虹の魔術師~元最強の異世界出戻り冒険録~

ニシヒデ

文字の大きさ
1 / 85
第一部 一章、旅の始まり

1、プロローグ

しおりを挟む
 『異世界転生』。


 それは、誰もが一度は夢に見るであろう……うん?誰もが?
 ともかく不特定多数の者たちが、それぞれの夢の中で思い描く、理想の楽園。
 

 別に妄想するだけならいくらでもタダだし、それに関して他人から、とやかく言われる筋合いなどない。


 人類の三大欲求である、食欲、睡眠欲、性欲。
 

 そこにあと一つだけ、付け加えられるとするならば、俺は是が非でも異世界転生願望というものを進言してみたいものだね。


 無論、ただの転生では意味がない。
 異世界・・・という素ン晴らしいっ!……ワードが入ってこそ、その言葉は俺にとって初めて価値のあるものへと変わるのだ。





 現在高校生である俺は、盛りがついたばかりの青少年である。
 学校に通い、勉学を学び、性の文学というものを学び、順風満帆な普通の日常生活を謳歌させてもらっているつもりだ。
 

 顔はフツメン。肌は色白。
 女性経験は一切なく、彼女もいない。
 この歳になるまで、自らの童貞を護り続けている
――言わば神に選ばれし、清らかな聖職者だ。


 友人はいるので一応ボッチではないが、親友と呼べるほどの身近な間柄の奴は存在しない。
 

 変に目立ちもせず、騒ぎもせず、慎ましやかに生きさせてもらっている。

 
 両親に関してはもういない。既に死んでしまっている。
 俺が八歳の時に交通事故で。
 二人とも共に命を落としてしまったのだ。


 かなり悲惨な事故だったらしい。
 休日に家族全員で仲良く買い物に出掛け、海沿いのガードレールを突き破り、乗っていた車体ごと、真っ暗闇の海の中に転落したそうだ。


 事故の原因はスピードの出し過ぎと脇見運転。
 まぁ、いわゆる注意不足というやつである。
 

 車なんぞ、運転したこともない俺には分からないが、そういう事故は起きるときには起きてしまう。そのようなものだと思う。


 それが自分の運命だったのだと、開き直って諦めるしかないだろう。


 幸いというべきか、事故の被害者は俺を含む、家族三人だけだった。
 数時間後に通報を受けて駆けつけた救急隊によって落ちた車は救助され、現場で父と母の双方の死亡が確認された。


 さて、ここでひとつ問題がある。


 海中に沈んだ車の中に同乗していたはずの俺は、
いったいどうなってしまったのだろうか?
 答えは簡単。俺だけ何故か別の世界に
――俗に言う、異世界転移をしてしまったのだ。


 当時は訳も分からなかった。父の運転する車に乗っていた筈なのに、気づいたときには見知らぬ草原の真っ只中だ。
 

 どこからか獣の……あとで知ったのだが、魔物の発する遠吠えが聞こえていたし、俺の命は文字通り風前の灯だった。
 

 そう。あの時偶然、あの場所を通り掛かった、
最高位の魔術師としての称号を持つ、異世界チックな格好をした美少女に拾われるまでは。




 
 そこからの俺の人生は、まさに今流行りの王道ファンタジーというやつだ。


 命の恩人である師匠の元で魔法についての基礎から学び、一人前の使い手となり、やがては人族の歴史上では史上初となる魔術師最高位の称号を名乗ることを許された。
 

 ぶっちゃけ世界最強!とまではいかないまでも、それに近い地位と力を手に入れた俺は、やがて異世界ファンタジー特有の世界の危機とやらに真っ向から直面することになる。

 
 当時の俺は、まだ精神的な部分が歳相応に幼かったため、分かりやすい無謀な正義感が丸出しだった。
 

 そのことが仇となり、様々な理由があって命の危機に晒されてしまった俺は、信頼していた師匠から元いた世界への強制送還を一方的に決められてしまう事となる。

 

