一般人な僕は、冒険者な親友について行く

ひまり

文字の大きさ
表紙へ
49 / 101
連載

閑話 ルーカスの強制的土産話

しおりを挟む
 ルーカスは疲れていた。
 とても、とても疲れていた。

「急がせたみたいで、すまないね」

 すべては目の前のこの男のせいである。
 無駄にキラキラしい笑顔を心底殴りたいと思うが、それを実行に移すわけにはいかない。
 だが、頬が引きつるのも、仕方がない。

「いいえ、とんでもございませんとも」
「……それにしては、棘があるね?」
「いいえ? ちょっと不眠不休で馬車を飛ばしてきたから、疲れが出てるのかもしれませんね。ええホントに!」

 ――ギルドからの指名依頼を受け取ったのは、ちょうどサンドラス王国に入る手前の街。『早く帰って来い』とだけ書かれたその依頼に、のんびり観光しつつ王都まで戻ろうとしていた予定はすべて崩れた。
 通常ならいくら指名依頼と言えど断る権利があるのだが、この相手からの依頼だけは断るわけにはいかない事情が、ルーカスにはある。というか、自国の王族からの依頼なんて、まず断れるわけがない。

 そんな訳で家にも帰らず、真っ直ぐに登城する羽目になった。もちろん冒険者なので正門からではなく、裏口からではあるのだが、うっかり気に入られてしまったがために、うれしくもないが顔パスである。さらに言うと、裏口の門番からの同情の視線付きである。

 思わず遠い目をしつつ、通されたいつもの部屋で、ソファに腰掛け、ため息をついた。

「で、何が聞きたいんでしょうか、ヴァルフォルグ殿下」

 その言葉に、ヴァルフォルグはキラキラしい笑顔をふっと消した。

「もちろん、落ち人のことだ」
「あー、情報が早いことで」

 思わず苦笑する。

 冒険者ギルドから出される、落ち人に対する最初の依頼は、サンドラス王国からの永久的な依頼である。そのため、かかった経費や依頼料は、すべてサンドラス王国へと請求される。もちろん、どのような落ち人が来て、どの冒険者が依頼を受けたのか、という情報と共に。

「まさかギルドからの報告で、君の名前が挙がってくるとは思わなかったからね。とても幸運だ」

 にこやかに笑うその顔は、ルーカスから落ち人の情報を聞けることをなんら疑っていない。

 通常、冒険者には一定の守秘義務がある。もちろん依頼人に対して。だが、今回の依頼では、その依頼人は落ち人ではなく、そして冒険者同士での守秘に関してはそれぞれに任されていた。
 よって、ルーカスが話すことには、何の制限もなかった。

「あー、で、何を話せばいいんですか?」
「そうだな。名前や職業など、基本的なことは聞いている。なので、君から見た人柄と、スキルだ」
「……そうですね、まず2人の関係は親友だと聞いてますし、それは間違いないでしょう」
「ああ、それはこちらでも確認できている。見た目にはなかなかギャップがあって面白いと」

 確かに、やや小柄で大人しそうな聖と長身で目つきの鋭い春樹の組み合わせを最初に見たときは驚いた。そして、親友だということにもっと驚いた。
 まあ、それはその後のやり取りを見ていれば納得の一言ではあったが。

「ええ、それとハルキの職業などは聞かれてると思いますが、あれは強くなりますね」

 Aランクへの昇進を、面倒の一言で蹴り続けているルーカスの言葉に、ヴァルフォルグは、面白そうに笑う。

「それは君と同じくらい、と思っていいのかな?」
「同じ、もしくは上でしょうね」
「……それほどか」

 金茶の瞳が、驚いたように見開く。

「ええ、なにか剣術のようなことをしていたらしいですね。落ち人だから、というのもあるかもしれませんが、俺が教えたのは魔物の倒し方だけで、剣に関してはほとんど何もしてません」

 それに、誰だって魔物と戦うことには、恐怖と躊躇いがあるし、それを乗り越えるにもそれなりの時間と準備がいる。だが、春樹にそれがあったのは本当に最初だけ。見事なまでに意識を切り替えて見せた。

「あれほどの切り替えは、そうそうできませんね」
「そうか」

 その、何かを考えるように、顎に手をやる様子に、ルーカスは口を開く。

「ああ、ちなみに引き入れるのは無理ですよ」
「……理由は?」
「あれは首輪付きです」
「もう一人か? だが親友だろう?」
「ええ、でもそうなんです」

 ヴァルフォルグが、よくわからない、という表情を浮かべる。
 だが、それも仕方がない、とルーカスは思う。
 あれは実際に接してみないと理解できない。

「なんていうか、ハルキはヒジリをとても大切にしてるんです。もちろん逆も同じではあるんですけど……」
「では、ヒジリはどのような人物だ? 主夫という非戦闘職らしいが」
「なんていうか、こう、大人しそうに見えてそうじゃないというか」

 正直、困る。
 人当たりはとてもいいし、料理が上手い。そして。

「ああ、変わった武器を使いますね。英雄王の贈り物だとか」
「英雄王の?」
「ええ、本人は武器じゃないと言ってましたが、そこらで売ってる武器よりよほど強度がありましたね」

 確か、スーツケースとか言っていただろうか。
 軽々と振り回し、ルーカスの補助があってだが、確かに魔物を倒していた。
 ひょっとしたら、何かそういうスキルがあったのかもしれない。

「あ、そういえば」
「なんだ?」
「たぶんですが、ヒジリは『眼』持ちかもしれません」
「『鑑定眼』か!」

 ヴァルフォルグが驚くのも無理はない。
 鑑定眼はとても珍しいスキルだ。なにせそのレベルによっては、相手の手札がすべて見えてしまう。
 そのため、王族や貴族、さらには商人といった者たちが、こぞって囲い込もうと躍起になる。

「間違いないのか?」
「……おそらく、ですかね」

 初めて見る魔物やドロップ品が出たときに見せる、眼差し。何処かを見ているようで見ていない、そんな視線をさまよわせた後、決まって春樹に何かを伝えていた。

「……スキルの確認は出来なかったのか?」
「無理ですね。最初にスキルは秘密にするものだ、と教えましたので」

 冒険者としての決まりごとを教えるのが、依頼内容の1つだというのをわかっているのに、じどっとした目で見られた。

「……俺、悪くないですよね?」
「……ああ、悪くないとも」
「ええと、でも本人もわかってないと思いますよ? たぶん鑑定眼はたまたま発動したから分かっただけで、宝玉もないですし」
「だが、鑑定眼で見れるだろう?」

 まさか、とルーカスは笑う。

「あってもレベルが低いうちは、スキルは見れないでしょう?」

 特に『人』のステータスは自分も含めて、高レベルにならないと見れないというのが一般的だ。

「あ、ひょっとして落ち人って違うんですか?」
「いや、それはおそらく変わらないと思うが……」

 何やら思い当たることがあるのか微妙な表情をするのが、とても気になる。
 だが、どうやら話す気はないらしい。

「しかし、出来れば二人とも欲しい人材なんだが……、ヒジリは釣れそうか?」
「あ、それもたぶん無理です」

 あっさりと即答したルーカスに、ヴァルフォルグは何故か頭痛を堪えるような仕草をした。

「……理由は?」
「やー、なんていうか理由って理由はないんですけど、いうなれば勘てやつですね」
「……そうか」

 疲れたように笑って、そういえばと口を開く。

「……変なことを聞くが、ダンジョンの安全部屋で寝るとき、君はどうやって寝る?」
「は? どうって、普通に毛布に包まったり、ですけど」

 急に何を言い出すのか、と困惑した表情で答える。

「……君と別れた後、彼らは布団を敷いて寝ていたそうだ」
「は?」

 意味が分からなかった。

「ちょうどダリスに使いをやっていてね。少しだけ探らせたんだが、安全部屋で当たり前のように布団を敷いて寝ていたそうだ」
「…………すごいですね、落ち人」
「…………ああ、すごいな、落ち人」

 暫し無言の時間が訪れる。
 だが、気を取り直したように、ヴァルフォルグが口を開く。

「ああ、それと寝静まった後、安全部屋の入口まで近づいたら、見事に気づかれたそうだ」
「…………ちなみにその使いは誰で?」

 恐る恐る聞いた名は、ヴァルフォルグの手足となって動く、3名の騎士。多少だが面識のあるその名に、ルーカスは驚く。

「……記憶違いでなければ、確か、気配隠蔽のスキル持ちだったと思いますが?」
「ああ、その通りだ」
「それが気付かれたんですか?」

 スキルを使われれば、ルーカスでも気づくのが難しい。だが、あの2人は気づいたという。




 気配を殺し、じっと見ている騎士たちの前で、最初に春樹が気付き、そして春樹の目が覚めたことに聖が気付いた。

『……どうしたの?』
『いや、なんか誰かいる気がして……』
『んー?』

 そこで暫し何かを確認するかのように、首を傾げた聖だが、すぐさま春樹に向き直ると、欠伸をひとつ。

『ん、大丈夫』
『そっか、じゃあ寝るか』
『うん』

 そして、何事もなかったかのように再び寝に入った。




 それを聞いて、ルーカスは何ともいえない表情を浮かべた。

「……どう思う?」
「いや、どうと言われても……」

 気づいた春樹をすごいと称賛すべきか、大丈夫と言い切った聖の根拠を探るべきか、それともそれにあっさりと納得した春樹を問いただすべきか。
 どれから突っ込むべきかと、ルーカスは本気で遠い目をした。

「……ちなみに、この国に、興味を持っていたか?」
「え? あ、はい」
「……そうか、ぜひ会ってみたいものだなルーカス?」

 わざとらしいまでのキラキラ笑顔に、ルーカスは何も言えない。まあ、十中八九興味を持つだろうなと思ってはいたのだが、ここまで本気になるとは思っていなかった。

「はあ、まあ、来たら聞いてみます……」

 なので、そう答えるしかなかった。
 いっそ来ない方がいいかな、なんて思いながら。


 ちなみにその後、聖と春樹の情報が入るたびに呼び出されることになるということを、ルーカスはまだ知らない。

しおりを挟む
表紙へ
感想 442

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。