異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

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第5章 聖女として……

第五十四話 浄化タイム

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 風切り音が耳元で鳴る。
「ロン‼気づかれないようにね‼」
『わかっておる。視界に入らないように回り込めばいいのだろう?』
「よくわかってんじゃんっ」
 軽口を叩いてしまうのはご愛嬌。
 正面特攻を仕掛けていたロンが、グイッと方向転換し、魔物の背後側へと進んだ。
 凄いスピードであった。
「わっ⁉」
 急な方向転換に体勢が崩れそうになる。
 しかし、流石賢者さんである。そこはしっかりサポートしてくれた。後ろに重心が引っ張られた自分の身体を難なく支えてくれる。
「あっ、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
 走るロンに並走しながら、にこりと笑う賢者。……何でそんな速度で走れるのか不思議すぎる。
「重心を取るには自分の身体の中心を安定させるイメージですよ」
「安定させる?」
「はい。乗馬と同じ感覚です。身体を前に倒すようにすればできますから」
「……おっと………こう、かな。……よっと………。うん‼安定した‼」
「上手です。上手く乗れてますよ」
「ありがと」
「いえいえ。……さぁ、そろそろですよ。背後を取りました」
 そうこうしている内に、ロンはあっと言う間に魔物の背後を取っていた。
 流石元ダンジョンマスターである。魔物が気づかないぎりぎりの所を通ったようだ。
 魔物はすでに弱りきっていて、まだ尚攻撃の手を止めない勇者達のおかげで回復の兆しは見られない。
 背後から見るとそれがはっきりわかる。
 煌めく光がまた飛ぶ。さらに追い詰められていく魔物。勇猛果敢に突撃する騎士と勇者達の姿は最後の一撃に繋ごうとしているかのようである。
 皆が預けてくれているこのチャンスを逃してはならない。
 ロンと賢者と共に魔物の背後へと突っ込んでゆく。ロンが土を蹴る音が結菜の耳の中で木霊した。
 結菜はその最後の一撃を出すため、鑑定さんに意識を向けた。
(……さぁ、鑑定さん‼教えて‼最適な魔法を!)

《了解。まず自分の中にある魔力を感じてください》

 待て。いや待て。そこからですか⁉鑑定さん‼
 あんまりである。結菜は間に合うのだろうかと焦りを覚えた。
 いやしかし、魔法を使うにはまず魔力感知しなきゃできないのはゲームでも漫画でも定番。ごちゃごちゃ言ってないで何とかしなくてはならない。
 ええい‼ままよ‼と結菜は目を閉じて、自分の中へと意識を傾けた。
 ドクンドクンと心臓の音に合わせて血液が流れているのを感じる。
 しかし、それだけではなく、そこに血液とは別の何かが全身をゆったりと漂っているのも感じた。
 それはエネルギーを持つかのように細胞と細胞の間を行き来している。さらさらと巡るそれは血液とは違って、結菜が集まれと命じれば集まって欲しい箇所にゆったりと集まった。
(ん?これが魔力、なのかな?何か暖かい……)

《それが魔力です。魔力感知に成功しました。自動的に魔力操作も成功。魔法の発動条件を満たしました。スキル《鑑定+》の補助により、魔力感知と魔力操作を統合させます。…………成功しました。次に、魔法の発動を効率化·最適化をするためにスキル《鑑定+》の付与効果《演算処理》を管理者の韻律に刻みます。………46%…………97%……成功しました。これで魔法がすぐに使えるようになりました》

 ……うん、何か鑑定さんが色々してくれた。相変わらず鑑定さんは鑑定さんであった。
 というか、自分が想像していた魔法への道と何か違う気がする。 
 色々すっ飛ばされた。すっ飛ばされてしまった。魔法を使うには魔力操作とか感知とかにまず時間がかかって、その上さらに魔法の発動にも時間がかかるものではないのだろうか。
 魔法の特訓とか練習とかもすっ飛ばすとは、これいかに‼
 脱力したくなった結菜であった。
 いや、まぁこの状況下では有り難いことこの上ないのだが………。今から魔法の練習とか無理ゲーだし…………。

《では、聖魔法を教えます。…………………》
 
 結菜は自分の記憶力を駆使して何とか鑑定さんが教えてくれたその聖魔法の発動の仕方を覚えた。
 ふむふむと頷く。
 大丈夫。何とか覚えられたようだ。
「ユーナさん、もうすぐで魔物に最接近します‼頼みますよ‼」
 賢者の声にはっとなる。目を開けると、もう間近に魔物の背中が迫っていた。
 いいタイミングである。聖魔法の発動方法も頭の中にちゃんと残っている。これなら行ける。
 体長約10メートル以上ある魔物の巨大は、たぶんロンの真の姿よりも大きい。
 進化したのも大きさに何らかの関係があるに違いない。  
 この魔物にどれだけ魔法が効くのか。何処に行けば最高な攻撃となり、浄化が成功するのか。それは自ずと三人にはわかった。
『主っ‼飛ぶぞ‼』
「うん‼」
「私は援護をします‼安心して聖魔法を発動してください‼絶対に魔物にあなたを怪我させはしませんから‼」
「わかった!後は任せて‼」
 胃がグンと持ち上げられる感覚がする。ジェットコースターの落下する時と同じだ。
 ロンの跳躍。
 それは音も最小限に抑えられており、魔物の頭上に届くほどのものであった。
「c_hV_g---E ー空中体勢維持ー」
 賢者が結菜達が空中で居られるようにサポートしてくれる。流石賢者さんである。落下しながら初めての聖魔法発動とか遠慮したい。
 跳躍したロンの身体が、魔物の頭上の空中でピタリと止まった。体勢が安定する。
 
 グルァァァァァァァァァァ‼

 今まで騎士や勇者の攻撃を捌こうとしていた魔物がバッと振り向き、遥か頭上で浮かび上がる結菜とロンに焦点の合わない濁った目を向けた。
 流石にここまで近距離だと気づかれたようだ。
 おそらく、本能で身の危険を感じ取ったのだろう。だって、音もなく自分達は魔物に接近したのだから。
 紅い色をした瞳が結菜の姿を捉えた。魔物の口がニィィと歪んだ笑みを零した。
(……ッ!気づかれた……⁉)
 ざっと血の気が引く。自分が最後の留めを刺す者だと魔物はわかったのだ。獲物をようやく見つけたような目で見上げてくる。
 ぐわっと大きく口を開けて、結菜の命を摘み取ろうとしてくる。瀕死とは思えないスピードであった。
「させませんよ………‼」
 今か今かと結菜に迫る魔物の口に向かって、賢者が魔法を放った。
 網の形をした魔法の光が魔物の口周りに絡みつく。魔法の捕縛網は結菜への攻撃を無効化した。
 続けて、跳躍した勇者がサクリと魔物の喉付近に剣を振り抜いた。
 瘴気が舞い散る。魔物は捕縛網のせいで雄叫びをあげることさえできずに、蹲るようにして崩れた。
 賢者が結菜に叫んだ。
「今ですっ‼」
「うん‼」
 魔力を全開にする。もう遠慮はなしだ。結菜を中心に膨大な魔力の奔流が生まれる。
 リミッターを外された魔力は大気をビリビリ震わせ、瘴気の渦が作り出した風さえも支配下に置く。今まで吹いていた風がピタリと止んだ。
 濃密な魔力による圧力が草原一帯を包み込む。それは瘴気の渦の外まで広がり続けた。
 賢者も勇者も、もちろん騎士達も呆気に取られて何も口を出せない。
 魔力は結菜の意思とは関係なく、崩れ落ちた魔物の身体に絡み付き、魔物は身動きさえできない状態にまでなっていた。発動者の邪魔はさせないとでも言うかのように……。
 鑑定さんが結菜の魔力により騎士や勇者達が魔力酔いを起こさないように、必死になって彼らの周囲の魔力を制御しているのを結菜はなんとなく頭の片隅で感じ取った。
 鑑定さんがサポートしてくれているのがわかり、さらにリミッターを外した。
「……さぁ、いくよ‼」
 自分の聖魔法のイメージを頭の中で象る。浄化と言われてもなかなか検討がつかないが、全力でやれば何とかなるだろう。
 魔力が結菜の周りに結集し、結菜のイメージを再現すべく魔法陣が空中に描かれていく。
 鑑定さんが結菜が苦もなく魔法を使えるようにしてくれたからかその工程はスムーズに行われた。
「……何だよ。あれ………………」
 宮廷魔術師でも少しでも編むのが困難なはずの最高レベルの魔法陣。それが難なく高速で展開されていく。
 そして、…………『ソレ』は完成した。
 『ソレ』は空を埋め尽くす。瘴気のドームを突き抜けて、さらに大空に広がる。
 まさに圧巻であった。
 騎士も勇者達も、『ソレ』を見つけた辺境の町民も動くこともできず、ただ完成された『ソレ』を見上げていた。
 今まで続いていた喧騒が止み、静寂が訪れる。
 結菜が閉じた目をそっと開いた。
 そしてーーーーー。

「【浄化】」

 結菜の一言を歯切りに、魔法陣が神々しいほどの光を放つ。大気中にある瘴気が尽く『ソレ』に吸い込まれていく。瘴気ドームもあっと言う間に消え去り、吸い込まれていった。
 傷ついた魔物もザァァと塵のように崩れ去り、上空に浮かび上がる魔法陣に吸い付くされる。
 瘴気汚染を受けた諸々な物も浄化される。
「………息が、苦しくない………?」
 何処かの誰かがポツリと呟いた。
 
 

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