40 / 75
第5章 聖女として……
第三十八話 魔物の大群発生
しおりを挟むパキンッ
空間が割れるような音がする。
ルーベルト王国の端にある、とある辺境にて一人の騎士が空を見上げた。
「…………空が割れてる。また魔物が発生したのか」
またかと騎士はため息をついた。
ここは比較的、他の地域と比べても魔物が出やすい所でもある。それ故に騎士はすぐさま新たな魔物が発生した事がわかった。
いつも通り騎士団に連絡をして、魔物を倒せばいい。
もし、複数の魔物が発生しているのであれば、王都に使いを出すか騎士団に設置されてある通信用の水鏡を使って勇者様と賢者様を呼んだらいいだけだ。
「しかし、何かこの頃魔物の発生回数が多いんだよなぁ」
騎士団に走って戻りながら騎士はぽつりと呟いた。
普段なら月一回あるかないかくらいの頻度だったのに、今月はもうこれで二回目である。
こうも何度も発生されると、流石にこちらも対処しきれない。
このままだと付近の多くの村人達や町民達全員を守り抜く事が困難になってしまう。
(村のおばちゃん達大丈夫かなぁ?町と違って、村には外壁とかないし…………。早く発生した魔物を倒さなきゃだよな)
騎士は何だかんだで親切な村の人達の安全を心配しながら、報告するために騎士団長の元へかけていった。
辺境騎士団の建物内に入り、団員全員が集まっている団員室に騎士は慌てて駆け込んでいく。
バタンと勢いよく扉を開ける。
到着した若い騎士を待っていたのは、葉巻き煙草をふかしているここの辺境騎士団団長の姿であった。
「どうした。何かあったのか?」
「はっ‼ただいま魔物の発生を確認しました‼至急討伐願います‼」
敬礼しながら騎士は早口で報告した。魔物の発生から報告まで少し時間がかかってしまった。
早くしなくてはという焦りでまくしたてるかのような口調になったのだが、見逃していただきたいところである。
しかし、そんな騎士の姿を一瞥さえせず、豚のように丸々と太った辺境騎士団団長は相変わらず呑気に煙草をふかしていた。
「そうか。なら討伐するように騎士達に伝えておけ」
何をそんなにのんびりしているんだ‼と騎士は怒りを感じた。
付近の村が危険にさらされているというのに、相変わらずこの辺境騎士団団長はそれを他人事としている。
そもそもこの辺境騎士団団長は部下に仕事を押し付け、団長としての仕事は辺境騎士団副団長に任せっきりにしていた。
しかし、団長が貴族階級だからかその態度は見てみぬふりをされている。不正とか汚職とかでもしているんじゃないか?というのがもっぱらの噂であった。
実質この辺境騎士団は副団長が取りまとめているようなものであった。
「失礼します‼団長、魔物の数がわかりました‼数およそ十以上‼」
新たに他の騎士が報告しに室内に飛び込んできた。
騎士団内の騎士達がざわりとざわめいた。そんなに多く発生したとなると討伐はできないとすぐに理解できる案件だったのだ。
不安や動揺が波のように広がっていく。
それを団長の側にいた副団長が、手を叩いて静まらせた。
「静まれ‼すぐに部隊を編成しろ‼王都に緊急連絡をとれ‼至急だっ!勇者様が来るまで全力で持ちこたえるんだ‼」
「「「「「はっ‼」」」」」
騎士団の騎士全員が敬礼して、慌ただしく走っていく。
もう、本来指揮権があるはずの騎士団団長は頷くだけの役立たずと化していた。……本当に役に立たない。
騎士はやるせない怒りを全て呑み込んで、自身の役割を果たすためにかけていった。
村の人達を守るために……。
そして、国を守るために…………。
早く勇者が来てくれる事を、自分達が守り切れている間に来てくれる事を、騎士はやり場のない悲痛な思いで願いながら自分の部隊へと合流したのであった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる