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6章、北の大地
3、手掛かりを求めて
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効率を考えて二手に分かれた。
ティアは一人にしておけないので、必然的にリーゼと組むことになる。日が暮れる頃には、像の前で合流する予定だ。
この街に冒険者が泊まれるような宿屋はない。なんの情報を得られなければ、今夜も外で野宿をすることになる。多分、そうなりそうだ。
ティアと約束した「美味しいご馳走」は、リーゼの手腕に任せるしかない。二人は都市の南側。俺は、正面の方向から探索を開始した。
(さーてと。どこを探せばいいのやら……)
城に近づくのは難しいだろう。軍事施設の周辺も怪しまれる。
俺は適当に、その辺の道を歩いていた通行人を呼び止めた。まずは聞き込みをして情報を得る。こっちは子どもだ。警戒心は抱かれないはず。
かなりの人数に話し掛けてみたが、収穫はゼロだった。誰もグレフォード家の屋敷がある場所を知らない。ローレンは有名人だった。
元王室魔術師部隊師団長、帝王級魔術師、『白の大賢者』ローレン・グレフォード・オストレリア。大層な肩書きである。周囲からの期待、それが面倒になったのだろう。なんとなく、そんな気がした。
前から、白いエプロン姿の婆さんがやって来る。ああいう年寄りなら、この辺りのことに関して詳しいはずだ。早速聞いてみる。
「すみませーん。ちょっと話を――」
「ん?おやまあ、ちょうどいい!」
「へっ?」
――ボスン。
両手に感じた重み。なぜか婆さんが、持っていた包みを俺に渡してくる。わけが分からない。
「私の家まで運んでおくれ!」
「えっ!俺が……これを?なんで?」
「私の家まで――」
「いや、ちゃんと聞こえていたから!」
「なら問題ないじゃないか。さっさとおし!」
怒られてしまった。婆さんは、こちらに背中を向けたまま歩き始める。
まさか、このまま放っぽり出していくわけにもいかないだろう。慌ててそのあとを追いかける。
窪地の西側は、豪華な造りの屋敷が何軒も建っていた。
貴族街。身なりのよい人たちが多い。今の俺は、浮浪者のようなヨレヨレの格好。当然、周りからの視線を感じるが、誰も何も言ってはこない。それが不思議だった。
前にいる婆さんを見る。あの格好は、貴族に仕えている使用人だろう。小柄な体格に見合わず、歩く速度がはやかった。相当急いでいるらしい。
着いた場所は、立派な赤レンガの建物。敷地が広い、広すぎる。この区画の中でも一際でかかった。
「はやくはやく!」
婆さんに急かされて中に入る。なんというか想像通りだ。
赤い絨毯、ピカピカの壁紙。高そうなガラス。壁に掛けられた古い絵画。きっと価値のある物なのだろう。俺に芸術についての知識はない。「美人が描いてある」という感想しか浮かばなかった。
額縁には文字が彫ってある。かなり小さかったので、目を凝らして読んでみた。
――『リズ・オストレリアへの贈り物』。
「なにをボーっとしているのさ。早く運んできておくれ!」
「は、はい!」
連れていかれたのは屋敷の台所だった。婆さんと同じく、エプロン姿の使用人が三人いる。全員、若い女性だった。
突然入ってきた婆さんと俺の姿を目にして驚いている。
「奥様!?い、今までどこに?」
「ケーキに使う粉を買ってきたのさ。一番上等なやつを選んできたよ」
「自ら行かれたのですか?そのようなこと、私たちの方に一言いって頂ければ――」
「いーや、この時期だからねえ。どこも早い者勝ちさ。
お前たち、いても立ってもいられない私の性分は知っているだろう?」
「で、ですが……!」
すぐに事情が飲み込めなかった。奥様だって?
俺を無理やり荷物持ちとして連れてきた婆さんが屋敷の主。現状はそう告げている。なんてこったい。
「あのー……奥様。そちらにいるお方は?」
「荷物持ちだよ。私が通りを歩いていたら、親切に声を掛けてくれたのさ。本当に助かったよ!
――私はしばらくの間、手を離せないからね。応接室で待っていなさい。シシリー、この子の案内は任せたよ」
「いやいや!俺はもう帰ります。帰らせてください!」
「今、なにか言ったかい?はっきり聞こえなかったねえ。んん?」
「……なんでもないです」
断れる雰囲気ではない。俺は仕方なく、シシリーと呼ばれていた使用人のあとについていく。
「あのー」
「はい。なんでしょう?」
まったく警戒されていない。シシリーはにこやかな笑顔を浮かべて、俺の呼び掛けに答えてくれた。
「自分で言うのもおかしいですけど。俺、怪しくないですか?」
「まぁ……奥様が連れてきた方ですし。滅多にないんですよ?あの方が、他の誰かの手を借りてくることなんて」
それでいいのか。俺は、案内された部屋の中へと入る。
長いソファー、高級そうな木のテーブル。壺やら何やら沢山飾られている。まるで王宮の一室にいるみたいだ。こういう空間は、見ていて落ち着かない。
「あのばあさ……すみません。俺をここに連れてきたお婆さんって、いったい何者なんですか?」
「まさか……ご存じないのですか?リズ様ですよ。リズ・オストレリア。この国の現女王、イルシア様の父、その姉君です」
とんでもない大物だった。そんな人物が、ひとりの護衛も付けずに通りのど真ん中を歩いている。滅茶苦茶だ。
「みんな困っているんです。『年寄り扱いはゴメンだ』って。そういう意味で心配をしているわけではないのに。
――ただでさえ、この国は内に抱えているものが多すぎますから」
「えーっ……と……?」
「あっ、その……ごめんなさい!こんな話を突然されても困りますよね。忘れてください」
シシリーが、反省した様子で頭を下げる。そこで気がついた。彼女は普通の使用人ではない。
(この人……かなり強いな)
一瞬だけ見せた表情。戦場に立つ者の瞳だ。服装からはわかりづらいが、かなり鍛えている。驚くべきことに、ニディス国で出会ったどの冒険者たちよりも遥かに強いと感じた。
下手を打って、こちら側を探られたら面倒なことになる。要注意だな。
「私は、このお屋敷でリズ様に仕えさせて頂いている、シシリーと申します」
「エドワーズです」
互いに自己紹介をする。そこでシシリーが「おや?」と、僅かに首を傾げた。
「エドワーズ……ですか?エドワーズ……」
「何かおかしかったですか?」
「いえっ!その……申し訳ありません。私の同僚……知り合いが口にしていた方の名前とまったく同じでしたので。
――私は、奥様の手伝いをするために戻らせて頂きます。失礼いたしました!」
「あっ」
シシリーが、孟ダッシュで部屋から飛び出していく。どうやら逃げられたらしい。
俺の名前が、シシリーの知り合いが口にしていた人物と同じものねえ?まさかそんなこと……偶然にしては出来すぎている。きっと、たまたまだろう。
「待たせたね」
俺が大人しく待っていると、入れ違いにリズの方がやって来た。気品溢れる佇まい。エプロンを外すと印象が大きく変わる。
この人が現女王の父の姉。つまりローレンの親戚か。なら、例の屋敷がある場所にも心当たりがあるはずである。
「あとは焼くだけだからねえ。一時間もしないうちに出来上がる。楽しみにしときなさい」
「俺も一緒に?ご馳走になっていいんですか?」
「当たり前だよ。荷物を運んでくれたお礼さ。なんといっても、今日は特別な日だからねえ」
「特別な日?」
何かの記念日なのか?
「あんたそれ、本気で言っているのかい?今日は国を挙げての復興記念日じゃないか。もう五年になる。
――忘れたわけじゃないだろう?」
「あー……はい!そうですね。たった今、思い出しました!」
「おかしな子だねえ。その歳でもう物忘れかい?」
慌てて誤魔化す。この場にシシリーがいなくて良かった。
屋敷のことに関して聞くのなら今しかない。俺は、ローレンから受け取った封筒に印された家紋、その写しをリズの目の前に突き出した。
「聞きたいことがあります。この模様、どこかで見覚えはありませんか?」
「ふーむ。どれどれ……」
暫く待つ。リズの表情は険しい。
もしかして……ドジを踏んだか?
