16 / 75
第2章 ダンジョン崩壊の後
第十四話 ダンジョン崩壊後の騒ぎ〜アデレードの憂鬱②〜
しおりを挟む
額にかいた嫌な冷汗を拭い、アデレードは影が続けている説明に耳を傾けた。
『痕跡はあまり残されていませんでしたが、膨大な魔力が発せられたことがわかりました。我も調べさせた後自ら行って確認してみましたが、あれは明らかに人智を超えているとしか考えられないですな』
「……どういうことだ」
冷たい汗が流れる。
『痕跡がほとんどなかったこともですが、僅かに残っていたその魔力の密度、濃度、量が凄まじかったのです。』
アデレードは何もかも投げ出して旅にでたい気分になった。
まぁ、実際にそれを実行することはできないことは彼もわかっていたのだが……。
というか、さっきから流れる冷や汗が止まらない。どうしてくれようかと唸るアデレード。
しかし、一方で影もアデレードと同じような気持ちだった。
魔力は多ければ多いほどいいというわけではない。
その魔力の密度や濃度が濃ければ濃いほど、魔力が少なくてもよりよい魔法の構築ができるようになる。
崩壊したダンジョンからはその理想的すぎる条件を満たすだけでなく、僅かながら、魔力量も凄まじかったことも影の長である彼にはわかってしまったのだ。
影は闇魔法を普段から使っているため、魔法には疎くはない方である。
なので、知りたくはなかった現実もはっきり直視してしまったのであった。
アデレードと影は決してお互いがわからないようにポーカーフェイスをしながらも、心の中で乾いた笑いがこみ上げてくるのを止めることはできなかった。
だんだん目が死んでいく二人。
ここにも結菜のチートっぷりの鱗片を感じたことにより、被害が発生してしまっていた。…………哀れなり……。
思わず、合掌したくなりそうな光景であった。
「……まぁ、何だ。本当にご苦労であったな…」
『……ありがとうございます。その一言だけでもストレスが軽減されましたので…………』
お互いを慰めあうアデレードと影。
主従の絆がより一層堅く強固なものとなった瞬間であった。こうして人は成長するのだなと感じる二人。…………できればご遠慮こうむりたい、いやな成長の仕方である。
お互い慰めあって何とか現実逃避からかえってきた二人はまた会話を再開した。
もしかしてと呟くアデレード。何やら思う所があったらしい。
アデレードがためらいながら言葉を切り出す。
「だが、それほどの魔力を持つ者ならば、もしかすると『あれ』になれるのではないのか?」
『さようでございますな。その者ならばもしかすると…………』
影もアデレードに同意した。
「そうか…………」
俯くアデレード。彼の顔には、苦しげな表情が浮かべられていた。
『…………………………………』
「なぁ、影。その者はどのような者かわかるか?」
『……まだ若い少女でございます。黒髪で黒色の不思議な目の色を持つ少女です』
「そうか…………」
アデレードは沈んだ顔で影の返事を聞いた。
少女、か……っとアデレードはぽつりと呟く。
アデレードには、その少女をもし『あれ』にしたらその少女が平穏とはかけ離れた生活をおくらなければならなくなるであろうことはわかっていた。もしかすると過酷な運命の歯車に巻き込まれてしまうかもしれない。
しかし、国王としては一個人のことよりも民のことを考えなければならないこともよくわかっていたのだ。
…………それが例え少女であったとしても。例え、彼女が平穏な生活を望んでいたとしても…………。
影が少し苦しそうな表情をしている主を見て、慰める。
『主よ……。我らの国の偉大なる賢王よ。あなた様の命令に我ら影どもは従います』
不器用ながらも気遣うかのような影を見てアデレードは葛藤を抱えながらも決断した。
跪いているかのように見える揺らめく闇を見つめ、アデレードはふっ、と笑う。
「影、そなたに命令する。その少女を見つけ出し、この城に連れてまいれ。……くれぐれも勇者達以外に姿を見られるでないぞ」
忠義なる者は畏まって命を受けた。
月の光が彼らを照らし出していた。
冷たく彩られた光が部屋に満ちる。
『ご安心を。ちょうどその少女の近くの地域に勇者がいるはず。勇者ならば連れて帰ってきそうですが、念のため連れてくるよう気付かれないように誘導しましょう』
「………頼んだぞ」
月光が雲の陰りで遮られ、温かいシャンデリアの灯りのみが室内を照らした時。
どこか陰りのあるその灯りの中で、影がふわりと揺らめき、闇に溶け込むようにして消えていった。
室内に残されたのは王ただ一人。
彼はふと窓の外に目をやった。
影が消えた部屋で、アデレードは窓の外の大きな月を見つめ、どこか遠くをずっと眺めていた。
その雲の間から覗く月は鋭く冷たい光ではあったが、どこか寂しさをたたえながら、アデレードを見つめ返しているかのようにみえるのであった。
