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第5章 聖女として……
第四十三話 魔物との戦闘②
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魔物は瘴気を取り込んで、形をゆっくり大きく変えていく。それはどう見ても異常としか言えない姿であった。
「……な、何なんだ⁉この魔物は…………‼」
「おいおい、嘘だろ⁉何で魔物が仲間の瘴気を取り込んでいるんだよ……………………‼」
半ばパニック状態に陥る騎士達。
「落ち着いてください‼怪我や瘴気の影響を受けてしまっている者達は直ちに後方の村の方に退避していてください‼」
賢者が魔物の状態が安定する時間をできるだけ遅らせようと《世界の言葉》を行使する。勇者も懸命にエンチャントをしながら剣戟を放つ。
魔物は自分の仲間の瘴気を取り込んで苦しそうに蠢く。瘴気の量が多すぎるのだ。しかし、自らの許容範囲を超えてまで絶対的強者となり、殺された仲間の仇をとろうと限界値を無理やりこじ開けようとする。知能や理性はない。それは本能的な行動であった。恐怖とそれをさらに超える恨みと怒り。それこそが原動力。
グォォォォォォォォ……………………‼
瘴気を周囲に撒き散らしながら、雄叫びを上げる。衝撃波が巨大な波のように襲って来る。賢者と勇者以外の者達は皆あまりの衝撃に耐えられず、魔物の近くにいた者達は後方に向かって吹き飛ばされた。
咆哮だけ、そう、咆哮だけでもこの威力。圧倒的な威圧感。この魔物は今までの魔物とどこか違う気配が感じられる。
(まさか、この感じは……………………)
勇者と賢者は頬に冷たい汗が流れるのを感じた。
今までの討伐の中で一度だけ、この気配を感じたことがある。つい三ヶ月前の討伐の時に感じた気配と同じ感じ。
あの時、甚大な被害があったことを二人はまだ忘れていなかった。いや、忘れられるはずもない…………あの地獄のような光景は……………………。
「ッ‼皆さん、早くここから逃げてください‼今すぐに‼」
賢者が声を上げる。
「し、しかし。それだとあの魔物は……」
「いいから早く逃げてください‼あれは、あの魔物は普通の魔物とは違います‼」
ざわりと騎士達がざわめいた。
「あの様子だと、これからも瘴気を取り込み続ける。その後、進化するかもしれない」
「進化?そんなバカな…………。だって、魔物は進化や成長もしないはずでは………………」
「そうです。今まではそうでした。しかしこの前の討伐の際、周りの仲間を殺された魔物が自らの意思で瘴気を取り込んで、進化するところを私達はこの目で見たんです‼」
「あぁ、そうなったらここ一帯は瘴気の海となる。今すぐに逃げた方が安全だ」
予想だにしないその言葉に、呆然とする騎士達。自分達の常識が崩されていくのを彼らは実感した。
勇者が遂に状態の安定しだした魔物に向き合った。剣が音をたてる。
グゥォォォォォォオオオオオオッ…………‼
一際大きな雄叫び。黒い霧が竜巻のように渦を巻き、魔物の身体から大量の瘴気が放出された。瘴気を吸わないように、ぐっと息を詰める騎士達。
苦しげな気配が消え、魔物がすっと起き上がった。傷が消え失せ、紅い瞳の光がどす黒い血のような濁った色に変わり、不気味な光を発している。
騎士達は今まで感じたことのない圧倒的な威圧感と瘴気のあまりの濃さに戦慄した。
〈3:D-h5bV_3_"ack:.g-e8_ p75.d-A-bV_@y24"ack:.paf5--"b8@epf.……--a-eepf.…………a:x8_epeg.〉
―存在値の急増を確認。対象 魔物。災害級であることを確認。魔核の生成を許可します。……生成開始します。…………完了しました。―
どこからか音声が鳴り響く。誰かの声というより、音の強弱で発せられた周波のような意識に介するような音声。だが何故か誰もがその音声の言葉の意味を理解できた。
しかし、理解できるからこそ、恐ろしさが心を支配する。
魔物が本当に進化をしてしまったのだとわかってしまったのだ。
