35 / 45
死神のそばで咲くライラック
ブラッドの発言に陛下が弱々しく奥歯を嚙み締める。
「英雄などハッキリ言ってなりたくはないが……最高のパフォーマンスだろうな」
ブラッドが、アギレア王国が攻めて来ると言えば間違いない。そして、ブラッド率いる騎士団は戦わない。確かに、近々アギレア王国の使者が来る。それが戦争の再開を絵図にしているなら……私たちは、戦争の始まりすら気づかずに敵を王城に招き入れた愚かな王と妃だ。
他の人間の発言なら、調べもする。間違いなく裏を取った。でも、この眼を持つブラッドだけは違う。
「もしそうなったら……」
「フィラン殿下の葬儀もまともに行われない。誰が失墜した王の子の葬儀を執り行うと思う。俺がそんな優しい人間に見えるか?」
フィランの葬儀でさえ、ブラッドにとっては駆け引きの材料なのだ。
フィランはたった一人の大事な息子だった。穏やかで可愛い私と陛下の大事な息子。フィランがいたから、陛下との関係も穏やかであった。
この国の陛下の子供で、唯一の王太子殿下だった。
そのフィランの葬儀すら危うくなっている。私の不貞がきっかけでブラッドに隙を作ってしまった。陛下は、アリアの想いブラッドを捨てなかった。
出生の怪しいブラッドを、あの戦で死んでくれと誰もが密かに望んだのに……。
「……陛下。終わりです……あなたがブラッドを王太子殿下になどお決めになるから……」
あの時点で、私たちはブラッドに支配されていたのだ。もう覆らない。いや、アリアを後宮に入れたせいで、こんな死神のような王子ができ上がってしまった。
「ふざけるな……っ、誰が……」
「でも、ブラッドを信じて何かの薬をお飲みになった。そうでしょう?」
どうして、アリアを後宮に入れたのだろうか。ベッドで何の抵抗も出来ない陛下に情けなくなる。誰も陛下に異を唱えない。情けない国。穏やかな国だった。でも、死神が王城を歩き回っていると気付かないほど安穏としてしまっていた。
陛下の初恋はアリアだった。その彼女の縁談の話を聞けば、縁談を邪魔するように後宮入りを決めた。私と結婚をしていながらも。そして、陛下の後宮に入っていた令嬢など、あのブラッドの父親であろう立場の人間が、他国の妾になったアリアを娶ることなどできるはずもなかった。
でも、今ならわかる。その頃には、恐らくブラッドを懐妊していたのだ。
「っ……」
「フィランが人知れず葬られるのは、耐えられません……私は、あの子の母親なのです。私たちがフィランにできることはもうこれが最後です」
最後を悟り、動けない陛下に毒杯を飲ませた。私でさえ押さえられるほどの力で抵抗は虚しく毒が陛下の喉に流れた。
私たちがフィランにできることは、もうこれしかない。子供を失墜した王の子として奉られたくない。死んでからでもだ。王太子殿下として死んだフィランを永遠に王太子の身分でいさせるには、今ここで私たちが終えるしかないのだ。
そして、ブラッドを一睨みして毒の飲んだ。
「犯人は、お前でなければ、やはりリラなの?」
「違う。何度もそう言った。犯人は、心臓を一突きにしていた。リラの持っていたナイフでは、届かない位置まで突き刺さったのだ。凶器はリラの持っていたナイフではない。明らかに、ナイフの大きさが違っていたことに気付きもしないとは……」
「では、誰が……」
フィランは、ブラッドほどの武術に優れてなくても、誰の恨みも買ってなかったはず。
すると、部屋の扉が開かれて、リラがやって来た。リラを抱き寄せるブラッド。二人の関係は一目瞭然だった。
驚いた私に、ブラッドが静かに犯人の名前を告げる。
「……」
「まさか……」
その名前を聞いてさらに驚いた。誰も疑わなかった。まさか、このために犯人を泳がせていたのだろうか。
「なぜ、あやつが……」
「だから、言ったでしょう。フィラン殿下が陛下と同じようなことをするからこんな出来事が起きるのですよ」
息ができなくなる。喉が焼ける様な痛みとともに血を吐いた。その様子を見ながら、ブラッドとリラは抱き合っていた。扇情的に、それでいて愛おしそうにリラを抱きしめるブラッド。
__ブラッドは死神。そして、そばで咲いた花のようなリラも同じ。
「英雄などハッキリ言ってなりたくはないが……最高のパフォーマンスだろうな」
ブラッドが、アギレア王国が攻めて来ると言えば間違いない。そして、ブラッド率いる騎士団は戦わない。確かに、近々アギレア王国の使者が来る。それが戦争の再開を絵図にしているなら……私たちは、戦争の始まりすら気づかずに敵を王城に招き入れた愚かな王と妃だ。
他の人間の発言なら、調べもする。間違いなく裏を取った。でも、この眼を持つブラッドだけは違う。
「もしそうなったら……」
「フィラン殿下の葬儀もまともに行われない。誰が失墜した王の子の葬儀を執り行うと思う。俺がそんな優しい人間に見えるか?」
フィランの葬儀でさえ、ブラッドにとっては駆け引きの材料なのだ。
