227 / 274
第三章
227話目
しおりを挟むこの日は国中の貴族が城へ集まっていた。
「これはこれはブリストウ伯爵、お久しぶりです」
「ソルレイユ伯爵お久しぶりです」
いつもより身なりを整えオリヴィアと共に登城する。
早めに到着したはずがすでにホールは人で溢れていた。
私たちが到着した事を示す名前が読み上げられると、それまで笑顔の仮面を張り付けて談笑していた貴族たちが一斉にこちらを向いた。
……これはこれは。
素知らぬ顔をしオリヴィアをエスコートする。
今日のオリヴィアはモスグリーンのドレスに薄手のショールを身にまとい、香りはあちらの世界で購入した香水を、化粧品もあちらで新調した物を使用している。
ブルベ? と言われたオリヴィアは、その場で化粧品を色々試してもらい化粧品を一新した。
今までのただ塗りたくる化粧とは違い、肌に合っており艶めかしく美しい。 この場に居るどの貴婦人よりも綺麗だ。
そんなオリヴィアが声を掛けてきたソルレイユ伯爵に挨拶をした。
ソルレイユ伯爵は見惚れ、ソルレイユ夫人にひじ打ちされた。
我に返り動揺したのが見て取れた。
「これは失礼した。 オリヴィア夫人が美しくて見惚れてしまいました」
「ご冗談がお上手ですね」
ふふふ、と笑みを浮かべるオリヴィア。
「オリヴィア様は一段とお美しくなられましたね、何か秘訣でもございますの?」
ソルレイユ伯爵夫人がそうオリヴィアに尋ねる。
周りにいるご婦人方もどうやら気になっているようだ。
「いえ……お褒め頂き光栄ですわ。 メイドが腕を上げたせいかしら」
上品に扇子で口元を覆いながらオリヴィアはそう言い、ソルレイユ伯爵夫人の言葉を流した。
いくつか言葉の応酬を繰り返し、ついにソルレイユ伯爵が本題を切り出した。
「そう言えば、ブリストウ伯爵は今回の陛下から頂いた手紙の件何かご存知ですか?」
「陛下からの手紙の件ですか?」
周りにいる者達の耳が大きくなるのが分かる。
所在についてまだ突き止めていない者も多いのだろう。
「はい、渡り人の保護など今までに前例が無いものでして……渡り人が良く集まるブリストウ伯爵でしたら何か存じ上げませんか?」
「渡り人は確かに多いですが……お恥ずかしながらすべてを把握しているわけではないので存じ上げません」
「そうですか」
私の発言を聞いて歩みを戻す者もいた。
そして陛下の到着が知らされ皆が一斉に頭を垂れた。
陛下からは渡り人の魔力の回復について告げられ、手出しを禁ずる旨通達された。
それまで陛下の発言を静かに聞いていた貴族たちは事の大きさに次第にざわめきが大きくなった。
陛下の発言を疑う者、興奮して保護を息巻く者、不敬にも陛下に質問を投げかける者。
そして保護者として私が指名され、嫉妬の視線にさらされることになった。
「アルフォート卿」
「ヴァンドーム公爵、お久しぶりに存じます」
「橋沼桜の保護を譲れ、貴公には荷が勝ちすぎておる。 わしの所で預かろう」
このタイミングで登場するとは。
陛下がそこにおられるのだぞ? 何考えてるんだヴァンドーム公爵は。
陛下からヴァンドーム公爵の件で手紙が来ていたので何かしら接触はあると思っていた。
話の前なのか、終わってからかは分からないが。
でもまさか陛下が話をされてすぐだとは思ってなかった。
というかヴァンドーム公爵自体は気づいておられるのか?
陛下の決定を反故すると言う事は反逆の意志があると捉えられるぞこれは。
別のことで内心冷や汗が出た。
遠巻きに見ている貴族たちも陛下の出方を伺っているようだ。
「ヴァンドーム公爵」
そんな時、ヴァンドーム公爵の後ろから声がかかった。
……この声は……。
「今は取り込み中故後にしてくれ」
振り向くことなく追い払おうとする公爵。
その対応はまずいぞ。
「ヴァンドーム公爵!!!!」
「なんだ……兄上?!」
凄みのある笑顔を浮かべたベルゲマン公爵が騎士を引き連れその場に居た。
「ブリストウ伯爵、ヴァンドーム公爵、ここは人が多い。 こちらへ来てもらおう」
騎士に囲まれるヴァンドーム公爵。
ベルゲマン公爵が先導する形で騒がしいホールからお暇することになった。
オリヴィアは休憩室に案内してもらい、私はそのまま公爵達について行く。
騎士達も下がらせ人払いを済ませる。
「……ブルクハルト卿、処分は免れぬぞ」
「処分とは何のことでしょう? 私は分不相応な場所に陛下が保護する者を置いておけぬと思ったまでです」
「それが分不相応だと分からぬか」
凄みのある声でヴァンドーム公爵をしかりつけるベルゲマン公爵。
私まで肝が冷えるようだ。
「貴様はあの衆人観衆の中で陛下の決定に異を唱えたのだぞ。 その場で反逆者として捉えられてもおかしくない……恥を知れ!!!!」
「ですが……!! 何故伯爵家なのですか。 公爵家ではダメな理由を教えてください」
「くどい。 ……処分は追って陛下から言い渡されるだろう。 決して軽いものだと思わぬように。 ブリストウ辺境伯には申し訳ないことをした。 愚弟がすまぬ」
「なぜ兄上が伯爵に頭を下げるのです!! 止めてください!!!!
「黙れ!!!! ブリストウ辺境伯、愚弟はこちらで預かる故今日の所はお引き取りを」
「かしこまりました」
ベルゲマン公爵に頭を下げられ肝が冷えっぱなしになる。
下がる許可を得られたのだ早々に館に帰ろう。
どうせホールに戻っても疲れるだけだ。
そう思い、休憩室に居るオリヴィアを迎えに行くとそのまま王都の館に帰ることにした。
90
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる