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第5章 聖女として……
第四十二話 魔物との戦闘①
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「グルルル………………」
避難が終わった村を背後に、騎士団のそれぞれの部隊が押し寄せる魔物達を必死の形相で食い止める。
今、村は無人だがここで引くわけにはいかない。この村の先にはさらに多くの人がいる町があるのだ。ここで食い止めなければ後がないということは各々重々承知していた。それに、村はその村の住民の大切な居場所である。いつも何気なく自分達を気づかってくれている村人達に、今こそ恩に報いる時だと騎士達は奮い立った。
「ッ‼……くそ‼きりがねぇ‼」
「おい‼気を抜くな‼また来るぞ‼」
「わかっている‼」
いつもなら風が気持ちいい広大な草原が、魔物の群れのせいで物々しい空気に包まれている。無造作に放たれる魔物の攻撃を一撃一撃凌ぐのがやっとという感じに、内心騎士達は焦りを覚えていた。このままでは魔物共に押し切られてしまうのではないかとさえ思ってしまう。
重い攻撃を躱しながら、騎士達は果敢に攻撃を繰り返した。一進一退の攻防が続く。しかし、疲労を感じるということが一切ない魔物達相手には分が悪い。
疲労どころか、傷の痛みさえもものともせずに波のように襲って来る魔物。その一方で騎士達は傷を受け、疲労も回復する暇もなく戦っていた。どう考えても、結果は明白。騎士達は応援に駆けつけて来てくれるはずの勇者達に望みを託すしか方法がなかった。
「小隊長っ‼後ろ‼」
悲鳴のような声が、飛んで襲って来る手負いの魔物の存在を教えた。
「ちぃっ‼」
部隊の小隊長が振り向きざまに抜いた剣で魔物の首を跳ね飛ばす。
魔物は大量の瘴気を噴出させながら、倒れ弾けた。
「よしっ‼一体倒した‼」
その姿を見ていた騎士の一人がようやくの成果に喜びの声を上げた。ここまでの戦闘は未だかつて経験したことがない。こんな大群の魔物が発生したことは今までなかったのだ。だが、まだ自分達でもこれらの魔物を倒せるんだと何人もの騎士達が己の心を奮い立たせる。
これなら賢者と勇者が来るまでいくらか倒せるかもしれないという慢心さえ生まれてきてしまった。場の空気が一瞬緩んだ。その慢心が自らの足元をすくうことになるとは知らずに……。
ズズッ………………
空気が渦を巻き、撒き散らされたはずの瘴気が塊を作り出す。いつの間にか魔物の発生と伴い、この草原の大気中に膨大な量の瘴気が発生していたのだ。もちろんそのことに気づく者は誰一人もいない。
黒く蠢く霧のような瘴気は次第に形を形成し魔物の姿となる。それも、ようやく倒したはずの魔物の姿が傷一つなく……。
「……あっ、あぁ………………」
どこからともなく絶望の声が漏れた。自らの姿を形成し終わった魔物は、自身の紅く濁った目で目の前にいる一人の若い騎士を眺めた。無造作に上げた腕を振り下ろす。
「……おい‼逃げろぉぉぉぉぉぉ‼」
彼の仲間の誰かが大気も震える大きな声で叫んだ。だが、足が竦み動くことができない。微かに声が漏れる。
(ごめん、村のおばちゃん。俺もう………………)
かろうじて動く頭の中で、騎士は今までの暖かい記憶がフラッシュバックしていくのを感じた。仲間の叫び声が聞こえる。
彼は自身の死を覚悟した。
しかし、次の瞬間、
「A"p4-iG: ―風を纏い切断―」
ぱっと草の上に血が舞う。人間ではない魔物の血の独特な匂いに騎士は目を見開いた。
「後ろに下がれ。自分の部隊に合流しろ」
目の前の男が無表情で告げる。白銀の髪、深い青の瞳。一ヶ月前の魔物の発生の時に現れて、この辺境を守ってくれた人。
「勇者様だ……」
誰かが呟いた。
「遅くなりました。もう大丈夫ですよ」
もう一人の少し長めの青い髪をした光の目の色の男が、一帯の騎士達に声をかける。突然の勇者と賢者の登場に、希望を抱く騎士達。
「お前達、気を抜くんじゃない‼まだ魔物は消滅していないぞ‼全力で勇者様達の援護をしろ‼」
勇者達を連れて来てくれた副団長の喝に、全部隊が命令に従って展開していく。もう彼らの顔には絶望感は欠片もなかった。眼前にいる敵を見据える。
賢者と勇者が《世界の言葉》を紡ぐ。世界から認められた者にしか使えないその言葉は、いとも容易く魔物の身体に大きな傷を付けていく。
《世界の言葉》は世界に直接お願いして力を発現させる言の葉のこと。己の生命エネルギーとも言える存在値を代償に世界の力を引き出すのだ。いくら瘴気で回復できるという魔物も、この力には抗えない。聖の力の他で唯一魔物の傷の回復を許さない攻撃力を《世界の言葉》は持っているのだ。
「/:hT:4 ―付与―」
勇者が剣にエンチャントをし、攻撃力を上乗せして斬りつける。すかさず賢者も《世界の言葉》を使い、魔物に攻撃を仕掛けた。騎士団の部隊も彼らの援護をして、魔物達を押していく。
瘴気を撒き散らしながら、魔物は一体また一体と数を減らしていく。
勇者達の絶え間なく続く攻撃に魔物達は反撃する機会もなく瘴気と化してゆき、残りの魔物の数はあと数体となった。
「よぅし‼あと一息だ‼」
ようやく見えて来た勝利の兆しに勝どきを上げ始める騎士達。辺境一帯を守れそうだと安堵と喜びの入り混じった表情で、今もなお次々と魔物を倒していく勇者と賢者に目を向ける。
しかし、彼らは疲労や怪我、その上濃度の濃い瘴気を受けた青い顔をして苦しそうに息をしていた。中には倒れそうなくらいの者までいる。
賢者はすぐに騎士達のその辛そうな姿に気づいた。もう魔物の数も残りあと一体。これならば勇者と自分だけでも倒せる。すぐに彼らに辺境騎士団に戻って手当てを受けるよう促す。
「魔物は粗方片付きました。魔物の影響で瘴気が濃いので早く、」
グォォォォォォ…………‼
彼の言葉を遮って、魔物の咆哮が草原一帯に轟いた。怒りに満ちたその声がビリビリと大気を振動させる。
大気が歪み、倒された魔物が瘴気となり、その魔物に吸収されていく。瘴気の黒い霧が渦を巻いて、その魔物に飲み込まれていった。
あまりの出来事に呆気に取られる一同。さきほどとは比べ物にならないくらいの絶望感がひしひしと広がっていく。
その魔物は初めて発生した大型の魔獣であった…………。
避難が終わった村を背後に、騎士団のそれぞれの部隊が押し寄せる魔物達を必死の形相で食い止める。
今、村は無人だがここで引くわけにはいかない。この村の先にはさらに多くの人がいる町があるのだ。ここで食い止めなければ後がないということは各々重々承知していた。それに、村はその村の住民の大切な居場所である。いつも何気なく自分達を気づかってくれている村人達に、今こそ恩に報いる時だと騎士達は奮い立った。
「ッ‼……くそ‼きりがねぇ‼」
「おい‼気を抜くな‼また来るぞ‼」
「わかっている‼」
いつもなら風が気持ちいい広大な草原が、魔物の群れのせいで物々しい空気に包まれている。無造作に放たれる魔物の攻撃を一撃一撃凌ぐのがやっとという感じに、内心騎士達は焦りを覚えていた。このままでは魔物共に押し切られてしまうのではないかとさえ思ってしまう。
重い攻撃を躱しながら、騎士達は果敢に攻撃を繰り返した。一進一退の攻防が続く。しかし、疲労を感じるということが一切ない魔物達相手には分が悪い。
疲労どころか、傷の痛みさえもものともせずに波のように襲って来る魔物。その一方で騎士達は傷を受け、疲労も回復する暇もなく戦っていた。どう考えても、結果は明白。騎士達は応援に駆けつけて来てくれるはずの勇者達に望みを託すしか方法がなかった。
「小隊長っ‼後ろ‼」
悲鳴のような声が、飛んで襲って来る手負いの魔物の存在を教えた。
「ちぃっ‼」
部隊の小隊長が振り向きざまに抜いた剣で魔物の首を跳ね飛ばす。
魔物は大量の瘴気を噴出させながら、倒れ弾けた。
「よしっ‼一体倒した‼」
その姿を見ていた騎士の一人がようやくの成果に喜びの声を上げた。ここまでの戦闘は未だかつて経験したことがない。こんな大群の魔物が発生したことは今までなかったのだ。だが、まだ自分達でもこれらの魔物を倒せるんだと何人もの騎士達が己の心を奮い立たせる。
