GOD SLAYER’S

猫乃麗雅

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― 第一章・旅立ち ―

第9話 西へ

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その夜は、大盛り上がりだった。

普段も飲酒はしているのだが、野営のため、いつ魔物たちに襲撃されるか分からいので〝へべれけ〟になるわけにはいかず、たしなむむ程度でしかなかった。

だが、都に入れば問題ない。

どこもそうだが、街を囲むように壁が築かれている。

人口およそ2500万であるサーヌの首都も、例外なく防御壁が存在しており、その高さは15Mで幅は5Mとの事だ。

それだけでもモンスター達の侵入を阻むのには充分であり、壁の上や、東西南北の門にて、兵士たちが目を光らせているので、そう易々やすやすとは突破されない。

なので…、安心して酔い潰れることが可能なのである!

この都には、弥太郎の顔見知りがチラホラいたので、[鮮紅せんこうの豹一団]は受け入れてもらいやすかった。

更には、ラーザのノリの良さや、ラットの明るい性格もあってか、酒場に居合わせた連中を巻き込んで、大はしゃぎしたのだ。

その結果…、

二日酔いになった。


「うぅ~ッ、気持ち悪いぃッ」

と自身の胸を擦るラーザを先頭に、紫蓮しれんたちは西へと歩を進めている。

〝次の国〟の道中に在る[旧鉱山街]へと向かっているところなのだが、ほぼ全員の顔が青白くなっていた。

ラットが、

「こうなるって分かり切っているのに、やめられないのは何故なんだろうねぇ~。」

と、遠い目をする。

「ま、そこに、お酒があるから、仕方ないよね。」

と苦笑いしたのはバウンだった。

紫蓮が、頭痛と戦いながら、

「こんな調子で、クエスト達成できんのか?」

と、疑問を呈したら、弥太郎が、

「目的地は“トゥーサー国”との国境付近だが…、二週間は掛かるし、ま、気負わずいこう。」

と諭すのだった。


話は昨日に遡る――。

これからの先の路銀を少しでも多く稼いでおきたいとの理由で、彼らは斡旋所にいた。

ギルドの窓口で、ラーザと弥太郎が、受付の女性に提示された幾つかの書類に目を通しながら、

「んんーッ…。殆どが野良仕事や土木系の人員募集だね。」

「確かに…、お、これはどうだ?」

と、いった具合に、相談している。

他のメンバーは、少し離れた後方で待機していた。

それにしても、ここのギルドはなかなか広い。

窓口が10以上も見受けられるのだから。

バウンが、紫蓮に、

「まぁ、都会だからね。地方に行けば行くほど規模は小さくなっていくよ。」

と教えてくれた。

「よし! じゃあ、これで決まりだね?!」

「ああ、構わん。」

と、団長および副団長が、何かしらのクエストを選んだらしい。

紫蓮が、誰に聞くともなく、

「仕事が成功したら、またここに戻ってくるのか? 報酬を貰いに…。」

と質問したところ、ラットが、

「いんや、クライアントが直に手渡すパターンもあれば、振り込んでいる場合もあるよ。」
「〝何時いつ何処どこで・誰が・どんな依頼を受注したか〟は、他のギルドにも知れ渡るからね。」
「ほら、今、受付の人が、タッチ画面を操作しているだろ?」
「あれで、人族や獣人族に妖精族の国々に在るギルドで、全ての記録を閲覧できるのさ。」

と、解説し、続いてイザッドが、

「そのお陰で、発注者が予め振り込んでおいだ報酬を、どのギルドでも引き落とせるのじゃ。」

と補足した。


それから15日後…。

〝一年前まではきんが発掘されていた〟という[旧鉱山街]から10Mぐらい離れた場所に、紫蓮たちの姿があった。

どうやら、何かを待っているらしい。

暫く経つと、[鮮紅の豹一団]の目の前に、1人の男性が〝シュンッ!〟と姿を現した。

その者のジョブは【アサシン】である。

この職種は、国によって、武器や防具などの恰好とスキルに違いがあるらしいのだが…、彼は、黒い〝忍び装束〟を身に纏っていた。

両の目以外は露出されていないので、その表情を窺う事は出来ない。

パーティーメンバーである30代後半の[忍者]が、淡々と、

「かつての人口は500くらいだったと思われる。街は狭い方だ。」
「金山の標高は100M程だろうな…。割と早い段階で掘り尽くしてしまったんじゃないか?」
「見張りがいたから山の内部には潜り込めなかったが、街には50~60の魔物が生活していやがる。」

と、報告した。

「種類は?」

と訊ねた弥太郎に、

「ゴブリンとハーピーばかりだったな。」
「山のふもとにはラミアやモスマンにマタンゴが合計で20匹はいたが…、洞窟状になっている採掘跡地までは、分からん。」

と、首を左右に振った。

イザッドの、

「ふ…む。“地の利”は、確実にあちらさんがたにあるようじゃな。」
「敵の強さによっては、最悪、全滅を覚悟しておかねばならんかものぉう。」

という発言によって、その場が沈黙に包まれる。

しかし、

「ま、ボクらなら大丈夫さ。」
「もしヤバそうだったら、即座に撤退すれば良いよ。」
「結局は、皆の命の方が大事だからね。」

と優しく微笑むラーザによって、全員が前向きになっていくのだった―。
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