38 / 101
38 自分の面食いも思い出す
しおりを挟む寂しくて、一人が嫌だった幼いあっくん(三田)には、半ば自分から孤独を選んでいた俺が強く見えたんだろうか。
それで俺を殊更美化しちゃってたから、やたらと懐こうとしてたのかな。
「近くには行けても、乱暴者の俺が触れたら傷つけそうで怖かった。だから、見てるだけ。箕田を見てたら、落ち着いたんだ。
安定剤みたいなものだったのかも。」
それは...好きというより依存に近いものだったのでは...。
俺の表情を見て言いたい事を察したのか、三田が言う。
「箕田は俺の心の拠り所で、支えなんだ。今でも。引っ越して最初は親とババアを恨んで不貞腐れてたけど、絶対に親父に認めさせて箕田の近くに戻るってのを目標にしてから、俺、頑張ったんだ。
...ゆっくんに会う為に、頑張れた。」
「あ...。」
三田の口からゆっくん、という呼び名を聞いた瞬間に、ぶわっとあの頃の記憶が鮮明に呼び戻された。
目が合う度に物言いたげだったあっくんが、初めて俺をゆっくんと呼んだ、最初で最後のあの日。あっくんなりに別れの挨拶に来たであろう、引越し前日のあの日。ウチの玄関先での事だった。
俺の名を呼んだっきり、気の強そうな大きな目に涙を溜めて、それでも俺の顔を食い入るように見てから…あっくんは走って帰っていった。
翌日、先生にあっくんの引越した事を聞いた時、俺はあっくんという呼び名以外、あっくんの事を何も知らないと気がついた。周囲に関心を持たなかったから、あっくんが『みたあやき』という名前だった事すら覚えていなかったんだ。
それでも尚、薄情な俺は、(あっくん、俺と仲良くなりたかったのかな。)とぼんやり思っただけだった。
それなのに…。
「ゆっくんの顔を、忘れたくなかった。目と頭に、焼き付けておきたかったんだ。」
そんな切ない事を呟く三田に、俺は何も言えなくなった。こんな俺なんかを支えにしてきたなんて聞かされたら...。
「俺の気持ちを疑わないで欲しい。ゆっくんにだけは、俺を誤解されたくない。」
「...うん。」
「俺、結構一途だったよ。」
「...そうか。」
明るい陽キャで人気者で、交際範囲も広くて軽いイメージがあった。見渡す限り美形だらけの学生達の中でも群を抜いた容姿やずば抜けた優秀さは、どっから見てもカースト上位グループの一員で。
珍種の俺に構うのは、気紛れで揶揄うつもりか、手慰みだとばかり思い込んでた。だけどその姿は、俺と離れたあっくんが、あっくんなりに努力して作り上げた姿だったんだな。
(俺なんかに会う為なんかに...馬鹿だな。)
そんなに頑張って再会を望む価値なんか、俺にある訳ないのに。ミズキといいあっくんといい、何でそんな風に俺なんかをカッコ良いなんて過大評価してるんだろう。俺は強くなんかないし、まともな友達もいない陰キャなだけなのに。
こんな俺に、一途になられても困る。そう思うのに、さっきからずっと心臓がバクバクいってるのは何でだ。
一の谷さんの時とも、天堂さんの時とも、黒川さんの時とも...ミズキの時とも違う、何処か高揚した気持ち。自分で自分に戸惑って、多分きっと今、俺の顔は耳まで赤い。
顎にズラしていたマスクを直して顔を隠しながら言った。
「そろそろ帰るわ。」
三田は、えっ、と身を起こしかけた。それを制して、俺は言う。
「三田の気持ちは、わかった。」
「え、マジ?」
「うん。」
大人の男であるお客さん達とは違う、未熟で、余裕の無い必死さ。19、20歳なんてまだまだガキなんだって思い知らされる、青臭い告白。だからこそ伝わってくる熱量もある訳で...。
そして、そんな熱い想いを知ってしまったからには、俺もそれなりに腹を決めなきゃならないなと考えた。
「わかったし、だから...ちゃんと考えてみる、三田との事。」
「...ほんと?」
がば、ととうとう身を起こしてしまった三田。目をこれでもかと見開いて驚いている。
ああくそ、寝かせたまま帰ろうと思ったのに。
俺は三田と目を合わさないように視線を逸らしながら答えた。
「あんなの聞かされてマジで考えなかったら、俺、最悪じゃん。」
「...箕田が最悪なんかになる訳ないけど、嬉しい。」
俯いてたら、右手を掴まれた。全然強い力じゃないのに、振りほどこうとも思えない。
「箕田...ゆっくん。」
「……何。」
「好き。」
「……もうわかったって。」
「言い足りないんだけど。」
右手を持たれ、甲に頬を擦り付けられた。ビクッと反射で手を引き抜きかけて、失敗。滑らかな頬の皮膚は少し熱くて、閉じた睫毛がびっしりと綺麗だ。キスされた事に比べたら随分可愛いものだと思うのに、あの時よりも痛いくらい鼓動が速まるのは何故だ。
俺ってやっぱり面食いだ。もしかして自分で思ってるより節操無かったらどうしよう。
「ゆっくん...好きだ。」
ダメ押しの愛の言葉に、俺はもう黙って手を預けるしかなかった。
俺は祈った。
三田が、うるさく鳴る俺の心臓の音と耳の赤さに気がつきませんように。
13
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる