君だけの理解者になりたい

ラリックマ

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彼と彼女の過去……

第52話彼女の弱さ……

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 花と登下校を別々にしてから一ヶ月ほどたった。
 あれから俺たちは一言も会話せずに過ごしてきている。
 いまだに花への嫌がらせは終わることなく、どんどんとエスカレートしていっており、もはやいじめといってもおかしくないところまで来ている。
 この前は筆箱ふでばこの中身をごみ箱に捨てられていたし、花の使っている私物はだいたい隠されるか捨てられるかしていた……。
 でも周りの人間は、俺を含めて誰も助けようとしない……。
 下手に干渉したら自分まで危害を加えられるんじゃないか? 
 そう思うと誰も花を助けようとしない。
 そこまでして、いじめられてる奴を助けようとする正義感の強い人間はいない。
 かつての委員長なら、花に救いの手を差し伸べていたかもしれない。
 だが今の委員長は、心配そうな目で花に視線を向けるだけで、それ以上のことは何もしない。
 他のクラスメイトも、同情はしているのだろう。
 でもするだけ……。
 それ以上のことはしようとはしない。
 ここ最近、というか中学二年になってからというもの毎日が憂鬱ゆううつだ。
 俺はこのクラスが嫌いだ……。
 人を蹴落として自分がそいつより上だと周りに見せつけるように、いじめを平気でやるあの女子達が嫌いだ。
 同情の眼差しを向けるくせに何もしないクラスメイトが嫌いだ。
 教師なのに、見てみぬふりをする担任が嫌いだ。
 自分で解決する力があるのに、何もせずやられるがままの矢木澤花が嫌いだ。
 そして……。
 そして、そんな花に何もしてやれない、何もしようとしない無力で臆病おくびょうな自分が大っ嫌いだ……。
 俺はクラスにも、人にも、自分にも失望していた。
 もうすぐ担任の話が終わる。
 最近は教室の施錠せじょうもしていない。
 なぜ俺がこんなクラスのために、わざわざ俺の貴重な時間をいてまで教室の鍵を閉めなければならない?
 これほど時間の無駄なことがあるだろうか。
 日直の号令に合わせて、クラスメイトは次々に教室を出ていく。
 俺もその波に乗るように教室を出る。
 下駄箱でくつに履き替えて立ち上がらろうとしたとき、後ろから『あっ』という声が聞こえた。
 振り向くと、花が右手を前に伸ばしていて、待ってと言わんばかりの表情をしていた。
 俺はその場で花が靴に履き替えるのを待ってから、校舎を後にした。
 花は俺の一歩後を歩くように後ろからついてくるが、会話はない。
 沈黙が続いて気まずい雰囲気がただよう。
 でも何も声をかけてやることは出来ない。
 俺は花に、どんな顔して何を話しかけてやればいいんだ?
 そんな沈黙が続き、気づけば家の前まで来ていた。
 結局何も話さないまま、俺は一言『じゃあ』と声をかけて家に入ろうとする。
 俺が家に入ろうと、ドアの取っ手に手を掛けると、ぎゅっと俺のそでが引っ張られた。
 何事かと後ろを振り向くと、花が俺の制服の袖を人差し指と親指で小さくつまんでいた……。 
 うつ向いたまま袖をつかみ続ける花の行動に、多少困惑したが俺はすぐに冷静になる。
 何か俺に言いたいことがあるのだろう。
 俺は彼女が喋りだすまで待つことにした。
 一分ほどたった時、花は息を大きく吸い、吐き出した。
 そして袖をつかんだまま。

「優太……」

 と小さな声で、弱弱しく俺の名前を呼んだ。
 そして彼女は俺の袖をつかんだまま、顔を上に上げると、真っすぐこちらを見つめる。
 彼女は今にも泣きそうな表情だ。
 目には涙のつぶができており、今にも落ちそうになっている。
 そして一言。

「たすけて……」

 そう口にした。
 その言葉を聞いた俺は、とても心苦しかった。
 花が俺なんかに助けを求めたことに、ショックを受けていた……。
 彼女は何でも一人でできて、他人の力なんか必要としない、とても強い女の子なのだから。
 そんな彼女が俺なんかに助けを求めるなんて、あってはならないことだ……。
 でも、分かっていた。
 彼女だって俺たちと同じ人間だ。
 失敗するときや、誰かに助けを求めることだってある。
 そんなのは分かっていた。
 でも受け入れられなかった。
 俺は一人でなんでもそつなくこなしてしまう彼女に、尊敬し、あこがれていたのだから。
 彼女が弱さを見せて、誰かに助けをうことが許せなかった。
 そして、そんな彼女の弱さを許容きょようできない自分がもっと許せなかった……。
 いろんな感情が混ざりあって、頭がおかしくなりそうだった。
 俺は花につかまれていた左手を振り払うと、『ごめん』と一言そう言って家の中に入った……。
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