返答を迷ったようだったが、頷いた。

「はい、今は。」

「会わせて下さい!!」

朝森の返答に被せるように庄田は言った。だが、朝森はそんな庄田をじっと見て、目を伏せた。

「それは…彼が望まないと思います。」

「どうしてですか?!」

やっと辿り着いた斗真への道筋に水を差され、庄田は先程までの和らぎを忘れ激昂しかける。それを制しながら、和久田は朝森に尋ねた。

「…それは、もしかして彼が朝森さんを訪ねて来た時の状態と、関係があるんでしょうか?」

朝森はまた躊躇した。それから、少し考えるような素振りを見せた後、

「此方までは、お車で?」

と和久田に聞いた。突然、全く違う質問をされて少し面食らいながらも、和久田は頷きながら答える。

「ええ。すぐそこのパーキングに停めてありますが…。」

それを聞いた朝森は、

「少しだけお待ちいただけますか?」

と言って店内に入って行き、受付カウンターでスタッフ相手に何かを話した後に一旦奥に消えた。それから2分程して、黒いサコッシュを手にして戻って来た。

「人目がある場所は避けたいので、出来れば車でお話したいんですが。」

朝森のその提案に、2人は戸惑いながらも頷いた。


               ーーーー



「何度か、庄田さんに連絡するようには言ったんですが…。」

車の後部座席に1人で座る雅紀は、和久田が自販機で買い渡したペットボトルのお茶を開栓しながら溜息を吐いた。

今日、庄田が訪ねて来た事に、雅紀は少しホッとしている。
斗真の傷はまだまだ癒えるには程遠い。体もそうだし、心もそうだ。なのに病院は拒否するし、庄田に連絡を取っている様子も無い。
そうして日々塞ぎ込んでいく斗真を見ているのは辛かった。雅紀が仕事から帰っても、電気も点けず真っ暗な部屋の中で布団にくるまって虚ろな目をしている。

このままで良い筈が無い。
連絡が取れなければ庄田は心配するだろうにと言っても、斗真は黙ったままだった。
雅紀は悩んだ。
斗真の事は好きだ。自分で良いのなら、幾らでも支えてやりたい。けれど、友人でしかない雅紀に出来る事は限られていて、寄り添う事すらも出来ているのかわからない。斗真は、レイプされたという事以外、何も話してはくれないからだ。
どんどん斗真が内に内に篭っていくようで、見ていられない。
彼の事を愛している。愛しているから、このまま傍に置いておきたい欲もある。
けれど、それで斗真を幸せに出来るのか。  雅紀は幸せになれるのか。
庄田の元に帰るのが怖いのだと、そればかりを呟く斗真。斗真と鳥谷と庄田の関係性を知らない雅紀は、その言葉の意味を、身を汚された事を最愛の恋人に知られたくないのだろうと解釈していた。だが、だからといって庄田との連絡を絶ってしまうとは…。

このままでは色々な事が、拗れていくばかりだ。
今の斗真に必要なのは愛する庄田の支えなのだと、雅紀は思う。だから庄田が自分を探し当てて来てくれた事に、ホッとした。


しかし、斗真の身に起きた事。そのデリケートな問題を、何処までどう話して良いものかと、雅紀は頭の中で言葉を選ぶ。


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