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2章 活動の第一歩

同期コラボ③

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 岩本リンカの元気な声がソラの配信を乗っ取っていた。
 通話を繋げた形でのコラボに加え、圧倒的な冒険者としての実力を見せつけることで、嫉妬は受けるものの、配信上では健全な状態が続いていた。

 リンカは用意された質問を行い、ソラの答えに対してリアクションをとっているのだから、主導権は司会役ともいえるリンカに移行される、自然の流れだろう。

 「次の質問にいきますね~冒険者として稼ぐコツってありますか?」

 冒険者は稼げぎたいなら中層でも十分なはずだ。
ただ、ダンジョンの難易度は第一層の難易度を1と設定したとき、表層では一層ごとに難易度が公差1の等差数列的に上がっていく。
 しかし中層になると10層単位で表層最終層である第30層を初項とした公比2の等比数列的に難易度があがっていく。
例を上げると第31層~第40層の難易度は第30層の2倍つまり難易度は60になり、第41層~第50層の難易度は120となる。
 深層以降は正確な情報は一般に公開はされていないが中層までとは比べ物にならないくらいの難易度である。
 ただ、表層から中層区分の第31層に挑戦するだけで難易度が2倍にも膨れ上がる。その為、対策もなしにアマチュアの週末冒険者レベルが中層に挑んむと現世とお別れが出来る。

 その影響もあり、中層以上の素材は表層の2倍以上の価格で取引きされるのが慣習化されている。

 
   よく冒険者の中でこんなブラックジョークが囁かれている。

 冒険者専用生命保険に加入した冒険者らでパーティーを組んで中層に入る。その際に誰かが亡くなれば慰霊金としてパーティーメンバーにも6桁から7桁のお金がもらえるぞ、などという話だ。

配信で言う話ではない。

 「俺が思う初心者向けの稼ぎ方は表層で魔物を大量に仕留めてドロップアイテムを狙うのが一番って思ってる。表層でも稀に、初級ポーションを獲得出来るんだ。ポーションに該当するので獲得時点ですべて国に報告する義務がある代物だし、買い取り価格は60万程度だった記憶がある」

:60万!?
:表層でポーションが出るのは確かに聞くよな
:バイト代わりに挑戦する人とか出てきそうw
:初心者は魔物を大量に狩れない
:ちょっと感覚がズレているんよな
:表層で60万は凄い
:報告義務付きの時点でほぼ手に入らない代物やん
:魔物を大量に狩るなんて危険でしょ(笑)
:この人の初心者の基準が知りたいww

 「赤スパ60回分ですか‼夢がありますね‼」
※赤スパとは一万円以上の現金を支払って有料ステッカーやコメントを送った時に表示されるコメントやステッカーが赤枠になることから、一万円を超えるこれらのメッセージを送ることを指す。

視聴者の反応とは少し違うが、VTuberらしいたとえと言えるだろう。
ただ、リスナーの反応から分かる通り表層とはいえ、ダンジョンは命を落としかねない場所でもあるのだ。

「とはいえ、初級ポーションを得るために、初級ポーションでは癒せない怪我をしかねないから、完全な初心者にはおすすめ出来ないぞ~」

 警告はしっかりと言っておく。万が一でもこの配信を見た小学生が冒険者になって魔物と対峙し身罷る亡くなることとなれば、批判は避けられない。制度上は満10歳から冒険者になることが出来るため、15歳までは保証人がいるが、保証人が目を話した隙に亡くなってしまう可能性はあるのだ。

 もちろんだが新しく冒険者になりたい人のための稼ぐためのアドバイスはしておく。

「本当に完全な初心者からバイト程度でも稼ぎにしたいなら、50万円くらいを支払ってでも国が運営している初心者講習に参加するのが一番良いと思うぞ」

 国が運営している有料の初心者支援講習は、第51層以降の階層に延べ720時間以上の滞在経験がある冒険者が指導員を請け負っている。青空は冒険者デビューから数年もの間、兄という強力なサポートに助けらた経験から、金を支払ってでも先達に経験を積まさせてもらうことの重要性を理解しているのだ。
 
 「しっかりと初心者支援講習を受けたなら、パーティーを組んで魔物の群れを相手にしても健闘できる。あまり知られていないだろうけど国の初心者支援の講習は充実してるぞ」

 「そうなんだ!めっちゃ良い情報だと思う!!」
:そんな制度はじめて聞いたぞ
:実施場所が知りたい!
:初耳だった
:急成長する新人の理由がわかったかも
:...仕事増えるかも

コメント欄の勢いが凄まじい。

 「そろそろ、ソラ君の最高月収、聞かせて貰えるかな?」

 盛り上がりが鰻登りのタイミングで、リンカが問う。
同接数は3万人を超えている。登録者数からいえばあり得ない程の数字だ。
 大勢のリスナーに財力を見せつけ、アンチを根絶やしにする。それがこの配信の目的の一つなのだ。
 ソラは静かに、その金額を言うのであった。
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