異世界コンビニ

榎木ユウ

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3巻

3-2

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「とりあえず、ケンタ、積もる話があるなら事務室使っていいから。ミサオさんも今日は仕事しなくても大丈夫ですよ!」

 親子三人を、事務室に案内しようとすると、ケイイチさんが立ち止まった。何をするのだろうと見つめていたら、私に対して深々と頭を下げてきたのだ。
 自分より二回りは上であろう年齢の人に頭を下げられ、私はビックリして息を止めてしまう。

「いつもケンタと仲良くしてくれてありがとう。ケンタがこんな風に元気でいられるのは、ソラさんがいてくれるからだと思っています。本当にありがとう」
「わ、私なんて何もしていない、です……」

 ケンタは自力で消えていく記憶と折り合いをつけているし、プルナスシアに馴染もうと努力している。私がケンタに何かしてやれていることなんて一つもない。

「そんなことないよ、ソラさん。俺、ソラさんがここにいてくれるから、お父さんお母さんとこうして話すことができているんだし、記憶が薄れてきても精神的につらくないんだ。神殿内では、記憶がなくなっても安定していて凄いって、俺、評価されてんだぜ?」

 堂々とそう言ったケンタを、ケイイチさんとミサオさんが嬉しそうに見ている。
 何この人たち。親子で私の目を赤くさせる気か。

「へへへ。ソラさん、泣かせたら店長に怒られちゃうから、事務室行ってまーす」

 照れくさかったのか、そう茶化しながら、ケンタはケイイチさんたちと事務室に入って行った。
 きっと、四月からの進路のことなどを話すのだろう。事務室の机の上に、養成学校のパンフレットが置かれていたから。
 養成学校は中央神殿内部にあるらしいので、これからは客としてここに立ち寄るとケンタは言っていた。

「一丁前に、子供を見る親みてえな目してんな」

 ポンと後頭部をジグさんに叩かれて、私は苦笑しながらレジへ戻る。
 本日のジグさんのおにぎりは桜菜飯と、牛肉そぼろ握りだ。
 どうしたの、ファンファレマート商品開発部! ここ最近、セレクトがまともだよ! でも前のパンチがきいたおにぎりも、いざなくなると寂しいと思ってしまうなんて、人間複雑にできているものだ。

「どうだ、アレイの奴とはうまくやってんのか?」

 ニヤニヤ顔でジグさんは余計なことを聞いてくる。

「そういうのは店長から聞いているんじゃないんですか?」
「あいつは駄目だ。いつ見ても頭に花が咲いていて、まともに話ができねぇ。あのバカが浮かれすぎなのは分かってんだが、少し大目に見てやってくれ。まだまだお嬢ちゃんなソラにそんなことを頼むのは、ちいっとばかし情けねぇが、あいつはあいつで色々あったからな。こうしてあいつのバカづら拝めるのは、俺もレンたちも嫌いじゃねえんだ」

 私をからかうわけではなく、自分の親友である店長をいたわるような言葉。ジグさんからこういうことを聞いたのは初めてな気がする。

「えっと……色々って……?」

 聞いてもいいのかな? と思いつつ問いかけてみれば、ジグさんは苦笑して言う。

「女関係じゃねえから安心しろ」

 あ、それ以上は教えてもらえないんですね。残念です。
 いつか店長から話をしてもらえるだろうか。そんなことを考えながら、私は更に商品のバーコードを読み込んだ。
 この時、店長は過去に何が色々あったのかな? ということがぼんやり気になったのは、虫の知らせだったのか。
 ちゃらっちゃら、ちゃらちゃららん。
 入店音が聞こえてくる。

「いらっしゃいませー」

 ジグさんに「八七〇ラガーです」と言い、扉の方へと目をやる。その瞬間、ジグさんが息を呑んだのが分かった。
 ジグさんがこんな態度を取るなんて珍しいなと思いつつ、入ってきた人を確認する。
 五十代半ばくらいの、白いローブをまとった女性だ。黒髪ベリーショートの細身体型で、りんとした様子で立っている。
 ん? 白いローブ? 
 薄いピンクのローブであれば神官だし、魔法士は紫色のローブが多い。白いローブを着てくる人は、たまにここに来る元巫女のスズカさんくらいだ。
 彼女と同じ色のローブを身にまとった女性は、一通り店内を見回したのち、私と目を合わせた。
 射抜くようなその視線に、内心わずかにビビりつつも、私は「いらっしゃいませ」と、もう一度言った。

