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デートな1日
「シリル様――!!」
ご機嫌でシリル様の部屋へと行くと、シリル様はお行儀よく座って本を読んでいた。突然やって来た私に驚いている。
「まぁ、シリル様はご本がお好きなのですか?」
「……」
しかし、子供らしくない本だ。文字ばっかりで何が楽しいのだろうか。もっと、こう絵本のような絵も楽しめるものはないのだろうか。
「シリル様。私と一緒にお出かけをしませんか?」
「勉強ですか?」
「違います。私とデートをするのです」
「デート?」
「はい。私と楽しくお出かけをして、買い物をするんですよ」
「お父様は?」
「リクハルド様は、お仕事に行きましたわ」
言っていることがよくわかってないのか、シリル様が戸惑っている。しかし、私は諦めるような人間ではない。
「さぁ、馬車も待たせてますから、すぐに行きましょうね」
半ば強引にシリル様を連れて街へと向かった。
♢
ガラガラと真っ直ぐに馬車に乗って街へと来れば、少し肌寒い。
「マクシミリアン伯爵領は、寒い領地でしたね……シリル様は寒くないですか?」
馬車から降りると、シリル様がほうっと息を吐いた。
シリル様の目線に合わせて腰を下し、彼のマントの襟元を閉めながら聞けば、こくんと頷いた。
「まぁ、シリル様はお強いのですね。私は寒い土地は初めてですので、少し緊張してます」
「ぼ、僕も……」
「シリル様も緊張を? では、私と同じですね。さぁ、行きましょうか」
シリル様の手を繋げば、慣れないながらも握り返してくれる。その手を引いてシリル様と街を歩き出した。
歩きながら街を見渡せば、なかなかマクシミリアン伯爵領は栄えている。舗装された石畳の街路には店が並んでいた。
「シリル様。どこか行きたいところはありますか?」
ブンブンと首を振るシリル様。もしかして、街に来たことがないのだろうかと不安になる。
「シリル様。街は初めてですか?」
「……お父様と来ました」
「リクハルド様と? それは良かったです。シリル様は、リクハルド様がお好きなのですね」
シリル様が唯一頼りにしていたのがリクハルド様なのだろう。いつも、リクハルド様と一緒の時は彼の足にしがみついている。血はつながってなくとも、彼は父親なのだ。
「あら、こちらは子供服かしら? シリル様、こちらに行きますよ」
通りに見つけた子供服のお店が目に付いた。シリル様に似合いそうな子供用のスーツも飾ってある。可愛い。子供用のブーツなども絶対にシリル様に似合う。迷いなくお店へと入ると可愛らしい子供服が店内にいっぱいだった。やはり、どれもシリル様に似合いそうだ。
「失礼いたしますわ。こちらの子供服をお見せしていただいてよろしいかしら?」
「もちろんです。うちはオーダーメイドも承っております」
女店主が笑顔でやって来る。シリル様を見れば、緊張そのものだ。
「シリル様。先日は仕立て屋の時間にお邪魔しましたので、お詫びにお好きなお洋服を買いましょう」
「あの……」
「お気に召したものをどれでも言ってくださいね。私は、シリル様でしたらどれでも似合うと思いますが……こちらはいかがでしょうか?」
シリル様に似合いそうな子供用のスーツを見せると、自分の好みがわからないのか、シリル様が戸惑っている。
「シリル様。ここは試着もできますの。少し着てみましょうか」
「試着?」
「試しに来てみることですわ。お店とはそういうものです」
緊張して遠慮がちなシリル様。試着をしたことがないのだろうか。無理強いは良くないと思い、試着を諦めるしかなかった。
「いつもは試着はされなかったのですか?」
「ルイーズ様が選んでました」
「そうですか……では、これからはシリル様の好みを一緒に探しましょう。そして、私やリクハルド様と選びましょうね。シリル様が着たいと思ったお洋服を教えてください」
抱き上げると、シリル様が目の前に飾ってある小さな子供用のスーツを見つめている。
「シリル様は、とってもいいお顔ですので似合いますわ」
可愛いシリル様を鏡に写すと、照れた顔がますます可愛い。
「まぁ、お母様そっくりですね。可愛らしいお坊ちゃまですわ」
「似てる? わ、私に似てますか!?」
「え、ええ、とても顔立ちが似ているかと……」
似ている。シリル様が私と同じ顔立ちなのだという。嬉しくて胸がじんときた。
「キーラ様……?」
「はい。このスーツを買いましょう! きっとシリル様にはお似合いです! 店主様。こちらをマクシミリアン伯爵邸にすぐに届けてください。他にも何着かシリル様に似合うお洋服をお願いしますわ」
「マクシミリアン伯爵邸!?」
「はい。ここの領主の邸です。シリル様はリクハルド様のご子息ですわ」
マクシミリアン伯爵邸から来たことを知らなかった店主が驚き上ずった声を出して、慌てて頭を下げた。
「し、失礼しました!」
「おかまいなく。では、よろしくお願いします」
シリル様に似ていると言われてご機嫌なままで店を後にする。カランとベルが鳴る扉を開けたままで、店主たちは店先で私たちが去るまでお辞儀をしていた。
「では、次はどこに行きましょうか? お腹は空いてないですか? リクハルド様はいつもどこにお連れになっていたのかしら?」
マクシミリアン伯爵領は初めてであてもなくシリル様とあちこちを歩き回った。シリル様は何も言わずに手を繋がれたままでついてきていると、公園で子供たちが騒いでいるのが見えた。
シリル様はその様子をじっと見ている。
「公園が気になりますか?」
「キーラ様……あれは、なんですか?」
「何かあるかしら?」
シリル様の視線の先を見れば、紙芝居をしている。それで、子供たちが集まってきているのだ。
「紙芝居ですけど……もしかして、紙芝居を見たことがないのですか?」
「紙しばい?」
「そうですね……百聞は一見に如かず、ですわ。行ってみましょう」
紙芝居に興味を持つシリル様を連れて行くと、やはり興味津々で紙芝居を見ている。そっと「座りましょう」と小声で言うと、シリル様が座った。その隣に私も座る。
「まぁ、騎士様とお姫様のお話ですのね。ロマンスかしら?」
悪い魔法使いを騎士様が成敗して、囚われのお姫様を助け出すという、勧善懲悪のありきたりなお話だ。それを、紙芝居の演者が声音を変えながら匠みに話している。
「お父様と同じ騎士様……」
「リクハルド様が騎士だったとご存じですの?」
こくんと頷くシリル様。
「いつも、剣を持って出かけているから」
「そういえばそうですわね。では、悪い魔法使いはルイーズ様かしら? でも、あの方は魔法は使えませんでしたね」
むしろ、私が悪い魔法使いかもしれない。思わず、フッと笑う。
シリル様は騎士様に興味津々なのか、今までにないほど真剣な眼差しで紙芝居を楽しんでいた。
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