20 / 36
20 転機 (藤川side)
ーーご依頼の件で 至急御報告したい事がございます。
折り返しご連絡をお願い致します。ーー
定型文のような簡素なメールは、この数年、ずっと調査を依頼していながらも一向に有益な情報をもたらしてはくれなかった、さる調査会社からのものだった。
バスルームから出て直ぐにスマホを確認すると、これまでに見た事の無かった文章。
たった数行の文字に心が騒いだ。
メールを返すよりはと、リストから相手先を探し発信をタップすると直ぐに出た。
『お世話になっております、藤川様。』
「ご無沙汰しています。」
挨拶がまどろっこしく感じる。
「何かわかったんですか?」
逸る心を抑え、取り敢えずは聞いてみた。
『お探しの方と思しき方が…、いえ、おそらく御本人かと思われますが、』
相手は少し躊躇って、
『ご確認用の資料をお送りしても?』
と言う。
急いで鞄からノートPCを取り出し、
「どうぞ。」
と告げた。
間もなく送られてきたファイルに添付されていた画像に目を奪われる。
「……洸さん…。」
そこには、夜も日も明けぬほどに探し求めてきたあの姿があった。
髪を伸ばしてるんだね。
綺麗な髪だから、それも似合うよ。
眼鏡なんかかけるようになったの?
知的な感じが一段と増したな…。
少し、痩せた?
そんなデニムシャツなんか着てるの、初めて見たよ。可愛い。
思いの外鮮明に写っているその姿に胸を掴まれて、溢れ出してくる様々な想い。枯れ果てたと思っていた涙が溢れてきた。
あの頃の感情が鮮明に戻ってくる。
ああ、やっぱりこの人が好きだ…。
…ふと、彼と一緒に写っている人物に気がついた。
(――…子供…?)
訝しく見つめていると、受話口から声がした。
『画像は立川洸様でお間違いございませんでしょうか?』
「…間違い、ありません。」
やっとの事で答えて、それから聞いた。
「あの…この、一緒に写ってる…」
『それは、』
『立川様の、お子様です。』
「洸さん、の、子?」
ドクッ、と鼓動が重く鳴る。
え…、待って。待ってくれ、それって、もう洸さんには…。
『立川 葵くん、5歳。』
『立川様がご出産されています。』
(洸さんが、母親…。)
ショックに呆然として言葉を失う。
だが次に調査会社の職員が言った言葉は、俺に更なる驚愕を与えた。
『葵くんの父親は、藤川様だと思われます。』
「…え?」
息をのんで、目を見開く。
次のファイルに目を移す。
そこには、子供の顔写真が添付されている。明るい亜麻色の髪をした、やんちゃで活発そうな笑顔の子供。
色素の薄い瞳にも髪にも、強い既視感がある。それは藤川家のαに出る色だ。
思わず食い入るように画面を見つめた。
『立川様は6年前にこの街に居を移されたようです。その後何方かと住まわれたご様子もお付き合いされていたご様子もございません。』
「…ひとり…」
誰か相手が出来た訳では無かったのか。
じゃあ、洸さんはひとりでこの子を産んで、ひとりで育てて…。
だから、あの時 大学も辞めたのか?
いや、絶対にあの時にはわかっていたに違いない、5歳という事なら。
『立川様は現在、宮崎県の○○市に居住しておられます。ご職業は翻訳業を…』
九州!!?
まさかの調査報告にズルっと肘が滑る。
マジかよ、道理で関東圏や東北、関西方面までじゃ引っかからない訳だよ…。
『一軒家を借りて住まわれてらっしゃいます。』
「そうですか…」
どうしよう。
嬉しさ、愛しさ、驚き、色んな感情がない混ぜになって、何だか笑えて来てしまった。
流石洸さんだよ。
慎重かと思ったらいざと言う時は思い切った事をする。そんな遠くに、全部ひとりで持ってっちゃってさ。
ひとりで、産んで…ひとりで、、、。
俺の、子供を…。
気がついたら電話は切れていて、俺はずびずびみっともなく泣いていた。
俺に負担をかけまいと番を解除した人が、妊娠がわかったからって報せてくる訳が無い。
産む選択も、仕事を辞める選択も、姿を消す選択も、育てる選択も、全部全部、またひとりでさせてしまった。
故郷でもない遠過ぎる知らない土地で、ひとりぼっちで大きくなるお腹を抱え、どんなにか不安だっただろうか。
乳飲み子をひとりで育てるのは、辛くはなかったか。
苦労したんじゃないのか。
寂しくは、なかったか。
俺は今、死ぬほど貴方を抱きしめたい。
貴方に抗われても、抱きしめたい。
別れた番である俺の遺伝子を、姿を消してまで慈しみ育てる事を選んでくれた貴方のその行動が、愛じゃないなら何だと言うのか。
「…ありがとう、洸さん…。」
翌日、俺は急遽有給を取り午前中の飛行機に乗った。
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
3/7 完結しました!
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。