‪愚鈍な‪α‬は無敵のΩ(俺)に膝を折れ

Q矢(Q.➽)

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望むのは誰か

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「えっ」

驚いた。

今迄、自分が申告する迄気付かれた事なんか無かったのに。
事実、この佐古だってこの前も気づかなかった。


「何か前と少し違うけど、してるよ。匂いが。
でも、俺達に宛てた匂いじゃないってのは、わかる。
だから寄ってこないのかもな、皆。」


事も無げに言われて、戸惑う。

「でもま、チャレンジしてみるくらいは良いかなって思ったんだけどさ。」


「…何を言ってるんだ?」

イレギュラー過ぎる自分が言うのも何だが、発情したΩの匂いは本来、‪不特定多数のα‬という性を惑わせるものの筈だ。理性を奪い、時には危険行動さえ誘発する。
それを理解しているからこそ、フェロモンを最小値にも最大値にもコントロールできるように自分なりに訓練したのだ。

普通のΩには出来ない芸当が出来るようになったのは、やはりイレギュラーな才覚故だろうと思う。

しかし、番を結んだ訳でもない限り、宛先を限定出来るなんて事があるだろうか?

しかも、宛てる相手って…。


「…宗像さあ…、」

何時に無い冬弥の戸惑い顔に、佐古は興味津々といった感じでテーブルに乗り出して聞いてくる。


「誰か、好きな相手でも出来た?番にでもなったりした?」

「…なってないし、いない。」


そんなものは。


「そう?急に匂い出したりするからさ。…まあ、番になってたらそんな匂いさせてる訳ないか…。」

とは言いながらも何処か納得いかないような顔で、再びパフェグラスの底のチョコが染みたスポンジをつつき出す佐古。


「でもさあ、」

佐古がチラリと冬弥に視線をくれる。


「恋してる男の顔してるよ、宗像。」

「…そんな訳、あるか…。」


恋?

俺が?


有り得ない。

そんな感情は知らない。


顔を歪め涙を湛えた遊佐の瞳が脳裏を掠めて、冬弥はそれを振り切るように立ち上がった。


「…もしお前の言う通りなら…、万が一、ヒートがコントロール出来なくなったら面倒だ。今日は帰る。」

「…そっか。それが良いかもな。」

佐古はそう言って、唇についたチョコの汚れを、今度は行儀良く備え付けのティッシュで拭いた。そして、


「宗像も人間なんだな。」


と 笑った。




ーーーーーーー





(有り得ない…)



家に戻り自室に篭って間も無く、抑制剤の効かない本格的なヒートが来た。

冬弥にとっては初めての体験だ。

発現してからこっち、味わった事の無い獰猛なヒートだった。

但し、やはり聞いていた通常のΩのヒートとは違うように思う。

冬弥のΩの部分は初めて濡れたし、狂おしく‪α‬の男性器を受け入れたいと望んだが、同時にオスの部分は 相手をめちゃくちゃに犯し孕ませたいと猛った。

そして、その対象は遊佐しか思い浮かばなかった。

そんな筈は無いと、自身のペニスとアナルを余裕無く乱暴に手指で慰めながら何度も首を振って掻き消した。

そんな筈は無い。
平常時の自分は子供を産む事など望みはしないし、‪そもそもα‬である遊佐は孕みなどしない。

自分は誰も望んでなんかいない。

俺は遊佐の番では無い。
恋人にすらしてやれなかった。


なのに思い出すのは遊佐の匂いや遊佐の何気無い仕草ばかり。
遊佐と関係を持っている時に、同時進行で抱いた‪α‬だっていたのに 何故だ。
何故、よりによって 運命の番が現れたばかりの、遊佐なのか。

運命の番とやらを得た彼は もう自分を必要とはするまい。


そんな時になって初めて、遊佐を望む事になるなんて。

Ωとして‪α‬を望む事になるなんて。



冬弥は初めて、自分自身のΩ性を呪った。





       ーーーーーーーー




遊佐は迷っていた。


冬弥に連絡を、したい。


運命の女性とやらからはうるさい程に連絡が来るのに、つれない想い人からはあれからひとつの連絡も無い。

確かに冬弥の返答に失望して、黙って帰ってしまったのは遊佐だが、追って来ないのは仕方ないとしても様子くらい伺ってくれても良いのではないか…。
年甲斐もなくしょんぼりしてしまう。

冬弥の事になると十代の頃に戻ったように感情が揺らされてしまう自分を、遊佐は自覚していた。



追い詰められた遊佐は、いっそ命の番である女性と、寝てみようと思った。

運命の番に対する本能は意思も理性も凌駕すると言われる。
それに従い番になれば、冬弥を忘れられるのでは、と思ったからだ。

ところが。


確かに 繋がらねば、という焦燥感はあるのに、肝心のモノが肝心な場面で役に立たず、萎えていた。有り得ない事だ。

遊佐の体はとうに冬弥に懐柔されていたのだ。

本能すら冬弥には勝てなかった。

結局、番は結ぶ事は無かったが、相手の女性はそれでも諦めきれないのか、結構な頻度で連絡が来る。

だが、遊佐はそれを流した。

仲人の叔母にも、先方に断りをと頼んだ。

相手の女性は、運命の番なのにと騒いだが、遊佐が彼女を抱けなかった事については説明がつけられずにいたようだった。

運命の番ならば、そんな事は起こりえない事の筈だから。

所詮、運命と主張したところで、本人同士の間での感覚である。

片方が否定すれば、他人にはわからない。
遊佐は、運命を逃がすまいと必死な彼女に申し訳無いと思いながらも、気の所為だと謝罪した。


運命とはいえ、自分と結ばれさえしなければ、他の者と番にはなれる。
彼女は申し分無い女性だ。
良き番、良き妻になるだろう。
自分が相手ではなくとも。

彼女に惹かれる気持ちは今でもある。
しかし体は正直で、彼女に反応はしてくれない。
おそらく、一生。
いくら運命でも、そんな番に意味があるとは思えない。

彼女に非は無いだけに、申し訳無さに胸が痛む。

もし、冬弥より先に彼女に出会えていたら、現状は変わっていただろうか?



(…いや、無いな。)


おそらくそれでも、遊佐の心は冬弥に奪われていたのだろう。


しかし。



(アイツの気持ちが俺に向く事も、無かっただろうけど…。)



それでも、遊佐には彼女を選ぶ事は出来なかった。


例えこの先ずっと、冬弥に振り向いてもらえなくても。




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