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第三章
258話目
しおりを挟む「この度は私の愚息がブリストウ領で迷惑をかけました。 申し訳ありません」
開口一番謝罪され頭を下げられた。
愚息が迷惑? ……どういうことだ?
その謝罪に面食らった私は間抜け面になるのを抑えるべく手で口元を覆った。
「ユーリアス、お前自ら説明しなさい」
ユーリアス……ユーリアス=フォルラーニ? 侯爵の次男か? 何をした? 領に入ったなどという情報は……。
そんなことが頭を過ぎっているとユーリアスと呼ばれた人物がフードを取った。
「はい……」
フードを取って現れた顔に私は言葉を失った。
ユーリアス=フォルラーニはフォルラーニ侯爵の次男だ。
母親譲りの美しいプラチナブロンドでサラリとしており、顔は優しげで美しいと社交界で女性たちに人気だ。
その人物の顔が今は見る影もない。
隣に居る母親から鉄拳制裁されたのか、目元や頬ははれ上がり、頭にはいくつかのコブが見受けられる。 美男子の面影はなく大変痛々しい姿が現れた。
その口元から語られた事によると、私の下に舞い込んだ一番新しい面倒ごとに深く関係していたらしい。
語られる内容が進むにつれ隣に座るフォルラーニ侯爵の顔がどんどん怒りでゆがんでいっている。
解決を喜べばいいのか、侯爵の令息が何してんだよ、という嘘偽りのない忌憚のない言葉を言いたくなってきて飲み込み、代わりに深いため息を吐いた。
「それではそちらのフードを被っているもう一人の人物は……」
「あぁ、フードを取りなさい、倉敷」
フォルラーニ侯爵がそう言葉を紡ぐとフードを取り倉敷の顔があらわになった。
つまるところの倉敷の拉致犯はフォルラーニ侯爵の次男だったわけだ。
「私も驚いたんですよ、珍しくユーリアスが友人を連れてきたという報告を聞いたから部屋に赴いたら、こちらに居るはずの倉敷が居たんですからね。 ユーリアスに問えばブリストウ領で出会った渡り人だという。 魔道具に精通し、他の者に知られたら危険だからと睡眠薬を使って保護してきたという。 どこが保護だ、立派な拉致だろう、この大ばか者が!!!!」
ゴチンッと盛大な音が響いた。
「痛っ!!」
「フォルラーニ侯爵、落ち着かれてはいかがか?」
「!! ……お見苦しいところをお見せしました」
ハッとした表情で取り付くようなそぶりを見せる。
当の被害者である倉敷を盗み見れば、侯爵と令息のやり取りに引いているようだ。
「してなぜこちらに連れてこられたのでしょう。 確かに倉敷はこちらの領内で暮らしておりましたが……申し訳ないのですがこれは侯爵家の内輪の話ではないのでしょうか?」
訝しるようにそう問えば侯爵が倉敷を見やりもう一度こちらに視線を寄越した。
「はい。 倉敷の魔法は以前こちらの領で確認し、ブリストウ領で保護しているという認識でした。 倉敷はこちらへ送り届ける予定でしたが、今回の件倉敷にユーリアスへの罰をどのようにしたいか聞いてみたところ、その内容の件でブリストウ伯爵にお伺いをした方が良いとこうして足を運んだ次第です」
は?
おっと……あまりの予想外の発言に領主にあるまじき言葉が出るところだった。
んん、と咳ばらいをしてごまかした。
「……ユーリアス殿への罰?」
「はい、倉敷はこのユーリアスを助手に欲しいと言い出しました」
「は?!」
今度は心の中だけに留めておけずついぞ言葉が口を継いで出てしまった。
「魔道具に囲まれる生活なんて夢のようだ!! 私もぜひこちらに住まわせていただけないだろうか!!」
熱を帯びうっとりとするユーリアス。
良くもまぁ懲りないものだなと感心していると、
「黙れ!! ユーリアス!!」
「痛っ!!」
侯爵からの鉄拳がその頭に降り注いだ。
なるほど、こうして頭のコブが増えて行ったのだな。
そんな考えで現実逃避をしてしまった。
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