超高級会員制レンタルクラブ・『普通男子を愛でる会。』

Q矢(Q.➽)

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50 埋められぬ価値観の差

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人は疚しい時にこそ笑うのだと、何かで見た事がある。笑顔は相手に踏み込ませない為の防御癖だって。
俺も、それはその通りだと思っていたけど、それを今日程に実感した事は無い。




テレビを無音にしたら室内はいやに静かで、俺がカフェラテを啜る音がいやに響いた。


「友達…。」

「はい。よく講義は被るから、何時の間にか顔見知りになって。」

それで、グイグイ距離を詰められて、告白されて、キスされて、実は幼馴染みだったっていうテンプレ展開が発覚したばかりです。…とは、俺の胸の内だけに留めてだな…。

「そうなんだね。」

「彼は人見知りしない人で、誰とでも仲良くしてるから…。」

暗に、俺だけが特別仲が良いのではないという含みを持たせたつもりだった。
三田が社交的なのは事実だし、嘘を言ってる訳じゃない。それなのに自分で言ってて気が重い。一ノ谷さんにも、三田に対しても罪悪感を感じる。別に、告白やプロポーズをされただけで、未だどちらとも付き合ってる訳でもないのにまるで浮気でもしてるみたいな気分だ。変なの。
こんな俺の曖昧な笑顔は一ノ谷さんの目にどう映ってるんだろう。何か怖い。

「昨日は本当に成り行きというか。三田が倒れた時に、たまたま周りに知り合いが俺しかいなかったから放っとけなかったってだけ。」

実際にはもう一人居るには居たけど、そのミズキは救急車を呼んだ後は大学に戻ったし、わざわざ一ノ谷さんに言わなくても良いだろう。


「そういう事だったんだ。優しいね、ユイ君は。」

俺の言葉をどれだけ納得してくれたのかはわからないけれど、一ノ谷さんはそう言ってくれた。

「それなのに変に勘繰っちゃって…。ごめんね、ユイ君。自分の余裕の無さが恥ずかしいよ。」

「そんな、やめてよ圭人さん。頭上げて。」

しょんぼりした顔でそう言って頭を下げられて慌てる俺。たまたま三田といた俺を見掛けただけで、不安から1つだけの質問をしただけの一ノ谷さんは悪くない。俺を好きになってくれた三田もミズキも黒川さんも悪くない(天堂さんその他は除外)。悪いのは、人の真摯な気持ちを受けといてどっちつかずで気を持たせたままの俺一人だけだ。

それにも、何時かは答えを出さなきゃいけないんだろうけど、人の気持ちより自分の打算の方が未だ重い今の俺にそれは難しい。

「明日、鰻楽しみだなぁ。」

これ以上一ノ谷さんのしょんぼり顔を見ていたくなくて、わざと急に話を変えた。すると一ノ谷さんはパッと顔を上げて、嬉しそうに言う。

「そうだね。
あ、そうだ。その前に買い物に行く?それとも何処かの外商さん呼ぼうか。そろそろ誕生日だよね。」

あちゃ。一ノ谷さんが俺の誕生日を思い出してしまった。いや、多分ずっと覚えてくれてて、いうタイミング図ってただけなのかもしれないが。昨日の母さんの言葉を思い出す。そっか、そうだったよな、誕生日。で、三田と同じ日なんだっけ。

三田、今後ちゃんと飯食って寝てるんだろうな?
…いや、もう三田の事は置いとくんだ。今は一ノ谷さんに集中しろ、俺よ。

「あ、そうだった。うん、なら一緒に買い物に行きたいかな。」

去年、出会って間もない頃の誕生日やクリスマスの時みたいに百貨店の外商さんを呼ばれたら、またウン百万の時計やら似合いもしない貴金属なんかを延々と見せられて、商品説明を数時間聞く事になる。そんな苦行を繰り返す事を避けるべく、俺は外出での買い物を選んだ。遠慮したって無駄なんだから、どうせなら自分が欲しい物を買って貰う方が良い。

「ちょうどイヤホンが欲しかったんです。嬉しいな。」

「…イヤホン?」

「こないだ片方聴こえなくなっちゃって。」

「そっか。なら見に行こっか。」

「やったー!」

俺は特に音に拘りがある方ではないから、適当なのを選んで買って使っていた。何ならコンビニで買った事もある。公共交通機関の利用中や歩いている時には必要だし、無ければ不便に感じるから、使わなくても常備はしておきたい。
一ノ谷さんがバースデープレゼントに買ってくれるのなら、思い切って3万くらいする高めの良い物を選んでも良いかも…。そう考えて浮かれた。罰当たりって言われそうだけど、バカ高いスーツやら靴やらより嬉しい。だって、そういうのって仕事の日にしか着ないし、就活で着るには品が良くて洒落過ぎてて、富裕層でもない一般家庭の平凡顔息子である俺には不相応だと思われて浮きそうだ。いや、就活する予定は今の所無いけど。
とにかく、俺にはちょっと良いイヤホンくらいで頗る嬉しいって事だ。

それからは何時ものようにまったりとじゃれ合って終了時間迄過ごし、帰宅した。
そして翌日、俺の希望で訪れた家電量販店で、希望したイヤホンと共に、思いがけずスペアの品も一緒にプレゼントされた。

因みに俺の選んだイヤホン、約3万円。
一ノ谷さんオススメのスペア用イヤホン、約15万円。
スペア用がメインより高いなんて聞いた事が無い。逆では?普通、逆では?

相変わらずセレブの価値観はよくわからない。


因みにその後食べた鰻重と白焼きはめちゃくちゃ美味かった。




















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