 「いいですか?よく聞いておきなさい。
 今日から一年後。あちらの世界へ戻ったあなたのために、私が以前から研究しておいた古代転生召還魔法を発動させます。
 あなたにかけられている例の呪いに関しては、恐らくそれで解除することができるでしょう。
 ――だから絶対、忘れないようにしっかりと覚えていないとダメですよ?
 もしもあなたが全てを忘れてしまって、そのまま永久に私の元にまで帰ってこない……なんてことになったら、きっと一生死ぬまで恨み続けてやりますから……」



 「約束ですよ?」――俺と別れる最後の瞬間、師匠は綺麗に整った自分の顔をクシャクシャに歪めながら、子供のように感情的になって泣いていた。
 俺も一緒になって泣いた。とにかく、馬鹿みたいに泣いていた。


 異世界に迷い込んだ子供の俺を保護し、一人前の魔術師として育て上げてくれた、命の恩人。
 「いつか、彼女に対して恩返しをしよう」――その決意と共に、俺は十四歳となったあの日の瞬間、偶然訪れた異世界の地を去ることになったのだ。

 
 そして、あれから早数年後。


 理由は分からないが、何故か元の世界にまで帰ってきた俺に対して、未だに敬愛すべき師匠からの転生魔法とやらを利用したお呼び出しが掛からない。
 ――いったい何故!?



 「はぁ……」



 今日も今日とて、いつもと変わらず。
 俺は誰もいない路地裏の通りを、テンションだだ下がりの気分で普段通りに歩いている。
 

 最近は色々と暇すぎて、適当な自作のポエムを音読しながら、自らの住んでいる町内を歩き回っていたくらいだ。
 

 先ほど、俺は「慎ましやかに生きさせてもらっている」などと話していたが、あれは嘘だ。
 人間、誰にだって開放的になりたい瞬間はある。
 もしも家の近所で不審者が出たと通報が入れば、きっと俺のことだろう。


 ここ数年で俺という人間は、完全にダメ人間へと退化してしまっていた。


 かつてあの異世界で英雄と呼ばれていた面影など、
もう微塵も残っちゃいない。
 これが悟り。いや、真理というものだろうか。

 
 もしかしたら俺という存在は、
異世界向こう側にいる師匠から、見捨てられてしまったのかもしれない。


 わざわざ転生なんてさせてまで、こんなダメ人間を異世界に呼び出す価値が、本当にあるのだろうか?
 いや、ないだろう。そんなの誰にだって、簡単に理解できることだ。
 自分自身でも、あまりの情けなさに涙が出てくるね。
 俺のことをまるで本当の弟のように、本心から可愛がってくれていた師匠。


 彼女は、今頃どうしているのだろうか?
 まさかあの頃の純粋無垢な心を持った少年が、
こんな頭のおかしな奴に成長してしまっているとは、夢にも思うまい。


 などと、俺が卑屈な想いで自らの置かれた境遇について、本気で嘆いていたその時。
 俺の進行方向に見えていた道路の真上に、懐かしさを覚える淡い光の輝きと、複雑な円形の形をした模様が浮かび上がってくる。



 「おいおい、いきなりかよ!」



 突然の出来事に驚きつつも、俺は待ってましたとばかりに躊躇なく、目の前に現れた魔法陣の上へと飛び乗った。
 どうやら師匠は俺という不出来な弟子の存在を、見捨ててはいなかったらしい。
 

 異世界に行くのは二度目になるが、転生となると初めての体験だ。
 緊張はあるが、不思議と恐怖はない。
 何故なら俺の師匠が持つ辞書に、失敗という言葉は書かれていないからだ。


 やはり、転生するなら赤ん坊の頃からなのだろうか?
 それならそれで、最初は色々と面倒事や不自由がありそうだな。


 良いことといえば、合法的に自分の母親のアレ(つまり世の中の男たちの夢が詰まっているアレだ)を、堂々と人前でも吸えることだけか。
 美人さんなら別に問題ないが、辺境に住み着いているようなモンスター顔の母親だと困る。
 流石の俺でも、いざという時には躊躇してしまいそうだ。
 

 できればだが、俺がよく知る師匠のように、
顔のパーツが綺麗に整っている女性を、是非とも希望したいものだね。グヘヘ。


 そんな邪な願いと共に、
俺の意識は一瞬でブラックアウト――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...