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72 祝 相談役兼友人就任
しおりを挟む俺の話を聞いていた一ノ谷さんは…。
「そっか、そんなに早く…。」
と言葉を失っていた。少しの間、部屋の中は沈黙が流れ…暫くして、一ノ谷さんはポツリと呟いた。
「なら、あと半年ちょっとしか会えないんだね。」
「へ?」
思わず間の抜けた声が出てしまったのは、まさか一ノ谷さんが続けて俺を呼ぶとは思っていなかったからだ。ガチガチの指名だったからこそ、他の誰かに気持ちを持ってれた俺の事はもう呼ばないだろうと…普通、思わないか?
「あの…辞める迄指名継続していただけるんですか?」
「そりゃ…え、駄目なの?あ、迷惑かな…。」
「いや、まさか。俺はありがたいですけど…。」
あ、そっか。もしかして、サービス面の質を落とすの言ってないからか、と気づいて説明を足す。
「あの、でも…もう裸のお付き合いは、ちょっと…。」
言い難いんですが、というニュアンスで申し訳無さげに言ってみる俺。でもこれで通じたのかイマイチ自信が無い。ハッキリ言うべきだろうか、と思った時。
「裸の…。ああ、そうだね。お風呂とか、もう不味いよね。そういう相手が居るなら、それは仕方ないか…。」
あっさり頷く一ノ谷さんにホッとする。でも物分り良過ぎない?拍子抜けしてしまったぞ…。
「…それでも大丈夫、ですか?」
俺が確認の為にそう聞くと、一ノ谷さんはしっかり俺の目を見て頷いた。
「だって、そもそもお風呂とかお触りって強制じゃないし、本来サービスには含まれてないものだもんね。あれって、僕の我儘に付き合ってくれてただけでしょう。」
あ、一ノ谷さん、ちゃんとわかってくれてたんだ…。
何となくほっと和む俺に、一ノ谷さんは言った。
「僕、"普通"の子達が本当に好きなんだ。変に取り繕ってないし、見てて本当に可愛くて安らぐ。ユイ君に出会う迄、呼んだ子は何人もいたけど皆良い子だったよ。その中でもユイ君は…何て言ったら良いのかな。特に気遣い屋で優しくて、僕の望みを出来るだけ叶えてくれようとしたよね。だからつい、甘えてしまったんだなあ…。」
7つも8つも歳下の子にみっともないよね、と苦笑する一ノ谷さん。
この人が俺達みたいなのを愛好する理由って、まさにその言葉に凝縮されてる気がする。見てて安らぐ。一緒に居て安らぐ。触って安らぐ。それって、犬や猫がその辺で欠伸や毛繕いしてるのを見たり毛並みを撫でて和むって心理と似てんじゃないかと俺は思う。
だから本当に俺に性欲を感じてたとも思えないんだ。
一年を通して多忙な両親には殆ど会えず、唯一の友達とも距離が離れて、戻ってきてもなかなか会えず。
只々、この人は、この人の中に溢れるたくさんの愛情の行き場を探していた。そんな気がする。
そして、たまたま出会った俺に、それを向けてくれた。でもほんとは孤独なこの人こそ、もっと愛情を注がれる事を求めていたんだと思う。
なのに実際は、求めていたものはずっと近くにあったんだって気づいてテンパってるんだろうな。
これからはきっと、男鹿がこの人の望むものを嫌という程与えていく筈だ。
「一ノ谷さんの優しさに甘えてたのは俺の方ですよ。この店に入って、一ノ谷さんに出会えて俺は幸せだと思ってます。只の大学生が足を踏み入れられないような世界をたくさん見せてもらったし、学ばせてもらったし、たくさん助けてもらいました。でも、それに引き換え俺が返せる事はとても少なくて。だから少しでも楽しんでいただきたかったんです。」
「ユイ君…。」
そう…だから俺は王子にもアベレー神にもなった。そして、慣れた。……いや、嘘。やっぱりアベレー神は今でもきつい。
そんな俺の頭の中の事を知るべくもなく、ちょっと感極まった風に目を潤ませる一ノ谷さん。あ、ダメだこの人チョロすぎる。
……今人差し指で涙拭った?
「ユイ君。やっぱり僕、君の事が好きだよ。恋愛ではないのがわかっても、助けになりたいしこうして話をしていたい。
これからも一緒に食事したり、買い物したり、僕の話を聞いて、僕にも色々聞かせて欲しいって思うんだ。
そういうのって、何て言うんだろう。」
吹っ切れたように表情が明るくなって、そんな事を言うこの人は、やっぱり浮世離れしてて心が綺麗だと思う。
こんな可愛い人をずっと隣で見てりゃ、そりゃ愛さずにはいられないよな、男鹿よ…。
「そうですねえ。そういう関係ってのはきっと…、」
恋愛抜きで飯食って買い物してダベって、ってのはつまり……
「年の離れた友達ってとこですかね。」
「友達…!」
あれ、何か俺にプロポーズしてきた時より輝く笑顔。
「友達…友達かあ。ならユイ君は、僕の人生2番目の親友だね!!
ん?でも男鹿は親友じゃなくて恋人になりたいらしいから…あれ?男鹿はどうなるんだろう?」
どうやら自分の中での男鹿の扱いに迷いが生じて来た様子の一ノ谷さんが、んん?と首を傾げ始めた。
「そ、そうですねえ。取り敢えずは親友兼恋人って事で、兼任してもらえば良いんじゃないですか?」
笑いを堪えながら提案したら、一ノ谷さんがハッとしたように俺を見た。
「…なるほど!冴えてるね、流石はユイ君。その案いただき。」
「……良かったですぅ。」
「じゃあ男鹿はそうとして、ユイ君は僕の親友兼相談役だね!」
「し、親友兼相談役…。」
取り敢えず、俺は一ノ谷さんの中では一先ずそういうポジションに落ち着いたようだ。
神から親友兼相談役って、喜ぶとこで良いんだよな?
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