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「番…番か。そうだな、それが一番良いかもしれないな。」
猫先輩の顔を見て、顎に手を当てて考えるコアリクイ会長。猫先輩の目は更にキラキラだ。
「ほんとっ?!ほんとに?嘘じゃない?」
「ああ。…それに、光一郎の匂いは悪くない。俺が好きなアボカドの匂いだし。」
「「「アボカド…。」」」
オメガフェロモンがアボカド臭って言われた猫先輩も聞いてた僕らも微妙な気持ちになった。でもその時、『フェロモンは相性が良いほどその人の好物の匂いとして感知する』って言ってた石雲先生の言葉を思い出した僕は、コアリクイ会長に質問してみた。
「会長は一番好きな食べ物ってあります?」
「一番?そうだな…アボカドとヨーグルトだな。」
良かった。アリとか言われたらどうしようかと思った。やっぱ獣人化して長いからご先祖様達とは少し食性が変わってるんだな。…って、アボカド!!?
パッと猫先輩を見ると、すごい真っ赤になってる。でも会長は自分が何を言ったのか、やっぱり気づいてない。
(なあんだ、とっくに両想いだったんだね。)
気づいてないのはニブチン会長だけだったんだ。僕とみずき君は顔を見合わせて笑った。
その後、何でそんなにコアリクイ会長の事が好きなの?って聞いた僕に、猫先輩は恥ずかしそうに答えてくれた。
コアリクイ会長はああ見えて(?)結構モテるんだそうだ。小さい頃から人一倍正義感が強くて、困ってる人を見るとすぐ手を差し伸べる。獣人の子あるあるで小学校の頃まではすぐに獣姿に戻っちゃう事が多かった猫先輩は、ずっといじめられっ子だった。だからいつも、幼馴染みのコアリクイ会長に助けられていた。猫先輩を庇って威嚇ポーズを決めるコアリクイ会長はいつでも凛々しくてカッコ良い、猫先輩のヒーローだったんだって。ちょっとおじいちゃんみたいな性格だけど、優しくて、男子にも女子にもモテていたそうだ。
そう聞かされて僕とみずき君はコアリクイ会長をまじまじ見つめた。ぬぼーっとしてるけど、確かに顔もスタイルも悪くないし、中学からずっと生徒会長だったらしいし、成績優秀者の証のSクラスだし、何気にスペック高い。僕も人の事言えないけど、腐ってもアルファって事かな。
さりげなくモテるコアリクイ会長にヤキモキしながら中学時代を過ごした猫先輩は、頑張った甲斐あって会長と同じ岩清水男子高等学校に合格する事に成功。男子校に進学して、ライバルが減ったと少し安心してたのに、今度は他校の女生徒がコアリクイ会長に告白する為に校門出待ちを始めてしまった。気が気じゃなくなった猫先輩は、その度にそんな女の子達の邪魔をしたんだって。
『あっくんは俺と婚約してるから!』
撃退のセリフがこうだったから、何時の間にか猫先輩には婚約者がいるって広まったらしい。
…まあ実際は、その時点でそれは猫先輩の希望でしかなかったんだけど、時を経てホントにコアリクイ会長の婚約者のポジションを手に入れたんだからすごいね。こういうの、何ていうんだろ?
継続は…いや、石の上にも3年?猫先輩は10年は片想いしてたって言うから、石の上にも10年かな。
猫先輩はすごく焦ってたんだろうな。自分がオメガで、コアリクイ会長はアルファで、結ばれる可能性が出てきたけど、好きって言っても、身内的な感じに取られて失敗しちゃうし、誘惑してみても、自制心の塊みたいな会長はフェロモンに惑わされてもくれない。このままじゃ、コアリクイ会長がどっかのオメガの告白でその気になって、自分から離れてっちゃうんじゃないか…猫先輩はずっと不安だった。それで、せめて気を引きたくて、構ってほしくてあんな迷惑行為をしてたんだ。
多分、よく聞く拗らせってやつだよね。何度も好きって言われてるのに真に受けなかったって、これ、やっぱりコアリクイ会長も悪いな…。
何か猫先輩が気の毒になってきた。でも、その1ヶ月くらい後に、またコアリクイ会長と猫先輩がお昼に中庭に来て、
『婚約した。』
って報告に来てくれたから、納まるとこに納まって良かったなって思った。
入学当初に聞いた噂では、2年のオメガは猫獣人の先輩だけで、『上級生の3人のオメガは全員婚約者持ち』って噂は、ホントは違ってたけどホントになったって事だね。
1年唯一のオメガのみずき君にも、僕という恋人が…あれ?番婚を約束してるから、僕らも実質婚約者なんじゃ?
その日の帰り、手を繋いで歩きながら、みずき君にその辺のところを聞いてみた。そうしたら、
「そうだな。番前提で交際してますってお互いの親にも言ってるもんな。」
って返ってきた。だよね。やっぱそうだよね。
(僕はみずき君の婚約者…。)
何だかむず痒いような気持ちになる。婚約者って、番の手前、恋人以上だよね。えへ。
(婚約者かあ…。)
婚約者といえば、やっぱ指輪だよね。今日婚約報告に来た会長と猫先輩の左手にも、指輪が光ってた。
『親に借金だ。』
って、会長は笑ってたけど…幸せそうだったな、猫先輩。
(僕も、何か…。)
「う~ん…。」
「ラン?どした?」
僕は腕組みをして悩んだ。みずき君は心配そうに声をかけてくる。
「いや、コアリクイ会長と猫先輩、嬉しそうだったね。」
「そうだな。もう少し早くくっついててくれたらとは思うけどな。マジ迷惑だったし。」
「まあまあ。」
キス事件を根に持ってるみずき君には、あれは野良猫に鼻チューされたと思いなさいって言い聞かせてるけど、たまにやっぱり毒を吐かずにいられないみたい。あの後何度もキスしてるからもう僕で浄化済みだと思うんだけどなー。
「でも、ホントに良かったよね。」
「そうだな。」
みずき君は笑って、繋いだ手をきゅっと握りしめてくれた。もう夏だから握ったら手汗が半端ないんだけど、気にしない。
だってみずき君は汗だってリンゴの良いにおい。
夕方近いのに、どこからか蝉の声がする。
もうすぐ夏休みなんだなあ。
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