ちっちゃいもふもふアルファですけど、おっきな彼が大好きで

Q矢(Q.➽)

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ベッド横のカーテンを開けて、入ってきた奴の姿を確認した。
やけに背の小さい、中学生みたいに幼なげなふっくらした頬をした、くりんとまん丸い目をした男子。茶色くて短い髪、頭には白い毛のふわふわ生えた耳。
あまりに可愛くて思わず見蕩れてしまったその生徒は、俺と同じ獣人だった。

彼からいい匂いがしたんだ、とても。強い力で心臓を掴まれてしまったような、なのにどこか懐かしいような。
どんな言葉で言い表せば伝わるだろう?爽やかなグレープフルーツに似た香りに、甘い蜂蜜を垂らしたような…、妙に安心するような。こんな匂い、知らない。なりは小さいけど、アルファ…。

カーテンを開けて匂いがより濃厚になっても、他のアルファの匂いを嗅いだ時みたいに気持ち悪くなんか全然ならないんだ。逆に、さっきまでの胸のムカムカがスッと引いた。他のアルファとは違う、俺好みの匂い。
しかもそいつの目を見た瞬間に、わかった。

このアルファが俺の運命だ、って。
そいつもそうわかったに違いないと思った。のに…。

最初、俺を見たその男子生徒はぶわりと耳と尻尾の毛を逆立てた。自分よりも強い生き物を恐れるのは、生き物としては正常な反応だ。みんな、そうなる。

が、少し会話を続けていたら、徐々に警戒が解かれていくのが伝わってきた。獣人は獣性を持っている。でも人間としての理性も同時に持っているから、普通は獣の本能のままに相手を襲ったりはしないと皆わかってる。中には乱暴な奴がいない事もないが、それは純人間だって同じ事だ。だから獣性への反応は単なる条件反射なのだ。時間が経てばおさまっていく。

俺は男子生徒に恐怖を与えないように優しく接した。
そして、徐々に反応を解いたその男子生徒は、紙で切ったという指先を俺の目の前に見せ付けてきた。可愛い。
親戚の小学生の言動を思い出して頬が緩んだ。

でも、時間が経つ毎に俺は妙だなと思い始めた。
同じ室内で、しかも至近距離で話してるのに、その男子はケロッとしてるんだ。
確実にアルファの筈なのに、俺のオメガのフェロモンに反応してないように見える。俺の顔に時々見蕩れたりはするものの、何かを耐えてるって感じは全く無かった。欲情してそれを隠せるようなタイプでもないだろうし、本当に何も感知してないって事か?と、俺は内心とても混乱した。勘違いだったのかと。

でもずっと彼からはあの香りがしてた。小さな手の指を手当てしているその瞬間も。指先とはいえこんなに接触しているのに何も感知されないなんて、そんな事有り得るか?俺はこんなにも心を乱されているのを悟られまいと頑張ってるのに。

少し、プライドが傷ついた。だから耳をモフってやったんだ。強制的に俺を意識させられるかと思って。

そんな邪な動機でそいつの耳に触れた指先や手のひらは優しい柔らかなぬくもりを俺に伝えてきた。ふんわりと包み込まれて落ち着いていくような感覚だ。
触れたというのに、さっきまでの混乱もなりを潜めていく。
危ないところで抑制剤が効いたのだろうか、と思った。
名前を聞いて、それを胸と頭に刻み込んだ。彼が教室に戻っていって、俺はまた保健室に1人になった。ベッドの中で、これから ずっと呼ぶ事になるその名を唇にのせてみた。

「よしだ、らんた…らんた」

どんな字を書くんだろうか。やっぱり嵐太?いや、蘭とか…ないだろうな。まさか乱…きっと違う。嵐だろうな。今度会ったら聞いてみよう、と彼の耳を撫でた手のひらを嗅いだ。

彼の匂いがして、嬉しい。

俺は、都市伝説と言われる運命の番の存在なんて、1ミリも信じてなんかいなかった。なのに、出会ってしまった。あんなにハッキリわかるものなんだな。
しかも、俺のアルファ、すごく可愛い。
あんなに愛らしいアルファ、滅多にいないんじゃないだろうか。俺は超ラッキーだ。自分と同じような体躯の男臭いアルファを相手にしなくて良いなんて。

吉田 嵐太の可愛らしい外見は、実は可愛いもの好きの俺のタイプど真ん中だった。


そして、運命に出会ったお陰なんだろうか。
その日から俺のオメガホルモンは安定し、徐々に体調も落ち着いた。不安定だった抑制剤の効果もきちんと発揮されるようになり、まるで以前のような普通の生活に戻ったようだった。
自分のアルファと巡り会う事が、これほどまでにオメガに安心感を与えてくれるとは思ってもみなかった。

大事をとって休んだ週末、ベッドでゴロゴロしながら、俺は嵐太に会いたくて会いたくてたまらなかった。
今までこんなに誰かに会いたいと思った事なんてない。やっぱり彼は俺のアルファなのだと確信した。

でも何故あの日、嵐太は俺のオメガフェロモンに気づかなかったんだろうか?

覚醒したばかりで嗅覚が鈍い?まだ未熟だからか?
それとも、何か他に理由があるのか…。

寝っ転がったまま、白い天井を見つめて覚えたての名を呟いた。

「吉田、嵐太…」

誰にも取られないように、俺のフェロモンも獣臭もねっとり纏わり付かせておいた。あんなに小さくて可愛いんだ、他のアルファやベータだって欲しくならないとは限らないだろ?
オメガだってマーキングくらいして良い筈だ。

頭を撫でた時、ぽかんと俺を見上げた時の顔が思い出されて、つい唇が綻んだ。


ああ、何でも良いから早くお前を俺のものにしたいなあ。



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