これなら賢者と勇者が来るまでいくらか倒せるかもしれないという慢心さえ生まれてきてしまった。場の空気が一瞬緩んだ。その慢心が自らの足元をすくうことになるとは知らずに……。
ズズッ………………
空気が渦を巻き、撒き散らされたはずの瘴気が塊を作り出す。いつの間にか魔物の発生と伴い、この草原の大気中に膨大な量の瘴気が発生していたのだ。もちろんそのことに気づく者は誰一人もいない。
黒く蠢く霧のような瘴気は次第に形を形成し魔物の姿となる。それも、ようやく倒したはずの魔物の姿が傷一つなく……。
「……あっ、あぁ………………」
どこからともなく絶望の声が漏れた。自らの姿を形成し終わった魔物は、自身の紅く濁った目で目の前にいる一人の若い騎士を眺めた。無造作に上げた腕を振り下ろす。
「……おい‼逃げろぉぉぉぉぉぉ‼」
彼の仲間の誰かが大気も震える大きな声で叫んだ。だが、足が竦み動くことができない。微かに声が漏れる。
(ごめん、村のおばちゃん。俺もう………………)
かろうじて動く頭の中で、騎士は今までの暖かい記憶がフラッシュバックしていくのを感じた。仲間の叫び声が聞こえる。
彼は自身の死を覚悟した。
しかし、次の瞬間、
「A"p4-iG: ―風を纏い切断―」
ぱっと草の上に血が舞う。人間ではない魔物の血の独特な匂いに騎士は目を見開いた。
「後ろに下がれ。自分の部隊に合流しろ」
目の前の男が無表情で告げる。白銀の髪、深い青の瞳。一ヶ月前の魔物の発生の時に現れて、この辺境を守ってくれた人。
「勇者様だ……」
誰かが呟いた。
「遅くなりました。もう大丈夫ですよ」
もう一人の少し長めの青い髪をした光の目の色の男が、一帯の騎士達に声をかける。突然の勇者と賢者の登場に、希望を抱く騎士達。
「お前達、気を抜くんじゃない‼まだ魔物は消滅していないぞ‼全力で勇者様達の援護をしろ‼」
勇者達を連れて来てくれた副団長の喝に、全部隊が命令に従って展開していく。もう彼らの顔には絶望感は欠片もなかった。眼前にいる敵を見据える。
賢者と勇者が《世界の言葉》を紡ぐ。世界から認められた者にしか使えないその言葉は、いとも容易く魔物の身体に大きな傷を付けていく。
《世界の言葉》は世界に直接お願いして力を発現させる言の葉のこと。己の生命エネルギーとも言える存在値を代償に世界の力を引き出すのだ。いくら瘴気で回復できるという魔物も、この力には抗えない。聖の力の他で唯一魔物の傷の回復を許さない攻撃力を《世界の言葉》は持っているのだ。
「/:hT:4 ―付与―」
勇者が剣にエンチャントをし、攻撃力を上乗せして斬りつける。すかさず賢者も《世界の言葉》を使い、魔物に攻撃を仕掛けた。騎士団の部隊も彼らの援護をして、魔物達を押していく。
瘴気を撒き散らしながら、魔物は一体また一体と数を減らしていく。
勇者達の絶え間なく続く攻撃に魔物達は反撃する機会もなく瘴気と化してゆき、残りの魔物の数はあと数体となった。
「よぅし‼あと一息だ‼」
ようやく見えて来た勝利の兆しに勝どきを上げ始める騎士達。辺境一帯を守れそうだと安堵と喜びの入り混じった表情で、今もなお次々と魔物を倒していく勇者と賢者に目を向ける。
しかし、彼らは疲労や怪我、その上濃度の濃い瘴気を受けた青い顔をして苦しそうに息をしていた。中には倒れそうなくらいの者までいる。
賢者はすぐに騎士達のその辛そうな姿に気づいた。もう魔物の数も残りあと一体。これならば勇者と自分だけでも倒せる。すぐに彼らに辺境騎士団に戻って手当てを受けるよう促す。
「魔物は粗方片付きました。魔物の影響で瘴気が濃いので早く、」
グォォォォォォ…………‼
彼の言葉を遮って、魔物の咆哮が草原一帯に轟いた。怒りに満ちたその声がビリビリと大気を振動させる。
大気が歪み、倒された魔物が瘴気となり、その魔物に吸収されていく。瘴気の黒い霧が渦を巻いて、その魔物に飲み込まれていった。
あまりの出来事に呆気に取られる一同。さきほどとは比べ物にならないくらいの絶望感がひしひしと広がっていく。
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