異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

文字の大きさ
21 / 75
第3章 ダンジョン脱出から約二週間、早朝に誘拐されました‼

第十九話 無理難題なお願い①

しおりを挟む
「えっと、もう謝らなくてもいいので、とりあえず帰ってもいいですか?」
「だめです」 
 はい。凄くいい笑顔でお仲間さんが答えました。あまりの潔さに結菜は呆然とする。
「まぁ、落ち着いてください。ほんのお詫びです。そろそろこの食事処が開店するので何か注文してください。お金はこちらが払うので」
 怪しい。怪しいことこの上ない。そもそも自分は誘拐されて来たのだ。そんな中すぐ簡単に、はいそうですかと信じることができるはずもないのである。
 それに旨い話には裏がある。何か結菜は嫌な予感がしたのだ。それに、小学校時代に知らない人にはついて行かない、話さない、物を受け取らないという言葉を何度聞かされたことか。
 このままではフルコンボ達成してしまう。小学生でもできることを自分ができないはずがないのだ。……すでに二つはもう達成してしまっているのだが。
 なんとか逃げ出せないだろうかと結菜が模索しているうちに、人が近づいてくる気配がした。
「あら、ご来店ありがとうございます。何をご注文で?」
 看板娘っぽい女の人が話しかけてきた。どうやら、もう気配を消していないらしい。
「こちらの方に何か美味しいものを」
 お仲間さんが言うと、女の人はくすくす笑うとすぐに調理場にはけていった。……気まずい沈黙が流れる。結菜がその沈黙に耐えられなくなった頃、お仲間さんが話題を切り出した。
「さて、連れがこんなことをしたのは私にも責任があります。でも訳があるんです」
 何か猛烈に嫌な予感がして仕方がない結菜。とりあえずこの場から全力ダッシュで逃げたくなる。
 結菜はイヤイヤと無意識に首を振った。しかし、当然のことではあるのだが、その無言の要求は受理されない。

「彼は勇者です」
 
 そうなんだととりあえず頷く結菜。「へぇ、ゆうしゃなんだ。ゆうしゃ……ユウシャ……?」っと言いようもない強烈な違和感に結菜は首を傾げた。
「って勇者ぁぁぁーーーーーー⁉」
 誘拐犯は勇者だった。嘘ん⁉本日まさかの二度目のお口ぱっかーんの発生である。ばっと勇者を見ると彫刻のように無表情であった。
 気配を消すのをやめたからか、やっと顔をはっきり認識できた。じっと結菜が眺めていたからか勇者が少しこちらを向いた。
 夜の闇夜を溶かし込んだような限りなく漆黒に近い蒼の髪。何処か影を落とすような光を放つ、夜空のような深い青の瞳。生きているかわからないほどの無表情で突っ立っている彼はフード付きの目立たない色のローブを身につけていた。……イケメンである。ただ、無表情であるが……。

「それと、私は賢者です」

 続けてお仲間さんが爆弾発言を投下する。結菜はまた叫びそうになるのを必死に堪えた。耐えました‼頑張りました‼
 なぜかと言うと、賢者がにっこりと笑いかけていたからである。それも目が笑ってない状態で……。黙れ。賢者の心の声が聞こえきた瞬間であった。目が。目がヤバい。
 頭が外れるくらいぶんぶんと首を振って了解を伝える。もう必死だ……。
 ちなみにこちらの賢者は夜明けの空のような青い髪と金の目をした美人さんであった。
 その美人さんが、えい‼もういっちょ‼とばかりにさらなる追加爆弾発言を投下してくる。

「簡単に言うと、私達と一緒に来てほしいんです」

 無理なお願いだと思い、結菜は遠い目をした。なんで私?と結菜が思ったのも無理も無い。
 ぼんやりしている結菜に、さっきの女の人がホットミルクを出してくれた。今朝搾ったばかりの新鮮なミルクを使用しているらしい。こっちの世界に戻ってきた結菜はホットミルクを有り難くいただきながら、賢者に質問した。

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...