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決意
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そのあとすぐに予鈴がなりバタバタと生徒が帰ってきて、そのまま授業に入り、ホームルームを終えると、俺は居心地が悪くてゲーム部の部室へ駆け込んだ。
「草」
部長も副部長もいないため一連の出来事を妹の鎖理に話すと、彼女はスマホ片手に生返事でそう答えた。どうやら二次元の彼氏に夢中のようだ。長い前髪の隙間から覗く瞳はディスプレイに食いついていた。
「反応悪いなあ」
「バカにーの交友関係なんてボク知らんし興味ない」
妹は俺のことをバカにーと呼ぶ。よくて兄貴。中学生くらいからだったと思う。思春期ってやつか! かわいい妹め! なんて思ってたら定着してしまった。
「昔はミカにぃ、ミカにぃって呼んでたのになあ」
「いつの話してんの? きっも」
前髪越しに睨んできたから、まだ思春期なんだな! かわいい妹め! なんて想ったら全身をぞわっとさせて視線をスマホに戻した。普通に傷つくやつはやめようね鎖理ちゃん。
「そ、それで」
俺が動揺していると隣で聞いていた部員が声をかけてきた。彼女は山路こいし。鎖理とは対照的に綺麗に切りそろえられた長い黒髪は小学生の頃から変わらない。
趣味はお絵かきでこんな見た目でありながら結構きわどいイラストをよく描いている。
元々はイラスト部に入ろうとしていたのだが、俺がゲーム部が部員不足であると話したら鞍替えしてくれた。おかげで頭が上がらない。
ちなみにフェイバリットギアはipad pro ツールはクリスタ。どこでもすぐ描けるのがたまらないらしい。さすがに電車で公序良俗が危ぶまれるラフを描き始めた時はとめたが。
「本当に付き合うんですか?」
「まあ、そうなる」
「そう、ですか」
へへえ、へへへ。と合槌なのか笑っているのかわからない息遣いのあと、俯いてアップルペンシルをくるくるを回す。
回す。
回す。
回す。
エアリアルからのトリプルインフィニティ。すっげ。
「日食くんは陽木屋さんのことが好きなんですか?」
「別に」
「好きでもないのに付き合うんですか?」
「うん」
「断ればよかったんじゃないですか?」
たしかに。言われて気付く。盲点というか、完全に選択肢から外れていた。
なぜ?
もし断ったらどうなるか。
どうせ「ノリ悪い」だとか「身の程をわきまえろ」だとか「童貞包茎インポ野郎」だとか理不尽な罵詈雑言を受けることになるだろう。
そのことを、俺は経験則的に知っていた。
陰キャオタクというスクールカースト最下層の生物なんて学園生活を謳歌できるほどの権利など存在しないのである。選択肢なんてなかったのである。
「じゃ、じゃあさ」
こいしが前髪を垂らして俺を覗き見る。
「私もついでに付き合ってもらいましょうかな~。なんて。へへへ」
「冗談だろ?」
「ほ、本気だぜぃ、いひひ」
絶対からからかってる。口調おかしいし。俺はクワっと目を見開いて凝視する。
「目逸らしたら冗談ってことだからな」
「ええ!? ……ドンとこいですよ。へっへ」
言ったな? 絶対暴いてやる。
見る見るうちにこいしの顔に変な汗が浮かんでいく。
「……おーい、バカにー」
なぜか息まで止めて苦しそうだ。おかげで顔が赤くなってるぞこいし。
「おい、バカにー」
あ! 目を逸らした! やっぱそうじゃん。やっぱ冗談だったんだ!
「おい、バカ!」
俺は沸き立つ感情に身を任せ、それでいて椅子を倒さないように気を付けて、勢いよく立ち上がる。
「な、なんだよぅ」
突然立ち上がった俺にびっくりしたのか妹が目を丸くしている。
「わかった。いいよ。付き合おう」
それだけこいしに告げると。
「ちょっと顔洗ってくる」
俺は部室を後にした。
気づけば陽は傾いており廊下は夕暮れ色に染まっていた。
俺は蛇口の前に立ちバシャバシャと顔を濡らす。
やり場のない怒りが腹部にたまり、なおも沸き立つ。
思えばクラスの中ではいつだって選択肢なんてなかった。体育の準備体操でも、総合のチーム発表でも、修学旅行の班決めでも、不可触民たる俺はたいていあまりものチームだった。陽キャには逆らえず、それが当たり前になっていた。
唯一俺が楽しめる場所は部活だけだった。中学の時PC部でゲームを作り表彰され、朝会でざわついたのが心地よかった。
それなのに、部活にまで好ましくないノリが浸食してきた。
このままでは完全に居場所を失ってしまう。
結局断っても同じなのだ。それはその場しのぎの抵抗でしかない。
ならどうする。
見せてやろうじゃないか。俺が彼女らと同じように対等な存在であると。
勘違いするな俺。これは革命であって復讐なんかじゃない。
本気で幸せにしてみせる。
仕返しではないからこそ、俺は俺を救えるんだ。
「草」
部長も副部長もいないため一連の出来事を妹の鎖理に話すと、彼女はスマホ片手に生返事でそう答えた。どうやら二次元の彼氏に夢中のようだ。長い前髪の隙間から覗く瞳はディスプレイに食いついていた。
「反応悪いなあ」
「バカにーの交友関係なんてボク知らんし興味ない」
妹は俺のことをバカにーと呼ぶ。よくて兄貴。中学生くらいからだったと思う。思春期ってやつか! かわいい妹め! なんて思ってたら定着してしまった。
「昔はミカにぃ、ミカにぃって呼んでたのになあ」
「いつの話してんの? きっも」
前髪越しに睨んできたから、まだ思春期なんだな! かわいい妹め! なんて想ったら全身をぞわっとさせて視線をスマホに戻した。普通に傷つくやつはやめようね鎖理ちゃん。
「そ、それで」
俺が動揺していると隣で聞いていた部員が声をかけてきた。彼女は山路こいし。鎖理とは対照的に綺麗に切りそろえられた長い黒髪は小学生の頃から変わらない。
趣味はお絵かきでこんな見た目でありながら結構きわどいイラストをよく描いている。
元々はイラスト部に入ろうとしていたのだが、俺がゲーム部が部員不足であると話したら鞍替えしてくれた。おかげで頭が上がらない。
ちなみにフェイバリットギアはipad pro ツールはクリスタ。どこでもすぐ描けるのがたまらないらしい。さすがに電車で公序良俗が危ぶまれるラフを描き始めた時はとめたが。
「本当に付き合うんですか?」
「まあ、そうなる」
「そう、ですか」
へへえ、へへへ。と合槌なのか笑っているのかわからない息遣いのあと、俯いてアップルペンシルをくるくるを回す。
回す。
回す。
回す。
エアリアルからのトリプルインフィニティ。すっげ。
「日食くんは陽木屋さんのことが好きなんですか?」
「別に」
「好きでもないのに付き合うんですか?」
「うん」
「断ればよかったんじゃないですか?」
たしかに。言われて気付く。盲点というか、完全に選択肢から外れていた。
なぜ?
もし断ったらどうなるか。
どうせ「ノリ悪い」だとか「身の程をわきまえろ」だとか「童貞包茎インポ野郎」だとか理不尽な罵詈雑言を受けることになるだろう。
そのことを、俺は経験則的に知っていた。
陰キャオタクというスクールカースト最下層の生物なんて学園生活を謳歌できるほどの権利など存在しないのである。選択肢なんてなかったのである。
「じゃ、じゃあさ」
こいしが前髪を垂らして俺を覗き見る。
「私もついでに付き合ってもらいましょうかな~。なんて。へへへ」
「冗談だろ?」
「ほ、本気だぜぃ、いひひ」
絶対からからかってる。口調おかしいし。俺はクワっと目を見開いて凝視する。
「目逸らしたら冗談ってことだからな」
「ええ!? ……ドンとこいですよ。へっへ」
言ったな? 絶対暴いてやる。
見る見るうちにこいしの顔に変な汗が浮かんでいく。
「……おーい、バカにー」
なぜか息まで止めて苦しそうだ。おかげで顔が赤くなってるぞこいし。
「おい、バカにー」
あ! 目を逸らした! やっぱそうじゃん。やっぱ冗談だったんだ!
「おい、バカ!」
俺は沸き立つ感情に身を任せ、それでいて椅子を倒さないように気を付けて、勢いよく立ち上がる。
「な、なんだよぅ」
突然立ち上がった俺にびっくりしたのか妹が目を丸くしている。
「わかった。いいよ。付き合おう」
それだけこいしに告げると。
「ちょっと顔洗ってくる」
俺は部室を後にした。
気づけば陽は傾いており廊下は夕暮れ色に染まっていた。
俺は蛇口の前に立ちバシャバシャと顔を濡らす。
やり場のない怒りが腹部にたまり、なおも沸き立つ。
思えばクラスの中ではいつだって選択肢なんてなかった。体育の準備体操でも、総合のチーム発表でも、修学旅行の班決めでも、不可触民たる俺はたいていあまりものチームだった。陽キャには逆らえず、それが当たり前になっていた。
唯一俺が楽しめる場所は部活だけだった。中学の時PC部でゲームを作り表彰され、朝会でざわついたのが心地よかった。
それなのに、部活にまで好ましくないノリが浸食してきた。
このままでは完全に居場所を失ってしまう。
結局断っても同じなのだ。それはその場しのぎの抵抗でしかない。
ならどうする。
見せてやろうじゃないか。俺が彼女らと同じように対等な存在であると。
勘違いするな俺。これは革命であって復讐なんかじゃない。
本気で幸せにしてみせる。
仕返しではないからこそ、俺は俺を救えるんだ。
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