「あなたが、ソラという名の巫女ですか?」
「え……?」

 どうやら私を知っているらしい。だけど、その目や言葉に好意的な印象は全くない。

「どうしたの、ソラさん?」

 こちらの雰囲気を察したのだろう、ケンタが事務室から顔を出した。その途端、彼は「ゲッ」と小さく呟く。

「ケンタ、知っているの?」

 私が尋ねると、ケンタより先にジグさんが口を開いた。

「アレイの母親で、元巫女のハナエさんだ」
「──え?」

 ハッとしてもう一度、ハナエさんと言われた女性の顔を見た。
 女性にしては決して低くはない身長の、背筋がピンと伸びた女の人。
 黒い髪に黒い瞳という日本人の特徴を持つその人は、確かに同人種だ。だけど、それ以上に驚いたのは、「アレイの母親」というジグさんの言葉だった。

「アレイの……お母さん?」

 思わず二人の時だけに呼ぶ言い方でそう呟く。それがハナエさんには不愉快だったのだろう。彼女はますます嫌そうに眉間にしわを寄せてから、ツカツカと私の方へと歩を進めてくる。
 それをかばうように立ったのはジグさんだ。

「いくら元巫女とはいえ、勝手に現巫女と面会するというのは、神殿に所属する者らしくないですぜ、ハナエさん」

 珍しく少し丁寧な言葉で、ジグさんが言った。


 ハナエさんはジグさんを見上げながら、ひるむことなく声を張り上げて言葉を返す。

「わたくしは、アレイの母親として、息子と付き合っているという彼女と話をしたく参りました。巫女という肩書など関係ありません。……いいえ、巫女などというくだらない肩書きがあるから、息子はより惑わされているのです」
「あ……、何かこの後の展開、私、読めてきた気がする……」

 交際相手の母親にこんな目で見られれば、言いたいことは一つだよね。

「店長のおかんって、結構たち悪いんだよ……」

 ケンタがポソリと小さな声で呟いた。どうやらプルナスシアでは有名らしい。

「ジグさん。さっき言ってた色々って、もしかして……」

 先ほどジグさんがにごした言葉について尋ねてみれば、彼は「あ゛ー……」と変な声を上げた。
 図星ですか。そして図星なうえに、言いたくなかったようです。
 そうだよね。私も見たくなかったし、できればこういう形でお会いしたくなかったわぁ。
 それでも最低限の礼儀を見せなければと居住まいを正し、ハナエさんにペコリと頭を下げる。

「初めまして。アレイさんとお付き合いさせていただいております、ソラと申します」
「ソラちゃん、好感度抜群のおじぎよ!」

 いつの間にか事務室からこちらを見ているミサオさんよりエールが飛んできた。その後ろにはケイイチさんもいる。だが、今はこの応援さえも無意味だろうな。うん。

「わたくしは認めたつもりはございません」

 ピシャリ。
 頭上に降りそそぐハナエさんの言葉に、私はアイタタタ……と思う。
 まだ交際三ヶ月なんですけど。まだ本当に付き合いたてなんですけど。もう少し、私に恋人との楽しみとか教えてくれてもいいんじゃないんですかね? 

「ソラさん、今日はあなたに言いたいことがあってきました。わたくしの息子、アレイと別れなさい。わたくしの息子は、将来、この神殿を背負う人間です。まかり間違っても、日本に行くべき人間ではありません。何があってあの子が血迷ったかは知りませんが、別れなさい」

 つらつらと容赦なく降り注ぐ言葉は、私のこと以上に、三十歳にもなる成人男性の店長の意思をことごとく無視する内容だった。

「ジグさん……私、聞いてないんですけど」
「ヤツも言いたくなかったんだろうさ」

 ですよね。分かります。
 だけど、できれば事前に――それこそお付き合いする前に、言ってほしかったかなあ……なんて。
 藤森奏楽、もうすぐ二十四歳。彼氏と交際三ヶ月です。って同じことをまた繰り返すが、これが繰り返されずにいられようか。まだ、三ヶ月。三ヶ月だっていうのに──! 
 彼氏の母親がモンスターペアレントでした。
 わ ら え な い。


     ※ ※ ※


 神殿から店長が駆け込んできたのは、その日の閉店後。

「ソラちゃん、大丈夫っ!?」

 息せき切って現れた店長の顔は、見るからに蒼白そうはくだった。閉店後の事務室で、ミサオさんたちと和気藹々わきあいあいしていた私が、ついキョトンとした顔で店長を見てしまうほどだ。

