超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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36 耳より下の長さをキープしていたあの頃

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俺はあっくんの面影を探して、三田を凝視した。
遠い記憶の中、薄ぼんやりとけぶっていた小さな男の子の顔が輪郭を帯びてくる。黒目勝ちの瞳の、気の強そうな大きな目はやや吊り気味だったと思う。それをびっしり囲っていた睫毛が印象的で...。成長した今は目の大きさが目立つ事はなくなって、キツく見えていたのも緩和している。眉、目、鼻、口、各部位のバランスがお見事。びっしり睫毛は変わらなくて、寧ろ下睫毛が更に目立ってる。髪だって、サラッとした癖の無い黒髪だった記憶があるのに、今は流行りのカットに毛先に入った赤、ワックスで軽くそれを整えてしまっている。でも...。


――三田が、あっくんだったのか...。

変わってしまったようでいて端々に残る面影に、認めざるを得なかった。


「俺、そんなに変わった?」

粥を息を吹き掛けて冷ましながら、三田は呟くように言う。

「うん。全然分かんなかった。」

「忘れてただけだろ。」

図星を突かれてギクッとした。でも、はい忘れてましたなんて言い辛い。仕方ないから当たり障りのない言葉を探す。

「だって、印象変わり過ぎだし。」

言いながら思う。
幼いながらにもっと攻撃的な暗い目をした子供だった。なのにそれが、俺を映す時だけは、荒れた海が凪ぐように一瞬で穏やかになって。俺はそれを、何時も不思議な気持ちで見ていた。
今の三田からそんな攻撃性は感じないし、何より眩しいくらいの陽の気質を感じさせる王子様的な笑顔を振り撒いている。あの暗い目をした乱暴なガキ大将が陽キャ王子と同一人物だなんて、言われなきゃ絶対気づかないだろ...。いや言われても信じられないだろ。俺の所為では絶対無いと思うがな?

なのに三田はチクッと責めるかのように言うのだ。

「...ショックだった。」

「カッコ良くなったって事だよ。」

えぇ...やっぱ俺が悪いのかよ...。
理不尽だぜ、と思いながらも言葉を選んでやる優しい俺。実際、マジでそうなんだからこれは別にお世辞じゃない。それが功を奏したのかはわからないけど、三田の両眉は所定の位置に戻った。ホッ。

「マジ?俺の事、カッコ良いって思う?」

「そりゃ思うだろ、世の中の大半は同じように思ってると思うぞ。」

それは正直な気持ちだ。

美醜が逆転した訳ではないんだし、人並みの美的感覚の持ち主なら、好みかどうかに関わらず、オーソドックスな美形である三田の造形は好ましく思うのではないだろうか。

三田は俺の答えに、また嬉しそうに笑った。

三田が粥を完食してから、額を触ってみた。食事をとったからなのか未だ熱が残っているのか、やっぱり少し熱い。しかし体の頑丈な三田の家には冷却シートなんて気の利いた物は無いらしいから冷やす為には氷水とタオルを用意するしかない。俺は食器を下げがてら、キッチンにあったステンレス製のボウルに氷水を作って、自由に飲んで良いと言われた炭酸飲料を1本冷蔵庫から貰い、三田の部屋に戻った。

ベッドに横たわる三田の額に緩めに絞った冷たいタオルを載せる。
その冷たさが心地良いのか、三田はほうっと息を吐いた。それをベッドのへりに座ってじっと見ていると、三田は少し眩しげに俺を見上げてから、目を閉じて話し始めた。

「祖父さん祖母さんが施設に入る事になってさ。」

「へえ、そうなんだ。」

語られ出した三田家の内情は、俺が聞いて大丈夫なのか。...大丈夫なんだよな、きっと。

「この家、俺らが出た後は賃貸に出してたんだけど、去年から空いてさ。
だから、マンションとか借りるよりこの家に戻って住みたいって言ったんだ。」

「ひとりで?」

「まあ、母親もこっちにはトラウマしかねーって言うし、それにもう向こうで住み慣れてるからな。もうこの家には戻る気ねえみたい。親父もそう言ってたし。」

「そうなのか。」

「この家、売るかって話も何度か出たらしいんだけど、俺が絶対残してくれって親父に頼んだんだ。」

ゆっくりと言葉を紡ぎながら、そこ迄言うと。
三田は、俺に顔を向けて真っ直ぐな瞳をして言った。

「自分で動ける歳になったら、絶対に帰って来るって決めてたから。」

「そっか...。」

そう答える以外、どうして良いのかわからない。
つまり...自惚れじゃなく、俺がこの街にいるからって事なんだろうが、俺自身は
何故三田にそんなに好かれてるのかわからないから困惑するしかない。あの頃の三田に、何をしてやった覚えも無いのに。

俺の戸惑いを感じ取ったのか、三田が苦笑しながら言った。

「一目惚れって、本当だよ。」

「えっ。」

「ほんの4、5歳で、同じ幼稚園児の癖にさ。周りのガキ共とは、醸し出す全然雰囲気が違って...。」

「...。」

「箕田、途中から入ってきたじゃん。」

「そうだな。」

確かに俺の入園は年中クラスからだった。

「初めて見た時、何てーの?あの...女の子みたいな髪。ジィちゃんちにある人形みてえな、あの...。昔の囲碁アニメのライバルキャラみてえな...。」

「...おかっぱな。ボブ的なやつな。」

「そうそれ!」

なんつー表現すんだよコイツ。
そう言われて思い出してみれば、確かに幼稚園頃迄の写真に写っている俺は、横髪が頬にかかるくらいのおかっぱだった。誰かの旅行土産に貰ったおかっぱのこけしが俺の顔とそっくりだったから同じ髪にしたら可愛くなるかと思ったらしき母の遊び心だったという...。小学校に上がる前に短く切って、それ以降はずっと今くらいの短さだ。

「だから最初、箕田を女の子だと思って可愛いって思ってさ。直後に男だってわかったけど...。」

「それは...俺の母親がすまんかった。」

俺の髪を紛らわしくしていたのは母なので、俺が悪い訳ではないのだが、しかしおかっぱの俺が不覚にも三田をトゥンク...とさせてしまったのなら、俺は身内として母の代わりに謝罪するしかない。だって三田は悪くないからだ。すまん。

だが三田は笑って首を振った。

「男だってわかってからも、今度は箕田のカッコ良さに惚れたから大丈夫。」

「......?」


三田が俺として見ていたの、本当に俺かな?







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