もし音声の意味の通りなら、あの魔物に魔核が生まれてしまったのである。瘴気を目一杯取り込んで進化したというのだからより一層強くなっているだろう。
騎士達は避難をする余裕などなく、ただ立つことしかできない。本当の絶望がその場を支配していた。
「何をしている‼さっさと逃げろ‼」
「そうです‼早くここから逃げてください‼今からでも遅くありませんから‼」
たった二人、その空気に飲み込まれていない者がいた。その二人の必死な声に、はっとなる騎士達。
「勇者様方、申し訳ありません。我々はここで。どうかここをよろしくお願い致します‼」
副団長が己の不甲斐なさに悔しそうに顔を歪める。
「大丈夫です。さぁ、早く」
「はっ‼……総員退避‼全速力で町に戻れ‼ここは勇者様方に託し、我々は町の方の防御を固めるぞ‼」
「「「「はっ‼」」」」
騎士達が草原を駆け抜け、町の方へ向かっていく。
時間が経つにつれ瘴気がより一層濃くなりだんだん視界が悪くなっていく。草原の草がシュウと音をたてて枯れていった。
勇者と賢者はもう一度気を引き締めた。もうミスは許されない。早くあの魔物を倒さなければ、どれだけの被害が出るか…………。それを考えるだけでも寒気がする。
「大丈夫ですか?」
「お前こそ大丈夫なのか?顔青白くなってるぞ」
「それはあなたもじゃないですか」
お互い緊張をほぐすかのように言葉をかわす。
《世界の言葉》の代償で存在値を使い過ぎたようだ。生命エネルギーである存在値を使い過ぎると命に関わる。いくら世界に選ばれた勇者と賢者で、存在値の量が他人よりも多いからと言っても生命エネルギーが無限にあるわけではないのだ。
「早く片付けるぞ」
「えぇ、最短最速でね」
武者震いがする。
自分達はここで負けるわけにはいかない。
「それに、ユーナさんが来なくても良いようにしなければなりませんしね‼」
「……お前らしいな」
「えぇ、私は約束は守る人間ですから」
こんな時でも、いやこんな時だからこそだろうか……。
いつもより相手の今の思いがはっきりわかる。
手に取るようにはっきりと…………。
くすりと勇者と賢者はお互いを見て笑った。
「さぁ、行きますよ‼」
「あぁ」
《世界の言葉》を唱える。どっと身体の熱が抜けていく感覚がする。
勇者と賢者はこちらに向かって来る魔物を倒すために全力で走っていった。
「……な、何なんだ⁉この魔物は…………‼」
「おいおい、嘘だろ⁉何で魔物が仲間の瘴気を取り込んでいるんだよ……………………‼」
半ばパニック状態に陥る騎士達。
「落ち着いてください‼怪我や瘴気の影響を受けてしまっている者達は直ちに後方の村の方に退避していてください‼」
賢者が魔物の状態が安定する時間をできるだけ遅らせようと《世界の言葉》を行使する。勇者も懸命にエンチャントをしながら剣戟を放つ。
魔物は自分の仲間の瘴気を取り込んで苦しそうに蠢く。瘴気の量が多すぎるのだ。しかし、自らの許容範囲を超えてまで絶対的強者となり、殺された仲間の仇をとろうと限界値を無理やりこじ開けようとする。知能や理性はない。それは本能的な行動であった。恐怖とそれをさらに超える恨みと怒り。それこそが原動力。
グォォォォォォォォ……………………‼
瘴気を周囲に撒き散らしながら、雄叫びを上げる。衝撃波が巨大な波のように襲って来る。賢者と勇者以外の者達は皆あまりの衝撃に耐えられず、魔物の近くにいた者達は後方に向かって吹き飛ばされた。
咆哮だけ、そう、咆哮だけでもこの威力。圧倒的な威圧感。この魔物は今までの魔物とどこか違う気配が感じられる。
(まさか、この感じは……………………)
勇者と賢者は頬に冷たい汗が流れるのを感じた。
今までの討伐の中で一度だけ、この気配を感じたことがある。つい三ヶ月前の討伐の時に感じた気配と同じ感じ。
あの時、甚大な被害があったことを二人はまだ忘れていなかった。いや、忘れられるはずもない…………あの地獄のような光景は……………………。
「ッ‼皆さん、早くここから逃げてください‼今すぐに‼」
賢者が声を上げる。
「し、しかし。それだとあの魔物は……」
「いいから早く逃げてください‼あれは、あの魔物は普通の魔物とは違います‼」
