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12 進展する時はいつだって急。(藤川side)
風呂上がり、ある程度充電できただろうとスマホの電源を入れ、日付を見ると、あの日から1週間経過していた。
マジかあ…。
俺、随分な間腑抜けてたんだなあ。
小学校の頃に、飼ってた犬のクロスケが死んじゃった時以来のメンタル死だった…。
スマホを確認すると、メッセージアプリのアイコンバッジが見た事のない件数になっている。
榊かと思って開いてみると、予想通り榊が大半、別の友人達、両親、そして控えめな数字で、洸さん。
着信も結構な件数。
取り敢えず榊に、大丈夫。とだけ送ると 即返信が来た。
ーーバカタレ!!(ꐦ°᷄д°᷅)
………。
直後着信が来たが取らずに
ーー今取り込み中だからもうちょい後に電話するわ。
と返信した。
実際はまだ会話するほど声を出せないから。
ずっと寝ていたせいか喉がガラガラなんである。もう少し時間が経たないとマシな声が出そうにない。
洸さんからは
ーー落ち着いたら日程の打ち合わせをしましょうーー
そして、1時間前には、
ーー留守のようなので、帰ります。ーー
…うん、わかってたけど、マジで少な。
でも、音沙汰無くて既読も付かないのを心配してくれたのかなと思うと、嬉しかった。
一応まだ番なのに普通の知人レベルの文章だけどさ…。
あ、そうか…
俺が他の番相手…つまり、榊と一緒だろうと遠慮しての、このメッセージ数なのかもしれない。
待てよ…て事はつまり、洸さんの中では俺と榊がくんずほぐれつしていると思われてたんだろうか。
(………。)
不本意だけど、多分そうなんだろうな。
そう、絵を描いたのは俺なんだし。
誤解したままなんだから仕方の無い事だ。
それに、あの人にとっては 俺が誰とくっつこうが、そこには興味は無いんだ。
「…洸さん…」
綺麗な黒髪に囲まれた、白い小さな顔を思う。
伏し目がちな癖に、話す時には真っ直ぐに見つめてくる黒曜石のように輝く理知的な瞳を思う。
高くはないが綺麗に通った鼻筋を思う。
薄く形の良い、薄紅色の唇を思う。
きちんと男性の体でありながら、どこか頼りなく艶を帯びた肢体は、Ωゆえなのか、あの人だからなのか。
何処がどう感じるか、どう触れたなら悦ぶか。
もうすっかり、この手も唇も舌も、憶えてしまった。
今更他の人間の情報に書き換えるなんてできない。
セックスの後、髪を梳いてくれた細く長い繊細な指が恋しい。
ほんの僅かに目を細めて、少しだけ…ほんの少しだけ、唇の端を上げるだけの微笑み。
1週間、夢の中で幾度も反芻した幸せな時間。
けれど、俺が感じていた幸せが、そのまま彼にも反映されているとは限らない。
あの人は俺に振り回されただけなのだ。
(女々しい堂々巡り…)
自嘲の笑みが漏れた。
この期に及んで本当に俺は身勝手な男だ。
洸さんのトーク画面を開いて返信を打つ。
ーー連絡遅れてすみませんでした。
近々お伺いしたいです。
ご都合いかがですか?
打ち終わってスマホをテーブルに置いた途端に返信が来て、バイブにビクッとする。
洸さんにしては異例の速さだ。
ーー大丈夫。 実はさっき家に押しかけてしまったんだ。申し訳ない。
ふふ ほんの数回押して帰った癖に、押しかけた、だなんて。ほんとにこの人は…。
ーー今1人か?
返信しようとしたら向こうからもう一度来た。
ーーずっと1人ですよ。
ーー今家に帰っているなら、行って良いか?
(…びっくりした…。)
洸さんがウチに来た事なんて、初日を含めて2回しかない。
大学関係者に見られる事を警戒していたから。
一瞬、悩む。
ほんとに?嬉しい…
でも大丈夫だろうか。
でもせっかく洸さんが…
危機感無いのかな…
いやでもそういうんじゃなくて…
何だかゴチャゴチャ色んな葛藤がある。
何れは話し合いの場を持たなきゃなんないんだから、何処で話しても同じか…。
外の店で話せる内容でもなし、どうせどちらかの家になる。
2人きりがどうとかって言ってらんないよな。
ーー部屋にいます。
そう返すと、またすぐに返信が来た。
ーー10分で行く。
……じ、10分…。
散乱した部屋を見渡す。
立ち上がって窓を開け、換気しながらゴミ袋にゴミを纏め、急いで散らばっていた服を洗濯機に入れに行く。
窓を閉めてエアコンを入れる。
鏡で髪をチェックする。
ずっと寝込んでいた顔の草臥れ具合いは…仕方ない。
間もなくインターフォンが鳴った。
(…風呂入っといて、良かった…。)
心底、自分で自分を褒めた。
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