「大丈夫って何がですか?」

 私がそう問い返せば、店長は情けない顔でオタオタする。

「う、う、うちの母親が乗り込んできたって!」
「ああ、そうですね。ちなみにハナエさんは、ジグさんが連れて帰られましたよ」

 私の言葉に、店長がホッとした顔になる。
 あの後、私が何か言う前に、ジグさんがさえぎったのだ。

『いい加減、子離れした方がいいですぜ。それに、この〝場〟で巫女の心情をかき乱すようなことを言うやからも、排除対象ですから』

 そう言うと、ジグさんはたわらのようにハナエさんをかついで、さっとコンビニから出ていった。
 だから、結局私はハナエさんとほとんど会話していない。

「残念ながら、血で血を洗うような乱闘はできませんでした」

 私はシュッシュッとこぶしを繰り出す。

「ソラちゃん、怖いからヤメテ。その見事なシャドウボクシング、やめて」
「店長さん、しゅうとめの味方につく夫って、大抵、奥さんに三行半みくだりはん突きつけられるから気をつけてね」
「ミサオさん、縁起悪いこと言わないでください!」
「そうですよ、ミサオさん。そもそも不良物件は、事前説明がなかった時点で、契約不履行で突き返すことができるんですから」
「ソラちゃんっっっ!」

 店長が顔を青ざめさせて、ガバッと私に抱き付いてくる。

「ちょっ──!」

 ケンタやミサオさん、ケイイチさんもいるというのに、店長、乱心したか──!

「やだよ! 絶対、俺、別れないからねっ!!」

 ぎゅうぎゅうと締め付けてくる抱擁に意識が遠くなる。

「ケンタ、これはベアハッグというプロレス技だ。相手を抱き上げ、腰を両腕で締める。見事に決まっているだろう」
「お父さん、プロレス好きだよね」
「そうよ。お父さんは、夜──」
「お母さん、ヤメテ。何かろくでもないこと言いそうだから、ヤメテ」

 私の背後で、ケンタ一家がのほほんと馬鹿馬鹿しいことを語っているが、今はそういう状況ではないだろう。

「た、たすけ……」

 ああ、三途さんずの川が見えそう……と思った時。

「ぶは。ぐはっ!」

 店長の手がスルリとほどけた。そしてドサリと落下するはずの私を、白面はくめんマスクの殿方とのがたが柔らかく抱きとめる。

『ソラ様、大丈夫ですか?』
「ボウちゃん、ありがとう……」

 ケホケホとせてはいるが、腰の方は無事だ。店長の方を見遣れば、何故かお尻を押さえて悶絶もんぜつしていた。
 え? 何したの? 何したの? ボウちゃん! 

「まぁまぁまぁ!」

 ミサオさんは喜んでいるし、店長は悶絶しているし、一気に事務室はカオスと化す。だが、店長の回復は早かった。

「と、とにかく、母親のことは俺が何とかするから! 絶対、ここには来させないから!」

 涙目で店長が断言したので、私はニッコリ笑って店長に言い返す。

「根本的解決じゃないじゃん、それ」

 一刀両断。
 絶望したかのように青ざめる店長の顔に、ちょっと……いや、かなり今後のことが心配になった。

「まあまあソラさん、店長なら何とかしてくれる……と思うよ?」
「ケンタ、その不安げなフォローはよせ」
「だってあのハナエさんだしなぁ……」

 語尾をにごすケンタ。過去にハナエさんと何かあったのだろうか。

「俺、店長のめいっこを嫁にどうかってすすめられたことあるんだよね。まだ二歳の……」

 ケンタがその時のことを思い出したのだろう、引きつった笑みを浮かべる。すると、店長も引きつった顔で「うちの母親がすみません」とケンタ一家に頭を下げた。
 これだけでも十分くせのある母親だと分かってしまう。さすが店長のお母さんだけあるよ。

「大丈夫よ、ソラちゃん! 日本で結婚生活を送れば、しゅうとめは来ないわ!」
「そうだよ、ソラちゃん! 結婚後は日本で暮らすから大丈夫!」

 店長がミサオさんの言葉に便乗してくるが、そもそも交際三ヶ月で結婚とか重いからやめてくれ。

「どれ、そろそろ帰りますか」
「俺のプロポーズは無視? 無視なの?」
「あんまりうるさいとボウちゃんに食わすぞ」

 私がそう言うと店長は黙った。うん、ボウちゃん効果は絶大。
 その後、ケンタは神殿へと帰っていった。私も、着替えた店長とミサオさんご夫婦と一緒にコンビニの裏口から日本へ戻る。