ざわりと騎士達がざわめいた。
「あの様子だと、これからも瘴気を取り込み続ける。その後、進化するかもしれない」
「進化?そんなバカな…………。だって、魔物は進化や成長もしないはずでは………………」
「そうです。今まではそうでした。しかしこの前の討伐の際、周りの仲間を殺された魔物が自らの意思で瘴気を取り込んで、進化するところを私達はこの目で見たんです‼」
「あぁ、そうなったらここ一帯は瘴気の海となる。今すぐに逃げた方が安全だ」
予想だにしないその言葉に、呆然とする騎士達。自分達の常識が崩されていくのを彼らは実感した。
勇者が遂に状態の安定しだした魔物に向き合った。剣が音をたてる。
グゥォォォォォォオオオオオオッ…………‼
一際大きな雄叫び。黒い霧が竜巻のように渦を巻き、魔物の身体から大量の瘴気が放出された。瘴気を吸わないように、ぐっと息を詰める騎士達。
苦しげな気配が消え、魔物がすっと起き上がった。傷が消え失せ、紅い瞳の光がどす黒い血のような濁った色に変わり、不気味な光を発している。
騎士達は今まで感じたことのない圧倒的な威圧感と瘴気のあまりの濃さに戦慄した。
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どこからか音声が鳴り響く。誰かの声というより、音の強弱で発せられた周波のような意識に介するような音声。だが何故か誰もがその音声の言葉の意味を理解できた。
しかし、理解できるからこそ、恐ろしさが心を支配する。
魔物が本当に進化をしてしまったのだとわかってしまったのだ。
もし音声の意味の通りなら、あの魔物に魔核が生まれてしまったのである。瘴気を目一杯取り込んで進化したというのだからより一層強くなっているだろう。
騎士達は避難をする余裕などなく、ただ立つことしかできない。本当の絶望がその場を支配していた。
「何をしている‼さっさと逃げろ‼」
「そうです‼早くここから逃げてください‼今からでも遅くありませんから‼」
たった二人、その空気に飲み込まれていない者がいた。その二人の必死な声に、はっとなる騎士達。
「勇者様方、申し訳ありません。我々はここで。どうかここをよろしくお願い致します‼」
副団長が己の不甲斐なさに悔しそうに顔を歪める。
「大丈夫です。さぁ、早く」
「はっ‼……総員退避‼全速力で町に戻れ‼ここは勇者様方に託し、我々は町の方の防御を固めるぞ‼」
「「「「はっ‼」」」」
騎士達が草原を駆け抜け、町の方へ向かっていく。
時間が経つにつれ瘴気がより一層濃くなりだんだん視界が悪くなっていく。草原の草がシュウと音をたてて枯れていった。
勇者と賢者はもう一度気を引き締めた。もうミスは許されない。早くあの魔物を倒さなければ、どれだけの被害が出るか…………。それを考えるだけでも寒気がする。
「大丈夫ですか?」
「お前こそ大丈夫なのか?顔青白くなってるぞ」
「それはあなたもじゃないですか」
お互い緊張をほぐすかのように言葉をかわす。
《世界の言葉》の代償で存在値を使い過ぎたようだ。生命エネルギーである存在値を使い過ぎると命に関わる。いくら世界に選ばれた勇者と賢者で、存在値の量が他人よりも多いからと言っても生命エネルギーが無限にあるわけではないのだ。
「早く片付けるぞ」
「えぇ、最短最速でね」
武者震いがする。
自分達はここで負けるわけにはいかない。
「それに、ユーナさんが来なくても良いようにしなければなりませんしね‼」
「……お前らしいな」
「えぇ、私は約束は守る人間ですから」
こんな時でも、いやこんな時だからこそだろうか……。
いつもより相手の今の思いがはっきりわかる。
手に取るようにはっきりと…………。
くすりと勇者と賢者はお互いを見て笑った。
「さぁ、行きますよ‼」
「あぁ」
《世界の言葉》を唱える。どっと身体の熱が抜けていく感覚がする。
勇者と賢者はこちらに向かって来る魔物を倒すために全力で走っていった。
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