3 / 10
もふもふ誘拐罪で軟禁中!!
しおりを挟むそれにしても……大きな狼に見えたのだけど、小さいわね。
夢でも見たのだろうか。
いつの間にか夜になっており、ランプの灯りが燈された薄暗い部屋でベッドに腰かけていた。
このルティナス国は、聖獣のいる国。王族は聖獣の加護を受けると言われている。
この国の陛下になるには、聖獣と聖女を従えることになるのだ。
だから、ヴォルフラム殿下のそばに聖獣がいるのだろうけど……婚約者でありながらヴォルフラム殿下の聖獣は初めて見た。
聖獣は王族が管理しており、そうそう誰もお目通りできないのだ。聖女であってもだ。
聖女が聖獣様に会えるのは、王太子になることが決まった時だけだった。
「それにしても……聖獣様は子供みたいね」
「聖獣フェンリルは、まだ子供だ」
フェンリルは氷狼だった。だから白い狼なのだろうけど……ヴォルフラム殿下は、どうしてここにいるんですかね!?
「聖獣様に話しかけたんです。勝手に会話に入り込んでこないでください」
最近はお茶をすることもなかったし、ヴォルフラム殿下は私とずっと会ってなかった。
彼は、ずっとルチアといたのだ。
その殿下が、冷たい瞳で私を睨んでいる。
ああ、いつもの表情だ。あんな視線を向けられて私が傷つかないとでも思っている。
「……ここは、俺の離宮だ。どこで話そうと俺の勝手だ」
「そうですか……ヴォルフラム殿下は、お仕事には行かれないのですか?」
「言われなくても仕事はする」
ツンとしたヴォルフラム殿下に、ああ、また余計なことを言ってしまったと落ち込む。
座ったままで膝に乗せている聖獣様は可愛くて、首を傾げて私を見ている。その心配しているような聖獣の仕草に、心配かけまいとキュッと潤みそうになった目尻を拭いた。
ヴォルフラム殿下に視線を移すと、目を合わせたくないのか反らされてしまう。
「あの……」
「なんだ?」
「聖獣様が気になるのですか?」
「当然だ。聖獣を従えられなければ、この国を継げない。だから、聖女である君が俺の婚約者になったのだ」
それはわかっている。だから、癒しの魔法を得意とする聖女の家系の私が産まれた時から、ヴォルフラム殿下の婚約者になっていた。
でも、私の聖女の力は不安定なもので、いつも癒しの魔法が使えるとは限らない。
でも、妹のルチアは違う。いつからか、癒しの魔法がいつも使え始めていたのだ。
自分が役立たずだったと、改めて落ちこんでしまい、ヴォルフラム殿下に背を向けてしまった。背後からは、怖い顔でヴォルフラム殿下が私を睨んでいる視線を感じて怖い。
「ヴォルフラム殿下。聖獣様が気になるのでしたら、ご自分でお抱きになりますか?」
ヴォルフラム殿下が、目を見開いて驚きを見せた。
「……いいのか?」
「? 当然です。聖獣様は、王族が従えるものですよ。聖女はその補佐につくのです。王族や聖獣様が怪我をした時や呪われた時に、すぐに対応できるようにと……」
「そうだったな……」
今さら何を言っているのか……そう思いながら立ち上がり、ヴォルフラム殿下に近づいた。
そっと聖獣様を差し出せば、おそるおそるヴォルフラム殿下が聖獣様に手を伸ばした。
その瞬間__。
「フーーッ!!」
聖獣様の毛が逆立ち、ヴォルフラム殿下に爪を立てた。突然のことに驚いた。まったくヴォルフラム殿下に懐いてない。彼の聖獣だったはずなのに……。
「だ、大丈夫ですか!?」
驚いたと同時に聖獣様は私の腕から飛び降りて、どこかへ行ってしまった。
ヴォルフラム殿下を見ると、立てられた爪痕から血を流しており、手を押さえている。
「ヴォルフラム殿下っ……血が……ずっと大人しかったのに、どうして……」
「……いいんだ」
「でも……」
これで、また罪が増えればどうしよう。そう思うが、ヴォルフラム殿下の怪我も気になり、彼の手を取った。癒しの魔法を使おうと傷に集中すると、淡いの光が夜の二人を包み込むように照らした。
「魔法が出た……良かった……すぐに治しますね」
良かったとホッとするのも束の間。ヴォルフラム殿下の指に集中すれば、ゆっくりと彼の傷が塞がっていく。それと同時に、ヴォルフラム殿下の眉間にシワが寄った。
「……セリア。どうして、聖女を止めたんだ?」
「……才能がないからです」
「癒しの魔法が使えるのにか?」
「いつもはこうはいきません。使えない時もあるのです。それよりも、聖獣様がすみません。決して私が仕掛けたわけではなくてですね……」
だから、睨まないでください。
「セリアのせいではないと、わかっている。ただ……」
ヴォルフラム殿下の指の傷が塞がる。手を触れる理由がなくなり離れようとすると、ヴォルフラム殿下が私の手を掴んだ。
