知らない内に番にされ婚約させられたにも関わらず、本日婚約破棄を言い渡されたが俺はそれを甘んじて受ける

Q矢(Q.➽)

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20 転機 (藤川side)



ーーご依頼の件で 至急御報告したい事がございます。
折り返しご連絡をお願い致します。ーー



定型文のような簡素なメールは、この数年、ずっと調査を依頼していながらも一向に有益な情報をもたらしてはくれなかった、さる調査会社からのものだった。



バスルームから出て直ぐにスマホを確認すると、これまでに見た事の無かった文章。


たった数行の文字に心が騒いだ。

メールを返すよりはと、リストから相手先を探し発信をタップすると直ぐに出た。


『お世話になっております、藤川様。』

「ご無沙汰しています。」

挨拶がまどろっこしく感じる。

「何かわかったんですか?」

逸る心を抑え、取り敢えずは聞いてみた。

『お探しの方と思しき方が…、いえ、おそらく御本人かと思われますが、』

相手は少し躊躇って、

『ご確認用の資料をお送りしても?』

と言う。

急いで鞄からノートPCを取り出し、

「どうぞ。」

と告げた。


間もなく送られてきたファイルに添付されていた画像に目を奪われる。



  


「……洸さん…。」

そこには、夜も日も明けぬほどに探し求めてきたあの姿があった。

髪を伸ばしてるんだね。

綺麗な髪だから、それも似合うよ。

眼鏡なんかかけるようになったの?

知的な感じが一段と増したな…。

少し、痩せた?

そんなデニムシャツなんか着てるの、初めて見たよ。可愛い。


思いの外鮮明に写っているその姿に胸を掴まれて、溢れ出してくる様々な想い。枯れ果てたと思っていた涙が溢れてきた。

あの頃の感情が鮮明に戻ってくる。

ああ、やっぱりこの人が好きだ…。





…ふと、彼と一緒に写っている人物に気がついた。



(――…子供…?)

訝しく見つめていると、受話口から声がした。

『画像は立川洸様でお間違いございませんでしょうか?』

「…間違い、ありません。」

やっとの事で答えて、それから聞いた。


「あの…この、一緒に写ってる…」

『それは、』

『立川様の、お子様です。』

「洸さん、の、子?」


ドクッ、と鼓動が重く鳴る。

え…、待って。待ってくれ、それって、もう洸さんには…。




『立川  葵くん、5歳。』


『立川様がご出産されています。』



(洸さんが、母親…。)

ショックに呆然として言葉を失う。
 だが次に調査会社の職員が言った言葉は、俺に更なる驚愕を与えた。


『葵くんの父親は、藤川様だと思われます。』



「…え?」



息をのんで、目を見開く。

次のファイルに目を移す。


そこには、子供の顔写真が添付されている。明るい亜麻色の髪をした、やんちゃで活発そうな笑顔の子供。

色素の薄い瞳にも髪にも、強い既視感がある。それは藤川家の‪α‬に出る色だ。

思わず食い入るように画面を見つめた。



『立川様は6年前にこの街に居を移されたようです。その後何方かと住まわれたご様子もお付き合いされていたご様子もございません。』



「…ひとり…」



誰か相手が出来た訳では無かったのか。

じゃあ、洸さんはひとりでこの子を産んで、ひとりで育てて…。

だから、あの時 大学も辞めたのか?

いや、絶対にあの時にはわかっていたに違いない、5歳という事なら。



『立川様は現在、宮崎県の○○市に居住しておられます。ご職業は翻訳業を…』


九州!!?



まさかの調査報告にズルっと肘が滑る。

マジかよ、道理で関東圏や東北、関西方面までじゃ引っかからない訳だよ…。


『一軒家を借りて住まわれてらっしゃいます。』

「そうですか…」


どうしよう。
 
嬉しさ、愛しさ、驚き、色んな感情がない混ぜになって、何だか笑えて来てしまった。
流石洸さんだよ。
慎重かと思ったらいざと言う時は思い切った事をする。そんな遠くに、全部ひとりで持ってっちゃってさ。

ひとりで、産んで…ひとりで、、、。
俺の、子供を…。



気がついたら電話は切れていて、俺はずびずびみっともなく泣いていた。



俺に負担をかけまいと番を解除した人が、妊娠がわかったからって報せてくる訳が無い。

産む選択も、仕事を辞める選択も、姿を消す選択も、育てる選択も、全部全部、またひとりでさせてしまった。

故郷でもない遠過ぎる知らない土地で、ひとりぼっちで大きくなるお腹を抱え、どんなにか不安だっただろうか。

乳飲み子をひとりで育てるのは、辛くはなかったか。  

苦労したんじゃないのか。

寂しくは、なかったか。



俺は今、死ぬほど貴方を抱きしめたい。
貴方に抗われても、抱きしめたい。

別れた番である俺の遺伝子を、姿を消してまで慈しみ育てる事を選んでくれた貴方のその行動が、愛じゃないなら何だと言うのか。




「…ありがとう、洸さん…。」





翌日、俺は急遽有給を取り午前中の飛行機に乗った。

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