超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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28 お外ランチ

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その夜は帰宅して午前4時頃には寝て、8時には起きた。前日営業中に数時間寝かせて貰えたからか、体がラク。超、ラク。やっぱ睡眠大事だな。多少飯抜いても睡眠取るべし。

2限目からの講義に出席して、見覚えのある後ろ姿を探す。因みに三田は取ってない選択だから安心だ。
少し離れて前列に座っていたミズキも俺の視線に気づいて振り返り、小さく手を振ってきた。相変わらずフワフワした髪してんな、と思いながら手を振り返す。

…あれ?やっぱミズキって、何か…。……気の所為かな。

しかし間も無く教授が入ってきて、俺は感じた違和感を忘れてしまった。



授業終了のチャイムが鳴り、好き好きに講義室を出ていく生徒達に混じってミズキが寄ってきた。
俺はリュックに色々仕舞いながらマスクをズラして、「よう。」と挨拶。

「ユイ君お疲れ。お昼、一緒行かない?」

「学食行く?外?」

俺が頷きながら聞くと、ミズキは少し考えてから、思い出したように言った。

「あ、そうだ。クーポンあるんだ、稲屋の。」

「いいねぇ。」

俺はにんまりと笑った。
稲屋は学外で10分くらい歩いた場所にある、安くて美味くて人気のテイクアウトおにぎり専門店である。毎週水曜日に10%クーポンをくれる。最高。

「稲屋でお昼買って、川沿いの公園で食べない?」

「そうしよう。」

外の風に吹かれながら食べる方が、昼の混雑した店に入るより断然良い。俺がリュックを背負って立ち上がり、ミズキと連れ立って歩き出そうとした時、背中と後頭部にチクリと何かが刺さるような感じがした。視線だ。
周囲を見回してみたが、もう人が引いて疎らになっている廊下には俺達を見ていそうな人間は見当たらなくて、首を捻る。
気にし過ぎか。
最近色々あり過ぎて自意識過剰になってるんだな…。良くない傾向だ。

俺は自分に呆れて肩を竦めた。




今日は天気が良い。
いや良過ぎだ…。
俺は外で食べようというミズキの提案に乗った事を少し後悔した。まあでも川沿いに吹く風は、歩いて汗ばんだ体に心地良い。
ポロシャツの胸元を掴んでパタパタと風を入れながら空を見上げると、分かり切ってたけれど日射しが眩しい。ついこの間梅雨が明けたばかりで、もう何日もしない内に本格的に夏が来るらしい。て事は、夏休みももう直ぐなんだな。

目当てにしていた川沿いのベンチは、生憎全部満員だった。仕方無く俺達は、木陰になった芝の上に目をつけた。でも考えてみたら、木漏れ日はするけど枝葉は十分日除けになる。さんさん日射しが降り注ぐ真下のベンチより逆に良くね?それに、目にも涼しげだ。

別に俺はオシャレに気を使う方じゃないから常にチープなファストファッションだし、今日だって無難な淡いブルーのポロシャツと黒いパンツだ。座って多少汚れたって気にならない。
だけどミズキを見ると、ラウンドネックの黒いオーバーシャツに、ゆるっとした白っぽいパンツ…。
俺は何となく、リュックに入れてるポケットティッシュを2枚出して、芝の上に敷いた。

「ミズキ、そこ座りな。」

「えっ、あ、ありがとう。」

ミズキが驚いたように俺を見た。

「何?」

「いや…ユイ君って、すごい気配り屋さんだよね。」

「そうか?普通だろ。」

俺だってもし今日色の薄いボトムなら同じように何か敷いた。たまたま黒だから敷かないだけだ。

「…ユイ君って、相手が女の子とかお客さん相手じゃなくても自然にそういう事出来るんだよね。やっぱすごいなあ。」

「…普通だって。」

ミズキは座りながらそんな事を言い、俺は人ひとり分くらいの間を空けてその横に腰を下ろしながら答えた。
リュックから携帯してる除菌シートを出して、自分の手を拭いてからミズキにも一枚渡す。それからマスクを外し、袋から出した麦茶を開栓してふた口飲んでからそれを横に置き、おにぎりも取り出した。
胡座をかいてその上で竹の皮を模した包みを開くと、形良く三角に握られて透明シートで仕切られたおにぎりが3つ、行儀良く並んでいる。端にはクーポン利用客へのサービスの四角に切られた小さな卵焼きが2個。割引きした上にサービスとか、大丈夫なのか、稲屋。赤字にならないのか、稲屋。

「おお…美味そう。」

稲屋はその名の通り米農家の直営店で、とにかく米が良い。粒が揃って形良く艶があり、またそれを絶妙に炊いているから冷えても美味い。今日もいつものようにシャケと明太子と高菜にした。何故か?それが一番好きな具だからだ。

「いただきます。」

俺は両手を合わせて小さくお辞儀をしてから個別の透明シートに包まれたシャケおにぎりを右手に取って口に運んだ。
うーん…何時食ってもハズレ無し。

川風に擦れてさわさわと音を立てる木々。少し離れた所から聴こえてくる談笑。

そんな音たちをおかずに目を閉じて咀嚼していると、横でミズキがクスッと笑ったのが聞こえた。
どうやら一連の動きをずっと見られていたらしい。

「ユイ君って、ほんとすごい。美味しいものなんか毎回お客さんのご相伴にあずかってるだろうに。」

おかしそうに笑っているミズキの手には天むす。普通のおにぎりより若干お高めのメニューだ。セレブめ。

「そりゃまあ、俺達はお客さんには良いとこ連れてって貰ってるけど、それとこれとは別だろ。」

「別?」

ミズキは不思議そうに聞き返してくる。

「高いもんは美味いよ。
でも俺にとって一番美味いのは、食い慣れて、何時でも身近にあるものだ。
ミズキは違うのか?」

「……。」

俺の言葉に、何故だかミズキはメガネの奥の目を丸くしたまま黙ってしまった。そんなミズキの様子を見て不安になる俺。え、俺、何か変な事言った?

「…何?」

沈黙に耐えられなくなって問いかけると、ミズキはハッとしたように動き出して、

「やっぱりユイ君は良いなあ…。」

と、意味不明な事を呟いた。

…何が?









    
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