「触らないでください。私は、もう婚約者ではないのですよ」
「誰がそう決めた。勝手は許さない」
「あなたには、ルチアがいますでしょう」
「……セリアは、いつもそうだな。いつも、俺と距離を置こうとしている」
「それは、ヴォルフラム殿下です」
私に笑ってくれたことなどない。確かに、彼は笑うことのない殿下として有名だった。冷酷無情。でも、私は幼い頃からのたった一人の婚約者なのに……。その私まで、みんなと同じなのだ。違うのは、きっとヴォルフラム殿下から近付いたルチアだけだ。
それでも、相応しい妃になろうと妃教育も聖女の勤めも頑張っていた。
それが、突然壊れた。
「ヴォルフラム殿下……どうして、ルチアと、」
「……っ離れろ。セリア」
「はぁ!? きゃっ……っ!」
ルチアのことを聞こうとして、俯いていた顔を上げようとすると、それよりも早くにヴォルフラム殿下が私と繋いでいた手を振り払い勢い良く突き飛ばされた。そして、あっという間に走り去ってしまった。おかげで、私は後ろに倒れてしまい、呆然と窓から見える満天の星空を見ていた。
128
あなたにおすすめの小説
骸骨公爵様の溺愛聖女〜前世で結婚をバックレたら今世ではすでに時遅し〜
屋月 トム伽
恋愛
ある日突然、アルディノウス王国の聖女であったリリアーネ・シルビスティア男爵令嬢のもとに、たくさんの贈り物が届いた。それと一緒に社交界への招待状まであり、送り主を確認しようと迎えに来た馬車に乗って行くことに。
没落寸前の貧乏男爵令嬢だったリリアーネは、初めての夜会に驚きながらも、送り主であるジークヴァルトと出会う。
「リリアーネ。約束通り、迎えに来た」
そう言って、私を迎え入れるジークヴァルト様。
初対面の彼に戸惑うと、彼は嵐の夜に出会った骸骨公爵様だと言う。彼と一晩一緒に過ごし呪いが解けたかと思っていたが、未だに呪いは解けていない。それどころか、クビになった聖女である私に結婚して一緒にフェアフィクス王国に帰って欲しいと言われる。突然の求婚に返事ができずにいると、アルディノウス王国の殿下まで結婚を勧めてくることになり……。
※タグは、途中で追加します。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
ポンコツ娘は初恋を諦める代わりに彼の子どもを所望する
キムラましゅろう
恋愛
辺境の田舎から聖騎士となった大好きな幼馴染フェイト(20)を追って聖女教会のメイドとして働くルゥカ(20)。
叱られながらもフェイトの側にいられるならとポンコツなりに頑張ってきた。
だけど王都で暮らして四年。そろそろこの先のない初恋にルゥカはケリをつける事にした。
初恋を諦める。諦めるけど彼の子供が欲しい。
そうしたらきっと一生ハッピーに生きてゆけるから。
そう決心したその日から、フェイトの“コダネ”を狙うルゥカだが……。
「でも子供ってどうやって作るのかしら?」
……果たしてルゥカの願いは叶うのか。
表紙は読者様CさんがAIにて作成してくださいました。
完全ご都合主義、作者独自の世界観、ノーリアリティノークオリティのお話です。
そして作者は元サヤハピエン至上主義者でございます。
ハピエンはともかく元サヤはなぁ…という方は見なかった事にしていただけますと助かります。
不治の誤字脱字病患者が書くお話です。ところどころこうかな?とご自分で脳内変換しながら読むというスキルを必要とします。
そこのところをご了承くださいませ。
性描写はありませんが、それを連想させるワードがいくつか出てまいります。
地雷の方は自衛をお願いいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!
Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。
なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。
そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――?
*小説家になろうにも投稿しています
ここに聖女はいない
こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。
勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。
どうしてこんな奴がここにいる?
かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる