8 / 36
8 1時間前に戻りたい屑。 (藤川side)
番ならば。
番になったならば。
一方通行ではなく、その相手と身も心も 熱烈に愛し合いたいと思うのは、当たり前だと思うんだ。
「運命と出会ってしまったんだ。申し訳ないけど婚約と番を解消して欲しい。」
俺がそう告げた時の、洸さんの表情は…。
特に、変わらなかった…。
しかも普通に了解されてしまった。
いや嘘だろ…?
明日もちゃんと講義出ろ?って…。
そんなカジュアルに流しちゃう話題じゃなくない?
曲がりなりにも俺達は番になって半年だよ?
裏切るのかと怒るなり…いやまあそういうタイプじゃないか…。
せめて、顔色変えるくらいはしてくれて良いんじゃない?。
榊との打ち合わせでは、何か一つでもリアクションがあれば、そこでネタばらしのタイミングって事になってた。
だが。
特に取り乱すでも怒るでも無く、必要事項だけを伝えて、ごく普通~に伝票を持って去って行く洸さんの後ろ姿を、俺は呆然と見送った。
(洸さんは俺に1ミリの興味も執着も無い…。)
嫌でも思い知ってしまった。
俺、手放されたんだ。
体中から血の気が引いて、脱力していく。
全身の毛穴という毛穴から、冷や汗。頭の中がぐるぐるして整理できない、座ってられない、倒れ込みたい。
仕掛けた自分が悪いとは言え、きつい。
他の人間に気移りしたと告げた俺を、あの人は こんなにも、あっさりと。
いつものように真っ直ぐ俺を見つめてきた瞳には僅かな揺らぎも無かった。
もう既に、
「ジョーダンでした~!」
のタイミングは逃してしまった。
横で榊が真っ青な顔をして俺を揺さぶりながら、
「追え!!」
と言ってくれているが、そんな気力が無い。
(あの人の中で、この半年の俺との時間ってどういうものだったんだろ…?)
始まりが悪かったから?
貴方が大人で俺が子供だったから?
違う。
あの人がΩで、俺がαだったから…。
結局、力関係の問題だったのかもしれない。
圧をかけたつもりはないが、αの“お願い”をΩが断れる筈が無いよな…。
意に沿わぬ番関係に付き合ってたけど、運命の番とやらが現れたからこれ幸いとお役御免、ってホッとされてたりして…。
やっぱ俺の事が重荷だった?
震える指で指輪の在り処を確認する。
大丈夫、2人を結んでいる絆は未だそこに在る。
……本当に?まだそれに意味はあるか?
「動けこの馬鹿!!」
カフェの店内に榊の声が響いた事で、喧嘩と勘違いしたスタッフが飛んできた。
店に迷惑はかけられない。
榊に支えられて店を出る。
体中の震えが止まらないのだ。
怖い。
「取り敢えず、誠心誠意謝るしかないだろ。悪いのは騙すような事をしたお前なんだから。」
外に出てもガードレールに腰掛けて項垂れたまま一言も言葉を紡げない俺の様子を見て、榊が溜息を吐いた。
通行人達の視線を感じるから顔も上げられない。
こんなみっともないα、他にいない…。
「俺も悪かったわ。こんな…番の信頼関係にヒビ入れるような事、協力なんてしちまって。」
違う。
最初っから信頼関係なんて無かった。
騙し討ちするように始まった関係なんだから。
「…あの人の中には、」
渇ききった声帯からやっと絞り出した声は、聞き慣れた自分のものではないように思えるほど、嗄れていた。
喉奥が癒着寸前なのかってくらいカラッカラに渇いて痛くて息がしづらい。苦しい。
「俺は、いない。」
迅速過ぎる遮断だった。
色々反応を想像してみていたけど、あんなのは予測してなかった。
追いたい。言いたい。
運命の番なんて嘘だって。
そんなもの、今どきある訳ないって。
そして、運命なんかより貴方の方が大切だって、土下座でも何でもして赦しを乞いたい。
でも。頭の中で、冷たく荒んだ目をした自分が言うのだ。
試すような事をした俺を、あの人が愛する事は、一生無い。
僅かに積み上げてきた親愛も信頼も、俺が壊してしまった。
馬鹿。
ほんの1時間前に戻りたい。
戻って、馬鹿な事を考えるなと自分に言ってやりたい。
気持ちを確かめたいなんてやめとけ、
そんな事してる間にもっと洸さんの為に努力しろって。
そうすれば、失わずに済む。
いやもうこの際、あの人の中に俺への愛がなくたって良い。
その分俺が愛する。
笑いかけてくれなくても構わない。
その分、俺が笑いかければ。
そばにいてくれるだけで良いわ。
足る事を知れる男だ、俺は。
…それだけで、良かったんだよな…。
勝手に悩んで落ち込んで、勝手な事して、今また勝手にぐるぐると。
榊の言う通りの本気の馬鹿だ。
(本当に、運命なんてものがあるのなら…
なんで俺達が、そうじゃないんだよ…。)
くやしい。
あんなにも嫌悪していた、運命の番 というものに、俺は初めて嫉妬している。
今、貴方を繋ぎ止められるものがあるなら、なんだって良いから欲しい。
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
3/7 完結しました!
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。