「しかし、何度体験してみても不思議だな……」

 日本のコンビニ裏で、ケイイチさんがポツリと呟いた。

「まるで夢のようだが、これが現実……なんだろうな」

 噛みしめるように口にした言葉の意味は、とても重い。
 それでもケイイチさんは笑顔で私や店長に「ケンタのことをよろしくお願いします」と言い、ミサオさんと仲良く寄り添って帰っていった。
 店長はどうやら私を家まで送るつもりのようだ。
 一緒に歩いていると、さり気なく遠回りの道に誘導された。それに従う私も私だけどね。

「ソラちゃん、本当に別れないからね」

 お前は中学生男子か、と突っ込みたくなる勢いで、店長は同じ言葉を繰り返す。いや、今時いまどきの中学生の方がもっとスマートだ。

「店長とお母さんのハナエさんって、仲、悪いの?」
「昔からああなんだ。お前はああしろこうしろ、全ては神殿のため、お前を神官として育てあげたんだからって。二十を過ぎた頃には、結婚相手まで選び始めて──」

 ギョッとして店長を見上げる。すると店長は「もちろん、全部逃げたよ」と言った。
 断ったではなく『逃げた』というのが少し情けないが、実の母親相手にきっぱりと拒否するのも難しいのだろう。

「で、今までの恋人も母親に邪魔されて、結婚できずに三十歳ですか」

 私が店長の過去を予想して言えば、店長はばつの悪そうな顔で「まあ……」と言葉をにごした。どうやら一度や二度では収まらないほど、店長の恋路は邪魔されたらしい。

「だけど、結婚したいと思ったのはソラちゃんだけだから」
「いや、さりげにプロポーズとかいらないし。まだ付き合って三ヶ月なのに、彼氏の気持ちが重いです」
「そんな、酷い……」

 ガクリと項垂うなだれる店長。三十歳ともなれば、結婚も視野に入れるのであろうが、こちとらまだ二十四歳手前だ。友人で結婚している子なんて一人しかいないし、大学時代の友人ともなると誰もしていない。まだ就職して二年目のひよっこたちなのだから、無理もないのだが。

「だけど、ソラちゃん。うちの母親のことは、本当に気にしなくていいから」

 ギュッと店長が私の手を握りしめてくる。いつになく真剣な顔でそう言ってきたものの、いている手が私の腰に回り、さよならのキスをねだる体勢に入っている。
 母親のことを言いながらキスをしてこようとする彼氏ってどうかと思ったが、きっときっかけは何でもいいんだろうから、追及はしない。

「気にしなくていいってわけにもいかないでしょうが」

 口がくっつくよりも先に鼻と鼻を合わせて、キスから逃げる。ぷにゃりと私の小さな鼻が少し潰れたのち、顔を離して言う。

「今度、もう一度、一緒に挨拶あいさつしよう? アレイの親なら私も話したいし。アレイが日本への永住を決めたのには私も関わってるから、きちんと筋は通したい」

 あの様子だと、相互理解は難しそうだと思うが、だからと言って、そのままにしていい問題でもない。店長が日本を選ぶということは、今までプルナスシアでつちかってきた色々なものを無にするということだ。プルナスシアのものは決して日本に持ち込めない。それは〝物〟だけでなく〝人〟もだ。日本で生きていくことになれば二度と会えなくなる人が出てくるだろう。その意味を私はもっとしっかり受け止めなければいけない。
 もう、プルナスシアのことを知らなかった自分には戻れないのだから。

「ソラちゃん──!」

 店長は、感極まったようにまた私をきつく抱きしめてくる。
 そうされると、本当に息苦しいからやめて欲しい。日本には、待ったをかけてくれるボウちゃんがいないのに。

「店長苦しい」
「あ、ごめん」

 少しだけ緩くなる店長の腕。しかし、私を離すことはしない。また店長の顔が近づいてくる。どうしてもキスはしたいらしい。
 いくら暗い道といえど、こんなに私の家が近ければ、いつか誰かに見つかる気がするのだが――

