死神伯爵のたった一つの溺愛

屋月 トム伽

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死神伯爵 1

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城の宝物庫の一つ。その中でも、この宝物庫は特別だった。
普通の宝物庫と違い、ここだけは呪われた宝物が保管されている。それだけではなく、王族へ向けられた呪いがこの宝物庫に置かれている特別な封魔石に集められていた。そのおかげで、王族は呪いから身を守っていた。

その管理を代々任されているのは、フォルクハイト伯爵家。

宝物庫に行くと、壁中に設置された本棚に執務机。殺風景な宝物庫の執務室の奥には、さらに大きな扉が閉ざされている。封印されている奥には呪いが充満しているのだ。

その扉の隙間から呪いがにじみ出ている。まだ呪いが消えない。
歯ぎしりするほど苛立ち、扉に向かって拳を叩きつけた。

「……いい加減に消えろ。なんでロゼを巻き込むんだ……!」

八年前__。
この宝物庫に、父親が愛人のエルゼラを連れてきたのが発端だった。
どこで知り合ったのか、彼女を愛人とした父親はフォルクハイト伯爵邸にまでメイドという名目で連れてきた。それを知った母親は彼女を酷く鞭で打ち、フォルクハイト伯爵邸から追い出した。

政略結婚だった両親夫婦。母親だけは父親に愛情を向けていたが父は違った。そのせいで、母親は酷く愛人に嫉妬したのだ。

そのうえ、フォルクハイト伯爵邸を追い出されたエルゼラは、大人しく去る女ではなかった。多額の手切れ金も渡されたはずなのに、彼女はそれで納得せず、ある日父親と話をつけるためにこの宝物庫にやって来た。

そして、父親に呪いをかけようとした時に、この扉の中の呪いが反応したのだ。
扉の中に漂っている呪いは、どこにある呪いよりも強い。それが、自分の命を代償にしたエルゼラの呪いと混じってしまった。

エルゼラの呪いは、フォルクハイト伯爵家の断絶。
そのせいで、父親も母親も呪いで亡くなった。王族に向けられるはずの呪いが閉じ込められているために、エルゼラの呪いだけでなく、それは陛下にまで向けられた。

すぐに聖女が召喚されていたが、並の聖女では浄化できるはずもなかった。
そのために、呪いをこの宝物庫に閉じ込めているのだから。
できるのは、聖女の浄化の術で少しずつ浄化するだけだった。

なんとか、王族に向けられることは抑えられたが、その時にはすでに陛下は亡くなっていた。
フォルクハイト伯爵家は、邸に呪いが浸食し次々と人が死んでいく。両親だけでなく、使用人までも。
だが、こんな事態を引き起こしたフォルクハイト伯爵家がお取り潰しにならなかったのは、フォルクハイト伯爵家だけが使える鍵魔法があるため。その魔法が使えないと、この扉を封じることも開くこともできないからだった。

当主であった父親は死に、次の当主の俺はまだ子供。それでも、鍵魔法を使えるのは直系であり最後のフォルクハイト伯爵家に残った自分だけ。それに、両親の不祥事に巻き込まれて死にたくなかった。
何とかして、俺を救おうと城でも手を尽くしたが、エルゼラの呪いは嫉妬心剝き出しの醜いもので、どんな聖女でも一度で全てを浄化できない。この扉の中の呪いと同化してしまったために、聖女でもフォルクハイト伯爵家に向けられたエルゼラの呪いを浄化できなかった。

できたのは、少しでも呪いの浸食を遅らせるため、浄化の術を定期的にかけるだけ。
そして、呪いを閉じ込める役割を担っていたフォルクハイト伯爵家を断絶させることができなかったのだ。

そんなある日、新しい聖女が現れたと噂を聞いた。フォルクハイト伯爵領の隣の領地エーデル伯爵家の令嬢が聖女だと噂を聞いたのだ。

森一つ越えれば、エーデル伯爵家なら近い。外に呪いを巻き込まないように人との接触を避けていたが、森を抜けて新しい聖女に会いに行った。
呪いが浄化されるとは期待してなかった。でも、違うかもしれない。出来なければ、少しでも、次の聖女が浄化の術の施術に来る前に和らげてもらえばいいだけ。それだけを期待して弱っていく身体で会いに行った。

そして、出会ったのがロゼ__クローディアだった。
彼女は、間違いなく聖女だった。誰も浄化出来なかったあの呪いから浄化の術で俺を救ってくれたのだ。
身体が楽になっていくのと同時に、何の見返りも求めてないクローディア。
近づくと呪いに侵されると言われて、誰も近づいてこなかった中でクローディアだけが近づいてきたのだ。

そして、その日から呪いがまったく自分には近づいてこなくなっていた。

彼女にお礼が言いたくて何度も会いに行ったけど、呪いが気になってエーデル伯爵邸は訪ねられなかった。だから、あの木陰で毎日森を抜けて待っていた。

でも、二度目に会ったクローディアは別人のように暗かった。

会いたくて、恋焦がれるようにクローディアを待っていたのに、後日知ったのは彼女が呪われていることだった。

理由はすぐにわかった。
あの時に彼女に触れたからだ。あの瞬間に、彼女に惹かれてしまっていたのに、うかつにも無意識に手を伸ばしていた。

今すぐに死にたい衝動が起きた。でも、生き残ったフォルクハイト伯爵家の当主を誰も死なせてくれない。自分が死んでクローディアの呪いが消えるかどうかの確信もない。

エルゼラの呪いは、嫉妬心からきている。まるで生きているように呪いが蠢いているのだ。
クローディアに呪いがかかったのも、フォルクハイト伯爵の当主の妻になると思われたからだ。

呪いがなければ、間違いなくクローディアに婚約を申し込んでいた。エルゼラの呪いは、それを見抜いていたのだ。




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