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34 対象的な友人
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俺と三田は以前何処かで会ってたって事だろうか。
幼い頃から周囲に興味を抱く事が少なかった俺の記憶中枢はポンコツだ。もしかしたら自分でも自覚の無いストレスで海馬がゴッソリ死んでるのかもしれない。何のストレスかは覚えが無いが。
そんな訳で、俺は自分の頼りない記憶を辿ってみたが、やはり期待した成果は得られなかった。
物心ついた時から極力他人との深入りを避けていた俺にとって、それはある意味当然の結果と言える。周囲も"普通"の俺を遠巻きにしたし、たまに珍しさからか、構ってくる奴はいたけれど、素っ気ない俺の態度が気に入らなかったのか何時の間にか寄り付かなくなった。
それで良かった。どうせ"普通"の人間なんか、珍獣みたいなもんで知り合いに1人居たら話のネタになるとか自慢出来るとか、そんな扱いなのだ。そういう打算の上に築かれる関係性に、俺は期待する気は無かった。
とはいえ、今は俺の個人的な持論はどうでも良くて、三田と俺が大学で出会う以前に何処で知り合っていたのかという事だ。
その辺の事をもう少し三田に語って欲しかったが、泣き出してしまった三田はさっき迄とは打って変わって嗚咽以外は何も漏らさなくなっている。
ぶっちゃけ、モヤモヤした。
けれど、具合いが良くない時は感情のコントロールがしにくいものじゃないかと思い直し、俺はモヤモヤしたりなんかした自分を反省。数時間前に倒れたばかりの相手に多くを求めるなんて、駄目だろ俺。
俺は三田の背中をさすった。とにかく落ち着かせなければ。
運転手がルームミラー越しに送ってくる気遣わしげな視線に申し訳無い気持ちでいっぱいの俺。すいませんね、うるさかったり泣いたり。
「三田、今日は帰ったらゆっくり休め。軽くで良いからちゃんと飯食うんだぞ。」
俺がそう言うと、三田の嗚咽が止まった。
「...三田?」
「......帰っても一人だもん。食う気になんかなれねえよ。」
それを聞いて俺は思い出した。三田が、一人暮らしだった事を。
前に聞いた所によると、確か三田は高校迄他府県に住んでいて、大学進学と共に大学のあるこの街に住み始めたらしかった。
一人暮らししてるんだ、自炊大変だな、と言ったら、親が手配したハウスキーパーさんが週一で来て洗濯や掃除や食事の作り置きなんかをして行ってくれるらしい。「でも基本外食が多いんだよな。」とも言ってたな。
そんな三田を、このまま一人の部屋に帰して熱中症対策後の注意なんか気をつけるだろうか。どうやら食事を取る気も無さげだし...。
もしこれを機に体調崩したとかになったら寝覚めが悪い。
暫し考えて、俺は言った。
「三田、少しお邪魔して良い?」
「...え?」
三田は驚いたように横の俺を見る。
「...でも...。」
「ちゃんと寝るの確認したら帰るから。」
何だこの遣り取り。
まるで俺が付き合いたての彼女の部屋に行きたいと駄々捏ねてるみたいだな。いや相手は熱中症で倒れた三田だけど。
俺も家事は得意って訳じゃない。料理だって、たまに猫のオヤツ用にササミを茹でるか、黒川さんちでプリン作成するか茶を入れるか程度の事しかしてない。
でも不器用ではないから、レシピさえ検索したら胃に優しい簡単な料理くらいは作れるくらいの自信はある。それに、ハウスキーパーさんが来てるって事は、調理器具や多少の食材くらいは残ってる可能性が高い。...まあ、卵や米、くらいは。
「とりま、お前は何か胃に入れなきゃ駄目だ。先ずは軽いものから。」
そう言う俺の顔を、三田はぼうっと見ていた。
「...作ってくれるのか?」
俺は肩を竦めながら答える。
「仕方ないだろ、お前、一応病人なんだから。」
「...そっか...うん、そっか。」
「じゃ、寄るぞ。良いな?」
「うん。」
そう言ったきり、三田は向こうを向いて窓の外の景色を見始めたようだった。俺はその様子に、少し安堵した。三田の家からの帰りは自腹になるけど、仕方ない。俺が熱中症の原因の一端になったんだろうし、見捨てて帰れないだろう。それにしても今日、バイト休みで良かった。
三田と同じ流れる街並みを見ながら、そう思った。
俺の中で三田は、何時も自信と余裕を感じる、同級生達の中でも優れた人間という位置付けだった。本人にもその自覚はあるようだし、そんな三田の周りに集まる連中も多い。俺とは真逆の存在だ。
あまりにも別世界の人間過ぎて、大学生活が始まって間もなかったあの日、三田が歩み寄って来なければ俺達は言葉も交わさず卒業しただろうと断言できるくらだ。
交流が始まったからと言っても、浅い上辺だけの友人関係だと思ってた。三田の交遊録の一つにコレクションとして置いときたいだけだろうと。なのに、そんな相手にまさか、好きだなんて言われるとは。
正直、この先を考えると気が重い。
俺は三田を恋愛対象に見れるかわからないし、拒絶した後、店のお客達のように熟れた大人でも無い三田がどんな行動に出るのか、よくわからないと思っていたからだ。
個人情報をあまり与えていないお客なら、未だやりようがあるのに...。
俺は内心溜息を吐きたい思いだった。
そうこう考えている内に、タクシーはとある一軒家の前に着いた。
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