43 / 101
43 恋すると好きな人の好みに合わせたくなるタイプらしい
しおりを挟む大事を取ってもう一日休んでいたらどうかと言った俺に、
「大丈夫。絶対行く。一緒に行く。」
そう言いながら着替えを始める三田。
確かに肉巻きおにぎりもしっかり4個食べてたし、体調は戻っていそうだ。
「ならまあ…。マメに水分補給な。」
「大丈夫。ちょっと待ってて。」
そう言って三田は、2階の自室に行く為に階段を上がっていった。
「ああ。」
俺は三田の姿を見送ってから、汚れた食器を食洗機にセットした。偶然にも黒川さんちにある型と同じだから、操作はわかる。そして、その作業をしながら考えた。
三限目は講義も被ってるけど4限は違うから様子も見てやれない。
月、水の出勤日なら、一度帰ってさっと身支度してから家の近所で送迎車に拾って貰うんだけど、金曜日は大学の近くに迎えに来てもらって、車に積んであるジャケットを羽織り、パッと見の身なりを整えただけで行く。ホテルのフロントやロビーを通過するのに不自然じゃない程度の服装だ。何故なら、どうせ高確率で1時間以内に着替える事になるから。その際、着替える前にシャワーを使わせてもらう事もあるし、そのまま着替えだけをする事もあるが、とにかく行けばクリーニング済みのスーツも何着か置いてあるし、新しい服が届いている事もある。で、それらに着替えて外に食事に出かけるか、部屋着に着替えて部屋に運ばれてくる食事を一緒に食べるかのどちらかだ。一の谷さんの日は借り切りで時間に余裕があるからこそ出来る事である。
セレブすげー。
一の谷さんの豪気な遊び方は置いといて、つまり何が言いたいかと言うと、昨日みたいに一緒に付き添って帰ってやれないという事だ。自己責任で巻き返しの出来る授業とは違って、お客さん相手である仕事はすっぽかせないから…。
……と、そこ迄考えてハッとした。
いや俺、何でこんなに三田の事気にしてんだろ。
三田=あっくんで、昔も今も俺の事がすごく大好きなのはわかったけど、俺は別に…。三田だって、あの頃みたいに子供じゃない。体に異常を感じたら、酷くなる前に自分で対処するだろう。第一あいつの周りには取り巻きだってたくさん居る。俺が気にしてやらなくたって、その中の誰かが放っとかないよな…。
作業を終えて手を濯いでいたら、三田が下りてきた。胸の辺りに英語でロゴの入った、ゆるっとした白Tシャツにカーキのカーゴパンツ。ブランドの黒いキャンパストートを肩から掛けて、それでも何時もよりユルめに気を抜いたようなカジュアルなスタイルだ。髪もノーセット。前髪下りたままだと元々の髪の艶がわかるんだな、と見ていると、どうしたの?と三田に聞かれた。
「いや、髪、良いのか。」
「髪?」
「何時もみたいにセットしないの?」
俺の言葉に、三田は前髪を一筋指で摘んで何か考えている様子。暫くそうしてて、おもむろに口を開いた。
「ゆっくんはどっちが好き?」
「え、何で俺?」
突然よくわからない選択肢を突きつけられ、戸惑う俺。しかし三田の下睫毛…じゃない、視線の圧が強いので、答えない訳にはいかない。
「…まあ、たまには前髪サラッとしてるのも良いんじゃない?」
「マジ?」
「うん。」
「ならこれで行こ。」
玄関手前にある姿見の前で髪を手櫛でチョイチョイと直す三田。良いのか、俺なんかの意見で適当に決めちゃって。
俺は地味な普通顔だから常日頃の前髪下りたスーパーナチュラルヘアでも、バイト時にスーツに合うようにワックス使ってやや流したスタイルでもそう変わり映えはしないが、顔面偏差値激高な三田は違う。
下りてりゃ下りてるで、軽めにカットされた前髪の隙間から覗く形の良い目の綺麗さが際立って、雰囲気も一気に少年ぽくなる。
歳上のお姉様達が放置しておけないタイプの美少年が爆誕してしまってる。このまま行ったら取り巻き達による争奪戦が始まったりして…。
リビングのソファに置いていたリュックを右手で持ち上げながら妙な想像をして、はは、とぬるい笑いを漏らす俺に、三田は言った。
「ゆっくんが好きな方にしたいんだ。俺が気を惹きたいのは、ゆっくんだけだから。」
「…。」
「アイツ…刈谷なんかに、負けねーから。」
「かり…え、お前、ミズキに対抗心を?」
「だって昨日、アイツゆっくんに告白してたじゃん!」
あ、そうだった、と思い出した。それで乱入して来ようとしてぶっ倒れたんだよな。すっかり忘れてた。そして、ミズキにも三田がどうなったのかを連絡してない事も思い出した。
…まあ、いっか。ミズキは三田を敬遠してるっぽいし、それに三田がこんな調子だから、これからも接触しない方が良い気がする。でも一応、ミズキのアレは告白とは言いきれない事は三田に伝えとかなきゃならないだろうと、俺は口を開いた。
「あのな、ミズキのアレは別に告白って事じゃないと思うぞ。」
「え、ゆっくん本気で言ってる?」
「え?」
「男がタダの友達にあんなに面と向かって好きとか普通言わないからね?」
「……そうなのか?」
そんなの、まともな経緯で友達が出来た事が無い俺には、よくわからないんだけど…。
…あれ?まさか、それでコイツ…。
「とにかく、あのヤローは油断ならねえ。絶対2人になんかさせねえ。」
「…あ、そ…。」
取り敢えず、三田がすごく元気になったって事は、良くわかった。
25
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる