異世界帰りの聖女は逃走する

マーチ・メイ

文字の大きさ
9 / 26

9話目

しおりを挟む

小さく、お金になる魔石だけ回収して亡骸は捨て置こうとしたら、小指大の大きさの瓶がきらりと光った。

(……毒瓶? これってあの有名なダークスネークの毒瓶?)

ダークスネークは名の通りダンジョンの薄暗さに紛れるような暗い色合いの蛇型のモンスター。

確かダンジョン協会に必ず回収されてしまう毒瓶を落とす。

(まぁダークスネークに限らず毒の付く物は必ず回収されるけどね)

この毒瓶は今では医療にも活用されたりするが、探索者も探索者免許の提示と使用目的を提出すれば購入することも出来る。

ダークスネーク自体がそんなに珍しいモンスターではない。
そのため他の毒を持つモンスターの毒瓶より多く手に入る。

回収になんの制限もない頃、探索者が二束三文で一般の人に販売するということが多かったそうで、この毒を使用してテロや毒物事件が引き起こされたりした。

摂取すると脳から筋肉に伝わる命令が阻害されてしまい動けなくなるという毒だ。
しばらくすれば動けるようになるが倒れた状態により窒息してしまう可能性もある。


それ以降制限がかけられるようになり一般では手に入りにくいものになった。

(漂白剤よりも使えるかもしれない)

アイテムボックスにビー玉大の魔石と共に仕舞う。

闇隠インビジブル 意味ないかもしれないな……)

2階に出てくるのがダークスネークだけならば闇隠インビジブルを使うだけ魔力の無駄になる。 ならば使用せずにナイフのみで強硬突破したいところだ。

(今の効果が切れるまでにアッシュウルフが出たら継続、出なかったら先発隊だけに気を付けて突っ走ろう)

そう判断し2階層を2時間ほど探索した。

セーフティーゾーンを発見することが出来た。
セーフティーゾーンには1本の樹木が立っておりそこから半径50m程はモンスターが入れないと聞いたことがある。

(まだ先発隊も発見できないけど……)

どうやら先発隊はさらに奥にまで進んでいるようだ。

セーフティーゾーンには野営の跡だけがあった。
消えかけているのでもう少しで一日といったところか。 

(……ここを拠点にしようか)

先発隊が戻ってくる可能性も考えたが、数日だけここに身を寄せることにした。

というよりも流石に戦ったり走ったりでくたくただった。

(2階に入ってからアッシュウルフ少なかったな)

全くでないという訳ではなく群れと遭遇する率が減っていた。
これはダークスネークも出現するからリポップ率が減ったからなのか分からないが。

個人的にはダークスネークの方が1体で出て来てくれるからありがたかった。

(群れはまだ厳しいな)

少しだけ座って休憩を取るとセーフティーゾーンの通路側から反対側の壁側に向かった。
野営跡から出来るだけ離れた場所だ。

(どうやって隠ぺいしようか……)


きょろきょろと辺りを見渡すと壁際にある岩の前へ移動した。
岩は私の背よりも少し低く、その代わりに幅があった。

(これ……中くり抜けないか?)

岩加工ロッククリエイト

手を岩に当て、残り少ない魔力でそう唱えた。


岩加工ロッククリエイト によって岩に凹みが出来、幅が少し広がった。

(残りの魔力ではさすがに人が入れるぐらいの大きさまでの加工は無理か)

凹みに沿って滑らかになった岩肌を撫でる。

(凸凹が無いから背を預けても痛みは無さそう。 少し休憩するか)

アイテムボックスからブルーシートを取り出し土の上に敷く。
地面から冷たい冷気が伝わる。
そこに腰を下ろしアイテムボックスから取り出したペットボトルでカラカラになった喉を潤す。

(……っ生き返る。 ここまで走りっぱなしだったもんね)

そして時計を見た。

時計を見ると時刻は夜を指していた。

(外のモンスターは討伐完了したのかな、出来るだけ長引いてほしいけど……)

菓子パンの袋を破り中のパンをかじる。
甘さが疲れ切った体に沁みた。

(水や火は何とかなるけど食料は確保しなくちゃいけないな。 調味料や顆粒出汁を持ってきたから最悪スープだけは作れる。 肉……肉かぁ……ウルフ系は美味しくないから不人気だったしダークスネークは毒が入っているから特殊調理免許保持者じゃないと調理できなかった。 毒か……解毒魔法で行けるか? まず1個試してみるか……幸い毒に即効性は無かったから行ける……か? 異変を感じたら解毒魔法を身体に掛ける……やってみるか。 食料が無くなる方が困る。 ……でもまず……仮眠を取ろ……う……)

考えているうちにうとうとと眠気が襲ってきた。
流石に横になる気にはなれず岩に背を預けたまま仮眠を取ることにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

処理中です...