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……でも、遅かった。



オリビアさんはライアス様に注意されて不貞腐れたままでシャンパンを一気に飲み干したあとで……。



「何ですの? シャンパンぐらい、で……っ!?」



口元を抑えてオリビアさんが苦痛表情になり、背筋が凍った。



「なに……これ……はぁっ……苦し……」

「オリビア! しっかりしろ! ローズ! すぐに解毒剤を……」

「は、はい!」



意識が朦朧とするオリビアさんが倒れそうになるのを、ライアス様が抱きかかえた。



「……お嬢様。ここでは不味いです。どこかほかのところに……いや、このまま逃げた方が……」

「だめ」



このままオリビアさんをほおってはいけない。

ライアス様は、顔を青くして私をジッと見ている。その彼をしっかりと見据えた。



「……ライアス様。どこか人のいないところへ……オリビアさんに悪い噂がたってしまいます」

「ああ……俺の控え室がある。こちらだ。スノウは、グラスを片付けてくれるか。頼む」

「……もちろんそうしますけど……」



スノウが腰の暗器手を伸ばし、怪訝な表情でライアス様を睨みつけた。

ライアス様が、スノウの名前を呼ぶなんて違和感しかない。



スノウがお父様の従者だと知っているんだ。



「大丈夫よ……何もしないで。お願い。スノウ……」

「お嬢様がそういうなら……」



スノウと別れて、騒ぎにならないようにライアス様に抱えられたオリビアさんに、懐に隠していた解毒剤を出して、彼女の口に含ませた。

オリビアさんは、ゆっくりとこくんと飲んだ。



そのまま、急いでライアス様が用意していたという控え室に行くと、薄暗い部屋の天蓋付きのベッドにオリビアさんを寝かせた。

オリビアさんの呼吸はゆっくりだ。痙攣もなく、私のグラスからの間接だから少量の毒だけで済んだのだろう。



「……オリビアさんは、これで大丈夫です」

「……助かった。感謝する」

「そうですか……この部屋は、準備していたんですか?」

「ローズを見つけたら、ここでゆっくりとしようと思っていた。君は人前に出ることを嫌っているから……」

「勝手に逢引き現場を作らないでくださいよ……」



私のために準備された部屋。今そのベッドでオリビアさんが寝ている。

複雑だった。彼女との結婚なら、ライアス様が命の危険に晒されることはないだろうに……。



でも、おかしいのですよ……。



「……何か言いたそうだな」

「聞きたいことがいっぱいできました……あなたは誰なのです。本当にライアス様ですか?」


ライアス様で間違いない。でも、そう聞かずにはいられなかった。



「そうだ……ローズ。君の婚約者のライアス・ノルディス公爵で間違いない」



薄暗い部屋で、一人掛けのソファーに腰を下したライアス様が肘掛けに肘を付いて静かに言った。



「どうして……私を知っているんですか……それに……」

「……説明する前に、ひとこと言っておくが……」

「何ですか」

「ローズ。君を助けたい。そのために、俺はここにいる」







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