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幽霊の如き存在感
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ゴールデンウイーク明けでいつにもまして活気付く昼休み。
「ウェイあがり!!」
俺が廊下を隔てる壁に体を預け机でウェブ小説の巡回に励んでいると、突然叫び声が上がった。
思わずビクッとなったのが恥ずかしくてあたりを見回すが、昼休みのため教室残っている生徒は少なく、ましてや偶然俺のことを見ていた者なんていなかった。
影が薄いって便利だなあ。
いや、寂しくないよ? 慣れてるから。
俺はあたりを確認したついでに声の方をみやる。
ちょうど俺の席と対角線上、後方ベランダ側のあたりでは陽キャグループ男女5人がUNOをしていた。
「じゃあ俺王様なー!」
先ほどの声の主である上井が高らかに宣言する。
彼ら王様UNOと呼ぶそれは通常の通常のUNOとは異なる部分がある。
白紙ワイルドカードに王冠が書かれたものが1枚紛れていており、それを使ったものはゲーム終了時王様になりビリのものに好きな命令をできるというものだ。しかもただのワイルドではなくドロー8として扱われる。無茶苦茶な。
反面王様ワイルドを使って負けた場合は革命という特別ルールで他プレイヤー全員の命令を聞かないといけないとかなんとかピだからといってパーティゲーム混ぜ込みすぎだろ。
「王様後出しとかチキンプレイすぎっしょ。きしょー」
ビリになった様子の陽木屋が丁寧にメイクされた顔に辟易した表情を浮かべた。
艶やかな金で染めた髪を後ろで結び、カーディガンを腰に巻き付け、第三ボタンまで開けた胸元ではネックレスが光る。いわゆる我らの天敵、ギャルである。
「チキンじゃねえ王様な」
「いやいやチキンっしょ。面と向かってじゃなくてラインでコクってきたし」
それを聞いて他の3人がドッと笑った。去年の12月、つまり1年生の時、上井が陽木屋に告白しそしてフラれたのは有名な話だ。どれだけ有名かというと、クラスラインというものがあることを2月に知った俺でも知っていたくらいに有名だ。
「ま、まあ、おかげでお前よりかわいい後輩彼女ができたからな。ありがとよ」
「へーよかったじゃん。焼き鳥屋さん」
「かわいそうなルサンチマンめ」
「あ?」
視線がぶつかり火花が散っている。なにやら一修羅場あったらしいんだが内容までは知らない。
まあほら、知る必要なんてないし。関りがないから。
「……そうだ。寛大な王様が慈悲を上げよう」
睨む陽木屋を指さし、上井はこう告げる。
「『陽木屋、お前は3か月間、日食三日月と付き合え』」
上井の隣で盛り上がる中林と下野がウェイウェイと沸き立った。
え、むーん? どうやったらそう読むんだ?
てか罰ゲームで付き合うとか本当にあるんだ。こっわ。
日食ってやつかわいそうだなあ。てか、俺じゃん。
本人いますよー。と視線というか気配というか存在感みたいなものを送ってみるが陽キャオーラという絶対的バリアを破ることは叶わなかった。さすがに影薄すぎだろ、俺。
「ええ、それはちょっと」
「王様の命令は絶対だろォ」
「いやでも」
「持たざる下民に施しを与えるといってるんだよ」
「そういうの今までなかったじゃん」
「前例がないだけだろ」
「ええー……」
なんでそんな断固として拒むんですか。嫌なんですか。そうですか。たぶん俺のこの状況の方がよっぽど辛いんですがね!
一行に俺の気配に気づくことのない彼らに嫌気がさして、今のうちに教室抜け出した方があとで気まずくならなくていいかなあとかかん考えていたら、やっと一人と目が合った。
少しウェーブのかかった茶色いボブカットで、ツーポイントの丸渕眼鏡をかけた女子。地味ではけっしてないがこのメンバーでは少し浮くほど真面目そうな印象を帯びている。
彼女にはバツが悪いといった表情の翳りなど一切なかった。広角の上がった口元を細い指で作ったピースサインで隠している。
俺が眉を顰めると指先をくにくにと動かした。
彼女は眼鐘雲英。がんしょうきらと読むらしい。またもやすごい名前だ。きらとは読まんだろ。
彼女とは同中でそれなりの間柄だ。俺が塾の帰りに繁華街にあるカードショップに寄ったある日、彼女がたぶん血のつながりのないパパとホテルから出てきたのを目撃した。どんな間柄だ。
「じゃあせっかくだから私も立候補しっちゃおー」
何を思ったのか彼女はピースのまま手を上げた。
ギョッとする4人をしり目に突き上げた手を今度は前へと、俺の方へと向ける。
「というわけだから、いいよね。ミッカ くーん」
4人の顔がさらにギョッとなる。俺もさっきあんな表情だったのだろう。
なんであいつはあんな楽しそうなんだ。渦巻く感情がようやく目覚めてきたようでだんだん腹が立ってきた。
とはいっても俺のできることなんて数えるほどもなく、ましてや陽キャ勢に反抗なんてできるはずもなく。
「ま、まかせろい」
気が付けば行き場の失った右腕がのろのろと上がって返事をしていた。
陰キャ
「ウェイあがり!!」
俺が廊下を隔てる壁に体を預け机でウェブ小説の巡回に励んでいると、突然叫び声が上がった。
思わずビクッとなったのが恥ずかしくてあたりを見回すが、昼休みのため教室残っている生徒は少なく、ましてや偶然俺のことを見ていた者なんていなかった。
影が薄いって便利だなあ。
いや、寂しくないよ? 慣れてるから。
俺はあたりを確認したついでに声の方をみやる。
ちょうど俺の席と対角線上、後方ベランダ側のあたりでは陽キャグループ男女5人がUNOをしていた。
「じゃあ俺王様なー!」
先ほどの声の主である上井が高らかに宣言する。
彼ら王様UNOと呼ぶそれは通常の通常のUNOとは異なる部分がある。
白紙ワイルドカードに王冠が書かれたものが1枚紛れていており、それを使ったものはゲーム終了時王様になりビリのものに好きな命令をできるというものだ。しかもただのワイルドではなくドロー8として扱われる。無茶苦茶な。
反面王様ワイルドを使って負けた場合は革命という特別ルールで他プレイヤー全員の命令を聞かないといけないとかなんとかピだからといってパーティゲーム混ぜ込みすぎだろ。
「王様後出しとかチキンプレイすぎっしょ。きしょー」
ビリになった様子の陽木屋が丁寧にメイクされた顔に辟易した表情を浮かべた。
艶やかな金で染めた髪を後ろで結び、カーディガンを腰に巻き付け、第三ボタンまで開けた胸元ではネックレスが光る。いわゆる我らの天敵、ギャルである。
「チキンじゃねえ王様な」
「いやいやチキンっしょ。面と向かってじゃなくてラインでコクってきたし」
それを聞いて他の3人がドッと笑った。去年の12月、つまり1年生の時、上井が陽木屋に告白しそしてフラれたのは有名な話だ。どれだけ有名かというと、クラスラインというものがあることを2月に知った俺でも知っていたくらいに有名だ。
「ま、まあ、おかげでお前よりかわいい後輩彼女ができたからな。ありがとよ」
「へーよかったじゃん。焼き鳥屋さん」
「かわいそうなルサンチマンめ」
「あ?」
視線がぶつかり火花が散っている。なにやら一修羅場あったらしいんだが内容までは知らない。
まあほら、知る必要なんてないし。関りがないから。
「……そうだ。寛大な王様が慈悲を上げよう」
睨む陽木屋を指さし、上井はこう告げる。
「『陽木屋、お前は3か月間、日食三日月と付き合え』」
上井の隣で盛り上がる中林と下野がウェイウェイと沸き立った。
え、むーん? どうやったらそう読むんだ?
てか罰ゲームで付き合うとか本当にあるんだ。こっわ。
日食ってやつかわいそうだなあ。てか、俺じゃん。
本人いますよー。と視線というか気配というか存在感みたいなものを送ってみるが陽キャオーラという絶対的バリアを破ることは叶わなかった。さすがに影薄すぎだろ、俺。
「ええ、それはちょっと」
「王様の命令は絶対だろォ」
「いやでも」
「持たざる下民に施しを与えるといってるんだよ」
「そういうの今までなかったじゃん」
「前例がないだけだろ」
「ええー……」
なんでそんな断固として拒むんですか。嫌なんですか。そうですか。たぶん俺のこの状況の方がよっぽど辛いんですがね!
一行に俺の気配に気づくことのない彼らに嫌気がさして、今のうちに教室抜け出した方があとで気まずくならなくていいかなあとかかん考えていたら、やっと一人と目が合った。
少しウェーブのかかった茶色いボブカットで、ツーポイントの丸渕眼鏡をかけた女子。地味ではけっしてないがこのメンバーでは少し浮くほど真面目そうな印象を帯びている。
彼女にはバツが悪いといった表情の翳りなど一切なかった。広角の上がった口元を細い指で作ったピースサインで隠している。
俺が眉を顰めると指先をくにくにと動かした。
彼女は眼鐘雲英。がんしょうきらと読むらしい。またもやすごい名前だ。きらとは読まんだろ。
彼女とは同中でそれなりの間柄だ。俺が塾の帰りに繁華街にあるカードショップに寄ったある日、彼女がたぶん血のつながりのないパパとホテルから出てきたのを目撃した。どんな間柄だ。
「じゃあせっかくだから私も立候補しっちゃおー」
何を思ったのか彼女はピースのまま手を上げた。
ギョッとする4人をしり目に突き上げた手を今度は前へと、俺の方へと向ける。
「というわけだから、いいよね。ミッカ くーん」
4人の顔がさらにギョッとなる。俺もさっきあんな表情だったのだろう。
なんであいつはあんな楽しそうなんだ。渦巻く感情がようやく目覚めてきたようでだんだん腹が立ってきた。
とはいっても俺のできることなんて数えるほどもなく、ましてや陽キャ勢に反抗なんてできるはずもなく。
「ま、まかせろい」
気が付けば行き場の失った右腕がのろのろと上がって返事をしていた。
陰キャ
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