「……んっ」

 声が漏れてしまったのは、触れてきた唇から、突然舌がもぐり込んできたから。店長はこういう時、本当に容赦がない。
 何? 私をキスだけでどうしたいわけ? 
 散々、吸われ、なぶられ、絡まれて、もう腰が抜けそうだと思った時――
 ピカッ! と人気ひとけのない道を照らす車のライト。
 車が一台しか通れない道……そう、一台は通れてしまうのだ、この道は。
 その道を走ってきた車が、私と店長を照らす。
 私は慌てて店長から顔を離した。だけど店長は、平気な顔で私の腰に手を回し、道の端に寄っただけだった。
 かろうじて、私の顔を自分の胸元で隠してくれているのはありがたいが、この状態では、今キスしていたのはモロばれで。もういやだ。恥ずかしすぎる……
 車はそのまま走り去ると思われたが、何故か私たちの横にピタリと止まった。運転席の窓が開く音がしたものの、店長の胸に顔を押し付けられている私には様子が見えない。

「こんなところでラブシーンとは、見せつけてくれるな、アレイ」

 店長の名前を呼ぶ、男の人の声。
 思わず顔を胸からがしてそちらを見れば、目に飛び込んできたのは、明らかに高級車と分かる、ピカピカの黒い車だった。
 そして運転席から顔を出してきたのは、四十代半ばのオジサマだ。うん、オジサンっていう単語を使ってはいけないほどの魅力があった。きちんと整えられた顎髭あごひげが、やけにさまになっている。

「お嬢さん、こんばんは。とりあえずおじさんと今から少しだけドライブしない?」

 知らない人にはついていってはいけないって言われているんだけど、気が付いたら私は顔を赤くしてコクコクと頷いていた。オジサマ趣味ではないのに、オジサマのナンパ力、半端ない。

「ちょ、なんで頬赤らめているの?」

 暗くて見えないはずなのに、店長の察知力、半端ない。


     ※ ※ ※


 何と驚くなかれ。
 男の人は、ファンファレマートの取締役である四賀しがナオエさん。四十八歳。渋み走るいい男。店長と同じく日本とプルナスシアのハーフで、ゼロ号神官だそうだ。〇号というのは神官の階級を表すものらしく、神官長の下に、〇号、一号、二号……と続く。だから、〇号はかなり偉い神官で、その数も少ない。その〇号神官である四賀さんは、十年前に日本に来て以来、ずっと日本に住んでいる。つまりは今の異世界コンビニを作った立役者ともいうべき存在だ。

「まあ、楽にして」

 革張りのソファに座り込んだ四賀さんが言った。背面は夜景って、オジサマ、本当に破壊力半端ないな! 
 状況を説明しよう。
 四賀さんの車に乗せられ、連れてこられたのは、車で二十分ほどのところにある駅近のホテルだった。そして足を踏み入れたのは、最上階のバー……!!
 薄暗い店内で案内されたのは、人目につかない窓側の席だ。観葉植物と壁でうまいこと死角が作られているそこに、四賀さんと向かい合わせで座っている。店長は私の隣だ。

「シングルモルト二つ。それと──、ソラさんはカクテル、甘いのなら飲めるかな?」
「は、はい」

 四賀さんは手慣れた感じだが、私には何がなんだか分からないので、頷くだけだ。

「じゃあ、ミモザで」

 メニューらしきものを見ることもなく、四賀さんが注文を告げる。ウエイターは「かしこまりました」と一礼して、下がっていった。こういうところの店員さんって、ウエイターって呼んでいいのかな? それさえも分からない。
 二十三の小娘に、ホテルのバーは未知の世界過ぎた。居酒屋で一杯三五〇円のサワーが無性に恋しい。店長はさすがに三十路みそじ超えのせいか、こんなところでもあまり緊張していないようで、普通に四賀さんと歓談している。大人って凄いな……

「巫女も一緒で良かった」

 四賀さんはウイスキーのグラスが届くと、それを片手に話し始める。
 あの場所を車で走らせていたのは、店長を探すためだったらしい。コンビニに立ち寄ったところ、すでに帰ったという話を店員のミカちゃんに聞いて、あそこの道を走り追ってきたらしいが……
 ちょっと待て。私と店長の帰り道は、ミカちゃんにはバレバレなのか。今度、顔を合わせるのが気まずい。

「ソラちゃん、顔赤いよ」

 私の顔の赤みを、四賀さんに逆上のぼせているからだと勘違いしている店長が、ジト目で見てくる。

「うるさい。全部店長のせいだ」
「えっ……?」

 そこでキョトンとした後に、「俺のせいかぁ」と感慨深く呟かないでほしい。ダランと伸びた鼻の下に、四賀さんも苦笑いしているぞ。

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