「あんた、名前は?」
「エドワーズ」
「エドワーズ?ほう……!エドワーズ……」
リズが、大きく目を見開きながら頷いた。何度も何度も。シシリーの時と似たような反応。一体何があるのだろう?不安になる。
「まぁいい。それで……この模様についてだったか。これはね、グレフォード家の家紋だよ」
「グレフォード?」
俺はとぼけたふりをする。やっぱりそうだったのか。
「エドワーズ。あんた、これをどこで見つけてきたんだい?」
「えっ?どこって――」
「これについて知っているのは、ごく一部の人間だけさ。
あり得ないんだよ。この国の王族でもないあんたが、これを目にする機会なんて。絶対にね」
どうやらマズッたらしい。俺は、座っていたソファーの上から腰を浮かべる。今すぐに、ここから退散しなければ。
「待ちなさい。慌てる必要はないよ。
知りたいんだろう?なら、ケーキが焼き上がるまでの間に教えてやるさ」
「その……聞かないんですか?俺がこの家紋について、何故探っているのかを」
「そうだねえ。まず普通なら大声で叫ぶ。するとあの子が……シシリーがここに飛んで来るはずさ」
それは分かる。リズは、こちらの反応を伺っていた。
それから「ほう!」と、感心したように小さく呟く。
「どうやら分かっているみたいだね。あの子の強さが」
「それはまあ、なんとなくは」
「大したものだよ。強さを見せない演技をさせているのに。
それでグレフォードの家紋についてだが、特別に教えてやろう。そういう気分なのさ。ツイていたと思えばいい」
色々腑に落ちない点はある。しかし、この場は黙って話を聞くことが正解だろう。
「さて。まずは……エドワーズ、あんたこの都市に着いてから、今日で何日になるんだい?」
「……一日目です」
もはや誤魔化すだけ無駄である。ここは開き直って話を聞こう。
「なんと……初めてかい?それで私に声を掛けてくるとは。これもバルメル様のお導きかねえ?
なら、土地勘はまったくないね。私が直接案内をするのは難しい。分かりやすく地図を書いてやろう。何か書くものは――」
「これを!」
俺は、身に付けていた魔導具のポーチの中から、紙とペンを取り出した。すぐにリズがそれを受け取る。
簡単な絵だが、形は分かった。窪地の東側。端にある山の麓に印をつける。
「ここだよ」
「ここ?一体何があるんです?」
「決まっているだろう。エドワーズ、あんたが探しているものさ。グレフォード家の遺産。私の弟であるローレンの屋敷だよ」
ティアは一人にしておけないので、必然的にリーゼと組むことになる。日が暮れる頃には、像の前で合流する予定だ。
この街に冒険者が泊まれるような宿屋はない。なんの情報を得られなければ、今夜も外で野宿をすることになる。多分、そうなりそうだ。
ティアと約束した「美味しいご馳走」は、リーゼの手腕に任せるしかない。二人は都市の南側。俺は、正面の方向から探索を開始した。
(さーてと。どこを探せばいいのやら……)
城に近づくのは難しいだろう。軍事施設の周辺も怪しまれる。
俺は適当に、その辺の道を歩いていた通行人を呼び止めた。まずは聞き込みをして情報を得る。こっちは子どもだ。警戒心は抱かれないはず。
かなりの人数に話し掛けてみたが、収穫はゼロだった。誰もグレフォード家の屋敷がある場所を知らない。ローレンは有名人だった。
元王室魔術師部隊師団長、帝王級魔術師、『白の大賢者』ローレン・グレフォード・オストレリア。大層な肩書きである。周囲からの期待、それが面倒になったのだろう。なんとなく、そんな気がした。
前から、白いエプロン姿の婆さんがやって来る。ああいう年寄りなら、この辺りのことに関して詳しいはずだ。早速聞いてみる。
「すみませーん。ちょっと話を――」
「ん?おやまあ、ちょうどいい!」
「へっ?」
――ボスン。
両手に感じた重み。なぜか婆さんが、持っていた包みを俺に渡してくる。わけが分からない。
「私の家まで運んでおくれ!」
「えっ!俺が……これを?なんで?」
「私の家まで――」
「いや、ちゃんと聞こえていたから!」
「なら問題ないじゃないか。さっさとおし!」
怒られてしまった。婆さんは、こちらに背中を向けたまま歩き始める。
まさか、このまま放っぽり出していくわけにもいかないだろう。慌ててそのあとを追いかける。
窪地の西側は、豪華な造りの屋敷が何軒も建っていた。
貴族街。身なりのよい人たちが多い。今の俺は、浮浪者のようなヨレヨレの格好。当然、周りからの視線を感じるが、誰も何も言ってはこない。それが不思議だった。
前にいる婆さんを見る。あの格好は、貴族に仕えている使用人だろう。小柄な体格に見合わず、歩く速度がはやかった。相当急いでいるらしい。
着いた場所は、立派な赤レンガの建物。敷地が広い、広すぎる。この区画の中でも一際でかかった。
「はやくはやく!」
婆さんに急かされて中に入る。なんというか想像通りだ。
赤い絨毯、ピカピカの壁紙。高そうなガラス。壁に掛けられた古い絵画。きっと価値のある物なのだろう。俺に芸術についての知識はない。「美人が描いてある」という感想しか浮かばなかった。
額縁には文字が彫ってある。かなり小さかったので、目を凝らして読んでみた。
――『リズ・オストレリアへの贈り物』。
「なにをボーっとしているのさ。早く運んできておくれ!」
「は、はい!」
連れていかれたのは屋敷の台所だった。婆さんと同じく、エプロン姿の使用人が三人いる。全員、若い女性だった。
突然入ってきた婆さんと俺の姿を目にして驚いている。
「奥様!?い、今までどこに?」
「ケーキに使う粉を買ってきたのさ。一番上等なやつを選んできたよ」
「自ら行かれたのですか?そのようなこと、私たちの方に一言いって頂ければ――」
「いーや、この時期だからねえ。どこも早い者勝ちさ。
お前たち、いても立ってもいられない私の性分は知っているだろう?」
「で、ですが……!」
すぐに事情が飲み込めなかった。奥様だって?
俺を無理やり荷物持ちとして連れてきた婆さんが屋敷の主。現状はそう告げている。なんてこったい。
「あのー……奥様。そちらにいるお方は?」
「荷物持ちだよ。私が通りを歩いていたら、親切に声を掛けてくれたのさ。本当に助かったよ!
――私はしばらくの間、手を離せないからね。応接室で待っていなさい。シシリー、この子の案内は任せたよ」
「いやいや!俺はもう帰ります。帰らせてください!」
「今、なにか言ったかい?はっきり聞こえなかったねえ。んん?」
「……なんでもないです」
断れる雰囲気ではない。俺は仕方なく、シシリーと呼ばれていた使用人のあとについていく。
「あのー」
「はい。なんでしょう?」
まったく警戒されていない。シシリーはにこやかな笑顔を浮かべて、俺の呼び掛けに答えてくれた。
「自分で言うのもおかしいですけど。俺、怪しくないですか?」
「まぁ……奥様が連れてきた方ですし。滅多にないんですよ?あの方が、他の誰かの手を借りてくることなんて」
それでいいのか。俺は、案内された部屋の中へと入る。
長いソファー、高級そうな木のテーブル。壺やら何やら沢山飾られている。まるで王宮の一室にいるみたいだ。こういう空間は、見ていて落ち着かない。
「あのばあさ……すみません。俺をここに連れてきたお婆さんって、いったい何者なんですか?」
「まさか……ご存じないのですか?リズ様ですよ。リズ・オストレリア。この国の現女王、イルシア様の父、その姉君です」
とんでもない大物だった。そんな人物が、ひとりの護衛も付けずに通りのど真ん中を歩いている。滅茶苦茶だ。
「みんな困っているんです。『年寄り扱いはゴメンだ』って。そういう意味で心配をしているわけではないのに。
――ただでさえ、この国は内に抱えているものが多すぎますから」
「えーっ……と……?」
「あっ、その……ごめんなさい!こんな話を突然されても困りますよね。忘れてください」
シシリーが、反省した様子で頭を下げる。そこで気がついた。彼女は普通の使用人ではない。
(この人……かなり強いな)
一瞬だけ見せた表情。戦場に立つ者の瞳だ。服装からはわかりづらいが、かなり鍛えている。驚くべきことに、ニディス国で出会ったどの冒険者たちよりも遥かに強いと感じた。
下手を打って、こちら側を探られたら面倒なことになる。要注意だな。
「私は、このお屋敷でリズ様に仕えさせて頂いている、シシリーと申します」
「エドワーズです」
互いに自己紹介をする。そこでシシリーが「おや?」と、僅かに首を傾げた。
「エドワーズ……ですか?エドワーズ……」
「何かおかしかったですか?」
「いえっ!その……申し訳ありません。私の同僚……知り合いが口にしていた方の名前とまったく同じでしたので。
――私は、奥様の手伝いをするために戻らせて頂きます。失礼いたしました!」
「あっ」
シシリーが、孟ダッシュで部屋から飛び出していく。どうやら逃げられたらしい。
俺の名前が、シシリーの知り合いが口にしていた人物と同じものねえ?まさかそんなこと……偶然にしては出来すぎている。きっと、たまたまだろう。
「待たせたね」
俺が大人しく待っていると、入れ違いにリズの方がやって来た。気品溢れる佇まい。エプロンを外すと印象が大きく変わる。
この人が現女王の父の姉。つまりローレンの親戚か。なら、例の屋敷がある場所にも心当たりがあるはずである。
「あとは焼くだけだからねえ。一時間もしないうちに出来上がる。楽しみにしときなさい」
「俺も一緒に?ご馳走になっていいんですか?」
「当たり前だよ。荷物を運んでくれたお礼さ。なんといっても、今日は特別な日だからねえ」
「特別な日?」
何かの記念日なのか?
