223 / 274
第三章
223話目
しおりを挟む「勘違いしないで欲しいけど、無理にとは言わないわ」
「えぇ、あくまでも提案です」
そう言う二人の表情からは本心が読み取れない。
「まずは私から、良いですか?」
「えぇ、レディーファーストです」
「では、この間こちらに渡り人を頼みましたよね」
「はい」
陛下経由で依頼が来た件か。
「こちらでも回復を確認いたしました。 その件につきまして、願いを聞き入れて頂きありがとうございます」
「私に決定権はありません、陛下の指示に従ったまでです」
ポーカーフェイスを保ったままフォルラーニ侯爵の発言を流す。 感謝の言葉も私ではなく陛下にお願いしたいものだ。 これではまるで私が決定したようではないか。
「そう言う事にしておきますね。 アルフォート卿も知っての通り、私の領地の騎士達は常に怪我がつきものです。 渡り人の回復魔法の必要性、分かってますよね」
「そうなんですか」
「正直に言いますと、相沢の魔力が少なくなった辺りから教会に依頼をするようになりました。 少なくない金銭もお支払いしてます」
「そうですか」
「今後もおそらく相沢をこちらに寄越し、回復を頼むようになると思います。 ただ、そのせいでこちらに無理な願いをしてくる者も出ると思います、伯爵よりも侯爵の肩書が必要になる場合も」
その展開もあり得る。
所詮は私は辺境伯。
爵位の上では並みの伯爵より上と言うだけだ。
陛下からの指示という免罪符もあるが、他からの圧力が無いという訳にはいくまい。
苦しい場面が出てくるだろうとフォルラーニ侯爵が存外に言うのも分かる。
分不相応ではないか、と。
「勘違いしてもらいたいわけではないのですが、私はアルフォート卿が苦しい思いをするならばこちらで引き取る気があるというだけです。 望まなければ現状維持でもいい。 ただ、他の者の所に屈する前にこちらに相談してください、力になります。 陛下が国の貴族全員に発表する前にそれを伝えたかっただけです」
そう言い終えるとフォルラーニ侯爵は微笑んだ。
恐らくこの魔法の威力を理解した上での申し出だろう。
「……お気持ちありがたく受け取ります」
「あのー……私の事をお忘れしないで頂きたいのですが」
良い雰囲気でまとまりかけた話がドルイット侯爵の言葉で蒸し返される。
「私の所でも引き取っていいというのはフォルラーニ卿と同じ気持ちです。 なのであえてその話は置いておきましょう、私は別のことが気になりまして、そちらの件でも伺いたかったのです」
「別の事……ですか?」
「はい、こちらに渡り人の倉敷が居るでしょう」
……ドルイット侯爵は倉敷が目当てだったか。
確かに、魔道具作りの渡り人の動向を把握しててもおかしくない、が、このタイミングとは……。
「隠しても無駄ですよ、把握してますから。 まぁ、良いでしょう。 問題は倉敷が魔法で魔道具を作り出せる渡り人と言う事、そして今回魔力を回復できる渡り人が出現したと言う事。 私が言いたい事……分かっていただけますか?」
そのつながりに気づいたか……。
「……陛下にその事報告致しましたか?」
人当たりの良い笑顔を見せていたドルイット侯爵が、その言葉を継げると思わず喉が鳴る。
……忙しさにかまけてまだ報告していなかった案件だ……。
「別に私の方から可能性があると言う事で陛下に報告することは可能です。 ただ、その場合あなたに対する陛下の信頼は低下するでしょうね」
フォルラーニ侯爵はそのつながりに気づいていなかったのか微かに目を見開いた。
「私が口を噤んでおいてもいいんですが、他の者が気付くかもしれませんよ? 何せ倉敷を欲していた貴族は少なくない」
「ご忠告ありがとうございます。 陛下への報告は私がすぐさま致しましょう」
「いえいえ、感謝して頂けるのならば……それ相応の誠意を見せて頂きたいですね」
フォルラーニ侯爵がドルイット侯爵の言葉を聞き微かに殺気を漂わせる。
決定的な言葉を言えばたとえ素手でも処しそうだ。
となれば先ほどの言葉に嘘偽りはなさそうだ。
「誠意……でしょうか?」
だが次のドルイット侯爵の言葉で場の空気は一変した。
「はい、私にぜひとも見学させて下さい!!」
「は?」
「え?」
私とフォルラーニ侯爵から間抜けな声が出た。
「レシピ産の魔道具が量産されているんでしょう? 噂はこちらにも届いてますよ。 自販機……でしたっけ? あれもレシピ産なんでしょう? 実際に作られている現場拝見させてください」
魔道具バカがここにも居た。
長谷川に連絡を入れ、フォルラーニ侯爵共々廃村へご案内する羽目になったのだった。
90
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる