超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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38 自分の面食いも思い出す

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寂しくて、一人が嫌だった幼いあっくん(三田)には、半ば自分から孤独を選んでいた俺が強く見えたんだろうか。
それで俺を殊更美化しちゃってたから、やたらと懐こうとしてたのかな。

「近くには行けても、乱暴者の俺が触れたら傷つけそうで怖かった。だから、見てるだけ。箕田を見てたら、落ち着いたんだ。
安定剤みたいなものだったのかも。」

それは...好きというより依存に近いものだったのでは...。
俺の表情を見て言いたい事を察したのか、三田が言う。

「箕田は俺の心の拠り所で、支えなんだ。今でも。引っ越して最初は親とババアを恨んで不貞腐れてたけど、絶対に親父に認めさせて箕田の近くに戻るってのを目標にしてから、俺、頑張ったんだ。
...ゆっくんに会う為に、頑張れた。」

「あ...。」

三田の口からゆっくん、という呼び名を聞いた瞬間に、ぶわっとあの頃の記憶が鮮明に呼び戻された。

目が合う度に物言いたげだったあっくんが、初めて俺をゆっくんと呼んだ、最初で最後のあの日。あっくんなりに別れの挨拶に来たであろう、引越し前日のあの日。ウチの玄関先での事だった。
俺の名を呼んだっきり、気の強そうな大きな目に涙を溜めて、それでも俺の顔を食い入るように見てから…あっくんは走って帰っていった。
翌日、先生にあっくんの引越した事を聞いた時、俺はあっくんという呼び名以外、あっくんの事を何も知らないと気がついた。周囲に関心を持たなかったから、あっくんが『みたあやき』という名前だった事すら覚えていなかったんだ。
それでも尚、薄情な俺は、(あっくん、俺と仲良くなりたかったのかな。)とぼんやり思っただけだった。

それなのに…。

「ゆっくんの顔を、忘れたくなかった。目と頭に、焼き付けておきたかったんだ。」

そんな切ない事を呟く三田に、俺は何も言えなくなった。こんな俺なんかを支えにしてきたなんて聞かされたら...。

「俺の気持ちを疑わないで欲しい。ゆっくんにだけは、俺を誤解されたくない。」

「...うん。」 

「俺、結構一途だったよ。」

「...そうか。」

明るい陽キャで人気者で、交際範囲も広くて軽いイメージがあった。見渡す限り美形だらけの学生達の中でも群を抜いた容姿やずば抜けた優秀さは、どっから見てもカースト上位グループの一員で。
珍種の俺に構うのは、気紛れで揶揄うつもりか、手慰みだとばかり思い込んでた。だけどその姿は、俺と離れたあっくんが、あっくんなりに努力して作り上げた姿だったんだな。

(俺なんかに会う為なんかに...馬鹿だな。)

そんなに頑張って再会を望む価値なんか、俺にある訳ないのに。ミズキといいあっくんといい、何でそんな風に俺なんかをカッコ良いなんて過大評価してるんだろう。俺は強くなんかないし、まともな友達もいない陰キャなだけなのに。
こんな俺に、一途になられても困る。そう思うのに、さっきからずっと心臓がバクバクいってるのは何でだ。
一の谷さんの時とも、天堂さんの時とも、黒川さんの時とも...ミズキの時とも違う、何処か高揚した気持ち。自分で自分に戸惑って、多分きっと今、俺の顔は耳まで赤い。
顎にズラしていたマスクを直して顔を隠しながら言った。

「そろそろ帰るわ。」

三田は、えっ、と身を起こしかけた。それを制して、俺は言う。

「三田の気持ちは、わかった。」

「え、マジ?」

「うん。」

大人の男であるお客さん達とは違う、未熟で、余裕の無い必死さ。19、20歳なんてまだまだガキなんだって思い知らされる、青臭い告白。だからこそ伝わってくる熱量もある訳で...。

そして、そんな熱い想いを知ってしまったからには、俺もそれなりに腹を決めなきゃならないなと考えた。

「わかったし、だから...ちゃんと考えてみる、三田との事。」

「...ほんと?」

がば、ととうとう身を起こしてしまった三田。目をこれでもかと見開いて驚いている。
ああくそ、寝かせたまま帰ろうと思ったのに。
俺は三田と目を合わさないように視線を逸らしながら答えた。

「あんなの聞かされてマジで考えなかったら、俺、最悪じゃん。」

「...箕田が最悪なんかになる訳ないけど、嬉しい。」

俯いてたら、右手を掴まれた。全然強い力じゃないのに、振りほどこうとも思えない。

「箕田...ゆっくん。」

「……何。」

「好き。」

「……もうわかったって。」

「言い足りないんだけど。」

右手を持たれ、甲に頬を擦り付けられた。ビクッと反射で手を引き抜きかけて、失敗。滑らかな頬の皮膚は少し熱くて、閉じた睫毛がびっしりと綺麗だ。キスされた事に比べたら随分可愛いものだと思うのに、あの時よりも痛いくらい鼓動が速まるのは何故だ。
俺ってやっぱり面食いだ。もしかして自分で思ってるより節操無かったらどうしよう。

「ゆっくん...好きだ。」

ダメ押しの愛の言葉に、俺はもう黙って手を預けるしかなかった。

俺は祈った。
三田が、うるさく鳴る俺の心臓の音と耳の赤さに気がつきませんように。






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