「あんたそれ、本気で言っているのかい?今日は国を挙げての復興記念日じゃないか。もう五年になる。
――忘れたわけじゃないだろう?」
「あー……はい!そうですね。たった今、思い出しました!」
「おかしな子だねえ。その歳でもう物忘れかい?」
慌てて誤魔化す。この場にシシリーがいなくて良かった。
屋敷のことに関して聞くのなら今しかない。俺は、ローレンから受け取った封筒に印された家紋、その写しをリズの目の前に突き出した。
「聞きたいことがあります。この模様、どこかで見覚えはありませんか?」
「ふーむ。どれどれ……」
暫く待つ。リズの表情は険しい。
もしかして……ドジを踏んだか?
「あんた、名前は?」
「エドワーズ」
「エドワーズ?ほう……!エドワーズ……」
リズが、大きく目を見開きながら頷いた。何度も何度も。シシリーの時と似たような反応。一体何があるのだろう?不安になる。
「まぁいい。それで……この模様についてだったか。これはね、グレフォード家の家紋だよ」
「グレフォード?」
俺はとぼけたふりをする。やっぱりそうだったのか。
「エドワーズ。あんた、これをどこで見つけてきたんだい?」
「えっ?どこって――」
「これについて知っているのは、ごく一部の人間だけさ。
あり得ないんだよ。この国の王族でもないあんたが、これを目にする機会なんて。絶対にね」
どうやらマズッたらしい。俺は、座っていたソファーの上から腰を浮かべる。今すぐに、ここから退散しなければ。
「待ちなさい。慌てる必要はないよ。
知りたいんだろう?なら、ケーキが焼き上がるまでの間に教えてやるさ」
「その……聞かないんですか?俺がこの家紋について、何故探っているのかを」
「そうだねえ。まず普通なら大声で叫ぶ。するとあの子が……シシリーがここに飛んで来るはずさ」
それは分かる。リズは、こちらの反応を伺っていた。
それから「ほう!」と、感心したように小さく呟く。
「どうやら分かっているみたいだね。あの子の強さが」
「それはまあ、なんとなくは」
「大したものだよ。強さを見せない演技をさせているのに。
それでグレフォードの家紋についてだが、特別に教えてやろう。そういう気分なのさ。ツイていたと思えばいい」
色々腑に落ちない点はある。しかし、この場は黙って話を聞くことが正解だろう。
「さて。まずは……エドワーズ、あんたこの都市に着いてから、今日で何日になるんだい?」
「……一日目です」
もはや誤魔化すだけ無駄である。ここは開き直って話を聞こう。
「なんと……初めてかい?それで私に声を掛けてくるとは。これもバルメル様のお導きかねえ?
なら、土地勘はまったくないね。私が直接案内をするのは難しい。分かりやすく地図を書いてやろう。何か書くものは――」
「これを!」
俺は、身に付けていた魔導具のポーチの中から、紙とペンを取り出した。すぐにリズがそれを受け取る。
簡単な絵だが、形は分かった。窪地の東側。端にある山の麓に印をつける。
「ここだよ」
「ここ?一体何があるんです?」
「決まっているだろう。エドワーズ、あんたが探しているものさ。グレフォード家の遺産。私の弟であるローレンの屋敷だよ」
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出版社: アルファポリス
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
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