フィランはたった一人の大事な息子だった。穏やかで可愛い私と陛下の大事な息子。フィランがいたから、陛下との関係も穏やかであった。
この国の陛下の子供で、唯一の王太子殿下だった。
そのフィランの葬儀すら危うくなっている。私の不貞がきっかけでブラッドに隙を作ってしまった。陛下は、アリアの想いブラッドを捨てなかった。
出生の怪しいブラッドを、あの戦で死んでくれと誰もが密かに望んだのに……。
「……陛下。終わりです……あなたがブラッドを王太子殿下になどお決めになるから……」
あの時点で、私たちはブラッドに支配されていたのだ。もう覆らない。いや、アリアを後宮に入れたせいで、こんな死神のような王子ができ上がってしまった。
「ふざけるな……っ、誰が……」
「でも、ブラッドを信じて何かの薬をお飲みになった。そうでしょう?」
どうして、アリアを後宮に入れたのだろうか。ベッドで何の抵抗も出来ない陛下に情けなくなる。誰も陛下に異を唱えない。情けない国。穏やかな国だった。でも、死神が王城を歩き回っていると気付かないほど安穏としてしまっていた。
陛下の初恋はアリアだった。その彼女の縁談の話を聞けば、縁談を邪魔するように後宮入りを決めた。私と結婚をしていながらも。そして、陛下の後宮に入っていた令嬢など、あのブラッドの父親であろう立場の人間が、他国の妾になったアリアを娶ることなどできるはずもなかった。
でも、今ならわかる。その頃には、恐らくブラッドを懐妊していたのだ。
「っ……」
「フィランが人知れず葬られるのは、耐えられません……私は、あの子の母親なのです。私たちがフィランにできることはもうこれが最後です」
最後を悟り、動けない陛下に毒杯を飲ませた。私でさえ押さえられるほどの力で抵抗は虚しく毒が陛下の喉に流れた。
私たちがフィランにできることは、もうこれしかない。子供を失墜した王の子として奉られたくない。死んでからでもだ。王太子殿下として死んだフィランを永遠に王太子の身分でいさせるには、今ここで私たちが終えるしかないのだ。
そして、ブラッドを一睨みして毒の飲んだ。
「犯人は、お前でなければ、やはりリラなの?」
「違う。何度もそう言った。犯人は、心臓を一突きにしていた。リラの持っていたナイフでは、届かない位置まで突き刺さったのだ。凶器はリラの持っていたナイフではない。明らかに、ナイフの大きさが違っていたことに気付きもしないとは……」
「では、誰が……」
フィランは、ブラッドほどの武術に優れてなくても、誰の恨みも買ってなかったはず。
すると、部屋の扉が開かれて、リラがやって来た。リラを抱き寄せるブラッド。二人の関係は一目瞭然だった。
驚いた私に、ブラッドが静かに犯人の名前を告げる。
「……」
「まさか……」
その名前を聞いてさらに驚いた。誰も疑わなかった。まさか、このために犯人を泳がせていたのだろうか。
「なぜ、あやつが……」
「だから、言ったでしょう。フィラン殿下が陛下と同じようなことをするからこんな出来事が起きるのですよ」
息ができなくなる。喉が焼ける様な痛みとともに血を吐いた。その様子を見ながら、ブラッドとリラは抱き合っていた。扇情的に、それでいて愛おしそうにリラを抱きしめるブラッド。
__ブラッドは死神。そして、そばで咲いた花のようなリラも同じ。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
皇太子殿下は、幼なじみに触れていないと落ち着かない
由香
ファンタジー
幼い頃から一緒に育った皇子は、なぜか距離が近すぎる。
後ろから抱きしめられ、手を取られ、頬に触れられるのが当たり前の日常。
やがて彼は皇太子となるが――その距離は変わらないどころか、むしろ深まっていき。
「触れていないと、落ち着かない」
公の場でも離してくれない彼の執着に、周囲は騒然。
けれどその腕の中は、どうしようもなく安心してしまう。
これは、幼なじみの距離のまま始まる、逃げ場のない溺愛の物語。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
「職場では隙のない完璧な先輩が、家ではゆるニットで甘えてくる。それでも彼女は、まだ俺の恋人じゃない」
まさき
恋愛
会社では完璧で、誰も近づけない先輩。
そんな彼女と、俺は同じ部屋で暮らしている。
「…おかえり」
ゆるニット姿の彼女は、家でだけ甘い声を出す。
近い。甘い。それでも――
「ちゃんと付き合ってから」
彼女は知っている。自分が好きになりすぎることを。
嫌われるのが怖くて、迷惑になるのが怖くて。
だから一歩手前で、いつも笑って止まる。
最初から好きなくせに、言えない彼女と。
気づいているのに、待っている俺の話。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。