異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

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第5章 聖女として……

第四十四話 団長の本性

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「何?あれ…………」
 結菜が呟いた。あれからずっと風の耳を使っていたのだか、何だか様子がおかしい。
 勇者達が向かった後、一旦大丈夫そうにみえた。魔物の数も順調に減っていっているのを風が教えてくれていた。
 しかし、今魔物が残り数体となったところで異常な事態が起こったことが結菜にはわかった。
 急な変化だったので何となくしかわからなかったのだが、今までよりも魔物の数は減っているのにもかかわらず、一体の魔物がいきなり強くなったように思えたのだ。
 今まで以上にヤバい事態が発生したのではないだろうか…………。
 背に冷たいものが流れる。
『どうしたのだ?主』
 ロンが心配そうに下から見上げてくる。団長も今までずっとにこにこと話を聞いてくれていた結菜がいきなり真剣そうな表情になったのを見て不審に思った。
「聖女様、どうかなされたのですか?まさかお気に召さないことでも?」
「いや、そういうわけではないんだけど……。…………何かあっちの方が大変なことになっているみたいだからさ」
「大変なこと、ですか?」
「うん、魔物の様子がおかしいみたい。私、行った方がいいんじゃ……」
 不安げにそう漏らす結菜に、団長は慌てた。このまま結菜を魔物のところに行かすわけにはいかない。まだ討伐完了の報告もきていないのだ。それなのに、そんな危険地帯に聖女に行ってもらっては自分が困る。
(冗談じゃない‼もし万が一聖女様の身に何かあったら、この私が罰を与えられかねん‼何としてでも阻止しなければ…………‼)
 団長は自分の保身のためにあらゆる手を考えた。自分は辺境騎士団団長ではあるが貴族階級の人間でもある。聖女というのはなかなかいない大切な存在なのだ。そんな彼女の身に何かあれば、自分の責任になりかねない。
 自分の安全な昇進のためにも、国王陛下の怒りだけは買いたくはなかった。
 勇者と賢者とは違って、聖女には戦闘力がないということは勇者達の会話でわかっていた。それなのに、そんな危険地帯の中に無力な聖女を行かせることは許されない。
「聖女様。それは止めた方がいいかと。勇者様方もお止めになられていたのをお忘れですか?」
 咎めるように言う団長。
「それはそうだけど……。でも流石にヤバいんじゃ…………」
「もしそうだとしても、あなたを行かせるわけにはいけません。せめて状況がはっきりわかるまでは我慢してください」
 確かにその通りだ。団長の説得を聞いて、結菜は一旦冷静になって考える。自分がしなくてはならないことは浄化である。どうして魔物の様子がおかしくなったのかはっきりわからないのに、勇者達が戦っている所にすぐに行くことはできない。団長の言っていることはもっともであった。
「……わかりました」
 とりあえず状況がわかるまでは、と自分を無理やり説得する。
 団長が機嫌を伺うかのようにごまをすってくるが、結菜はあまり気にせずロンのもふもふふわふわな毛を堪能しながら気持ちを落ち着けた。
(やっぱりもふもふは正義だね……。あっと言う間に気持ちが和らぐよ……)
 すりすりしたいがこんな状況なのでぐっと我慢する。その代わりとは言ってはなんだが、ワシャワシャとロンを撫でまくる結菜。不安とかでささくれだっていた気持ちが落ち着いていく。
 不安とかの気持ちの反動で、いつも以上に触りまくってしまった。
『あ、主‼くすぐったい‼くすぐったいぞ‼』
 くすぐったさのあまり、身をよじるロン。小さな白い毛まりがくるくる動いているみたいで和む。
(うん‼やっぱりもふもふは正義だね‼これ確定‼)
 もふもふを堪能して、結菜はすっかり平常心に戻った。いつも通りである。ロンは結菜の中で癒やしアイテムカテゴリに認定された。ビバ·モフモフ‼最っ高だね‼……切り替えだけは相変わらず早い結菜であった。