『痕跡はあまり残されていませんでしたが、膨大な魔力が発せられたことがわかりました。我も調べさせた後自ら行って確認してみましたが、あれは明らかに人智を超えているとしか考えられないですな』
「……どういうことだ」
冷たい汗が流れる。
『痕跡がほとんどなかったこともですが、僅かに残っていたその魔力の密度、濃度、量が凄まじかったのです。』
アデレードは何もかも投げ出して旅にでたい気分になった。
まぁ、実際にそれを実行することはできないことは彼もわかっていたのだが……。
というか、さっきから流れる冷や汗が止まらない。どうしてくれようかと唸るアデレード。
しかし、一方で影もアデレードと同じような気持ちだった。
魔力は多ければ多いほどいいというわけではない。
その魔力の密度や濃度が濃ければ濃いほど、魔力が少なくてもよりよい魔法の構築ができるようになる。
崩壊したダンジョンからはその理想的すぎる条件を満たすだけでなく、僅かながら、魔力量も凄まじかったことも影の長である彼にはわかってしまったのだ。
影は闇魔法を普段から使っているため、魔法には疎くはない方である。
なので、知りたくはなかった現実もはっきり直視してしまったのであった。
アデレードと影は決してお互いがわからないようにポーカーフェイスをしながらも、心の中で乾いた笑いがこみ上げてくるのを止めることはできなかった。
だんだん目が死んでいく二人。
ここにも結菜のチートっぷりの鱗片を感じたことにより、被害が発生してしまっていた。…………哀れなり……。
思わず、合掌したくなりそうな光景であった。
「……まぁ、何だ。本当にご苦労であったな…」
『……ありがとうございます。その一言だけでもストレスが軽減されましたので…………』
お互いを慰めあうアデレードと影。
主従の絆がより一層堅く強固なものとなった瞬間であった。こうして人は成長するのだなと感じる二人。…………できればご遠慮こうむりたい、いやな成長の仕方である。
お互い慰めあって何とか現実逃避からかえってきた二人はまた会話を再開した。
もしかしてと呟くアデレード。何やら思う所があったらしい。
アデレードがためらいながら言葉を切り出す。
「だが、それほどの魔力を持つ者ならば、もしかすると『あれ』になれるのではないのか?」
『さようでございますな。その者ならばもしかすると…………』
影もアデレードに同意した。
「そうか…………」
俯くアデレード。彼の顔には、苦しげな表情が浮かべられていた。
『…………………………………』
「なぁ、影。その者はどのような者かわかるか?」
『……まだ若い少女でございます。黒髪で黒色の不思議な目の色を持つ少女です』
「そうか…………」
アデレードは沈んだ顔で影の返事を聞いた。
少女、か……っとアデレードはぽつりと呟く。
アデレードには、その少女をもし『あれ』にしたらその少女が平穏とはかけ離れた生活をおくらなければならなくなるであろうことはわかっていた。もしかすると過酷な運命の歯車に巻き込まれてしまうかもしれない。
しかし、国王としては一個人のことよりも民のことを考えなければならないこともよくわかっていたのだ。
…………それが例え少女であったとしても。例え、彼女が平穏な生活を望んでいたとしても…………。
影が少し苦しそうな表情をしている主を見て、慰める。
『主よ……。我らの国の偉大なる賢王よ。あなた様の命令に我ら影どもは従います』
不器用ながらも気遣うかのような影を見てアデレードは葛藤を抱えながらも決断した。
跪いているかのように見える揺らめく闇を見つめ、アデレードはふっ、と笑う。
「影、そなたに命令する。その少女を見つけ出し、この城に連れてまいれ。……くれぐれも勇者達以外に姿を見られるでないぞ」
忠義なる者は畏まって命を受けた。
月の光が彼らを照らし出していた。
冷たく彩られた光が部屋に満ちる。
『ご安心を。ちょうどその少女の近くの地域に勇者がいるはず。勇者ならば連れて帰ってきそうですが、念のため連れてくるよう気付かれないように誘導しましょう』
「………頼んだぞ」
月光が雲の陰りで遮られ、温かいシャンデリアの灯りのみが室内を照らした時。
どこか陰りのあるその灯りの中で、影がふわりと揺らめき、闇に溶け込むようにして消えていった。
室内に残されたのは王ただ一人。
彼はふと窓の外に目をやった。
影が消えた部屋で、アデレードは窓の外の大きな月を見つめ、どこか遠くをずっと眺めていた。
その雲の間から覗く月は鋭く冷たい光ではあったが、どこか寂しさをたたえながら、アデレードを見つめ返しているかのようにみえるのであった。
22
あなたにおすすめの小説
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる