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旅路のあとには
しおりを挟むアルディノウス王国を出立して数十日。
長旅を終えて、フェアフィクス王国へと到着した。お城へ行くのかも思いきや、ジークヴァルト様は城へは行かずに、フォルカス公爵邸へと私を連れて行った。
到着したフォルカス公爵邸も、やはり大きい。グラッドストン伯爵邸も大きな邸だったが、それよりもずっと広い。しかも、お城のおひざ元だ。
「……ここがフォルカス公爵邸ですか?」
「そうだ。決まり事ではないが、フォルカス公爵邸は代々王族と縁を結んできているから、離れられない血族だな」
馬が玄関前に止まると、ジークヴァルト様が私を馬から降ろしてくれる。邸の前には、執事を筆頭に使用人が並び出迎えていた。
「おかえりなさいませ。ジークヴァルト様」
「ああ、今帰った。こちらが婚約者のリリアーネだ。部屋は準備できているか?」
「はい。準備はできてますが……」
「何だ?」
「ウェディングドレスの方が……」
挨拶を交わした執事が歯切れ悪く言うと、フォルカス公爵邸から女性が慌ただしく出て来た。
「ジーク! やっと帰って来たのね!!」
鮮麗なドレスがよく似合う美しい女性が、現れると、使用人一同がすかさずにお辞儀をした。緊張感も読み取れる。
「リセリア? なぜここにいる?」
「ジークが帰って来ると聞いたから迎えに来たのよ」
「いらん。帰れ」
「嫌よ。ドレスも作らせないわ」
プンと腰に手を当てて不貞腐れるリセリアと呼ばれた女性。ジークヴァルト様は執事を見ると、彼はそっと頷いた。
どうやら、このリセリアがドレスの邪魔をしているらしいが……。
「リセリア。お前はすぐに城へ帰れ」
「嫌」
「殿下に俺が帰還したと伝えるんだ。執事のワイルは、すぐに仕立て屋を呼べ」
「かしこまりました」
執事がそっと頭を下げる。
「リリアーネ。部屋に行こう。邸も案内する」
「でも……」
「リセリア。すぐに殿下への伝言を頼んだぞ」
そう言って、ジークヴァルト様が私の腰に手を回して邸へと連れて行った。リセリア様は、ムッとしてその様子を後ろから見ていた。
「ジークヴァルト様、先ほどの方は?」
「フェアフィクス王国の王女だ」
「あの方が!?」
「そうだが?」
愛称でジークヴァルト様を呼ぶなんて、何かあるのだろうか。それ以上に呪いをかけた犯人にまさかすぐに会うなんて思わなかった。それに……。
「リセリア王女様は、ジークヴァルト様を慕っているのですね。迎えに出るなんて……」
「俺を好いているせいで、ラッセル殿下との結婚を嫌がったからな。図々しい」
「は?」
「王女が嫌がったせいで、ユーディットがラッセル殿下に嫁いだと言ったはずだが?」
「そうですけど」
ジークヴァルト様を好いている情報は初めて聞いた。好いているだけで、結婚を拒否するのだろうか。
「まさか……恋人ですか?」
「さぁ? 昔付き合っていただけだが?」
「だからですよ。まだ、好きなんですよ!」
「だが、俺は好きでもない。リリアーネが見つかったからな。リリアーネが見つかったから、もう誰とも恋人になる理由がない」
「それも意味がわかりません」
この人は手が早いんじゃないだろうかという思いが、ひしひしと感じる。
歩いている豪華な廊下を見れば、邸中に結婚仕様の白いバラがあちこちに飾られている。
邸中が、結婚ウェルカムムードになってますけど……すぐに結婚をという、圧力まで感じるのは、私だけだろうか。
「リリアーネ。ここが君の部屋だ。欲しいものは何でも言ってくれ」
私に準備したという部屋に着くと、扉の向こうは広くて可愛い、それでいて上品な部屋だった。大きな天蓋のベッドは、見たこともないほど豪華。バルコニーには、花も植えられている。絵画に暖炉……まるで、お城の一室にも引けを取らない。
「すごいです……」
「ドレスも用意させているはずだが……リリアーネは可愛いから、今夜の晩餐のドレス選びも悩ましいな」
衣装部屋を開けられると、衣装部屋一面にドレスや宝石にと並べられている。
すごいですという感想も言えないほど、ぎょっとした。
「リリアーネはどれがいいんだ?」
「豪華すぎて選べません」
「それは困ったな……。だが、晩餐にはドレスが必要だ。使用人たちにも、可愛いリリアーネを拝ませてやってくれ」
「そんな役割が私に!?」
「当然だ。俺の大事な人だからな」
「じゃあ、ジークヴァルト様が選んでください……私には、何色が似合いますか? ドレスなど、本当にわからなくて……」
そっと見上げれば、ジークヴァルト様と目が合い彼が大事なものを見るように眼を細めた。
「そうだな……黒と、紫はどうだ? ああ、これなんかはどうだ?」
そう言って、一着のドレスを見せた。美しい妖艶なマーメイドラインのドレスだ。
「綺麗です……では、今夜はそちらをお願いします」
「ああ、今夜が楽しみだ。それと、ウェディングドレスの仕立て屋も来るから、すぐに選ぼう。リリアーネが気に入るものを選んでくれるか」
「本当にすぐに結婚を?」
「当たり前だ。今も待ちきれないのに……これ以上待てば、狂いそうになる」
「怖いこと言わないでくださいよ」
後ろからギュッと抱き締めてくるジークヴァルト様。その腕にそっと手を添えて彼の腕に照れながら顔を埋めた。
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