 もふもふを堪能しながらも、もちろん外の状況の警戒は怠らない。結菜は平常心で風の耳を展開し続けた。何だかんだ何が起こるかわからないからである。
 外から人が数名戻って来た音がするのを結菜はいち早く察知した。足音が次第にこちらに近づいてくる。
(騎士さん達かな?)
 結菜は扉の方へとふと視線を上げた。
 複数名の足音がする。
 扉が勢いよく開けられ、副団長と何名かの騎士が部屋に入って来た。
「団長。報告致します。ただいま負傷者·瘴気被害者多数続出のため、戦線を離脱いたしました。まだ魔物は討伐完了していません。被害があまりない者達が町の防衛に徹しております」
 副団長が速やかに団長に報告した。
「勇者殿と賢者殿はどうしたのだ」
「瘴気の濃度が濃いため、今はあの場を託しております。ですが、このまま終わるわけにはまいりません。至急回復ポーションと瘴気防御シールドの使用の許可をいただきたいのですが」
 どうやら回復次第任務を続行しようとしているみたいである。それがわかり、結菜はほっとため息をついた。
 回復ポーションは怪我の治療に使われる回復薬の一種で、瘴気防御シールドはその名の通り、瘴気の侵入及び瘴気による汚染を抑えるための道具である。
 どちらとも一回使うともう使えなくなってしまう消費型のものであった。
「駄目だ」
 団長が冷たい声で言った。
 予想していなかった発言に凍りつく一同。
 結菜も一瞬思考が凍りついた。
「ちょっと待ってください‼どうしてですか⁉」
 副団長が声を荒げる。早く負傷した騎士達を回復して瘴気防御シールドを使い、まだ戦っている勇者達に応援に駆けつけなければならない。だから決定権を持つ団長に許可を貰いに来たのだが…………。
「まさか…………、回復ポーションも瘴気防御シールドも、どちらとも高価な代物だからですか?今使わないでいつ使うと言うんですか⁉」
 切迫した声で副団長が団長に詰め寄った。他の騎士達も何としてでも説得しようと躍起になっている。
 しかし、彼らに対する団長の態度は変わらず冷たかった。
「何があっても駄目なものは駄目だ。すぐに戦線に戻って勇者殿と賢者殿の援護に戻りたまえ」
「だから、そのために回復ポーションと瘴気防御シールドが必要なんです‼」
「団長‼どうか使用許可をください‼」
「このままだと、今もなお戦ってくださっている勇者様方に申し訳がたちません‼」
 冷たく言い放つ団長に口々に抗議をする副団長と騎士達。
 団長はそんな彼らを一瞥して、また葉巻き煙草をふかし始めた。
「いいか?よく聞け」
 煙草の煙を吐き出しながら、団長は尊厳な態度でふてぶてしく言葉を発する。
「我々は国王陛下に仕え、国のために身を捧げる立場だ。この騎士団の費用はどこからきていると思う?この国の大切な国庫だぞ?そんな頻繁に高価なものを使えるわけがないだろう。それにお前達はこの国の、いや、世界の宝でもある勇者殿と賢者殿を危険地帯にむざむざ放置してきたというではないか。そんな奴らにやるものはない。さっさと行け」
 あまりの言いように絶句する騎士達。騎士団内は異様な沈黙に包まれた。
 結菜もその言葉には納得がいかなかった。そんな酷いことを言わなくてもいいのではないだろうか。
 誰かが震える声で団長に問いかけた。
「……つまり、あなたは我々に何の対処もせずにあの場に戻り、犠牲となれとでもおっしゃるのですか…………?」
「そんなことは言ってはいない。まぁ、勇者殿達を守る過程でそうなったら話は別だがな」
 団長が冷たく言い放つ。
 ざわりと殺気立つ騎士達。その怒りは言いようもないものであっただろう。
 しかし、相手は仮にも自分達の上司で貴族でもある。どうすることもできない。
 室内に嫌な沈黙が流れ続けた。
(本当に何なんだろ?この人………………)
 そう思うと同時に、結菜はどこかでずっと感じていた何かがザワザワと胸の奥で膨れ上がるのを感じた。




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