勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【12.5話】 初陣 ※11.5話の続き※

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ユニコーンにばれないように茂みの影に隠れていたリリアは気配を伺った。
“………”何かしら?背後からだ。ユニコーンは空から舞い降りると思っていたけど、本当に徒歩でやって来たのだろうか?
いやいやそんな気配ではない。そんな… のん気な気配ではない。
リリアは立ち上がって、後ろの気配を伺った。不気味な木々と闇がある。ショウも何かに気がついたのだろうか?振り返って闇を見ている。
気配… 小さいかな? いや、小さくはない。一つ、二つ…  七つ…
泉を背に… 囲まれている…
低く喉から鳴る唸り声… 輪が縮まって来る…
「狼…」リリアが呟く、絶望的だ。ショウが斧を手にした。刃が光る。リリアも気がつき果物ナイフを取り出した。
満月の光を受けて目をランランとさせながら闇から狼が迫る。10匹はいる。
まともに相手をしたらアッという間に食い千切られる。二人とも後ずさりをするしかない。
「ザッブン!」ショウが泉に落ちた。ショウは不意でちょっと慌てたようだが、直ぐに岸に上がろうとする。
「上がらないで!そうよ、泳ぐのよ」っと叫ぶとリリアも泉に飛び込んだ。


リリアもショウも必死に泳いでいる。二人とも血だらけだ。二人が泉に飛び込むと数頭の狼が後を追って水に飛び込んで来た。残りは陸で様子を見ている。追ってきた数匹を水上で撃退したところだ。
「リ、リリィ… もう、溺れそうだ…」ショウが言う。
水中で狼の身体能力が消されていたとは言え、リリア達にとっては強大だ。乱戦で水をしこたま飲んでいる。洋服が重い。あっちこっちから出血もしている。片手には武器だ。リリアだって溺れそうだ。
「あ、あっち、陸に、陸に」平の岩場の方が安全だが、二人ともそこまで体力が持たないだろう。狼どもが先回りして待っているが今溺れたら確実に死ぬ。
「グエっ!げぇっ!」二人とも口から鼻から水を大量に吐き出しながら泳ぐ。
必死に泳いで陸に近づくリリア達をみるとまた何匹の狼が水に入って来る。溺れるわけにはいかない。リリア達は覚悟を決めるしかなかった。


「グぅ! っぐあ!」狼の唸りに混じってリリアが唸りながらナイフを振る姿がある。辺りは満月の明かり。先ほどの数匹の狼を水中で倒して、ようやく陸に足が届いたリリア達には不利な陸戦が待っていた。ショウはとっくに水際の血だまりの中にひっくり返っている。何を失っても心臓さえ動いてれば母のメルが何とかするはずである。リリアは必死になって飛び掛かって来る影にナイフを振り続けた。



「おい、リリィ、リリィ」
「… ぅわ、わぁ」気がつくと慌てたようにナイフを振り回そうとするリリアの肩をガウがしっかり抱いて言う。
「リリィ、俺だ、わかるか、リリィ」
リリアは気がつくと父ガウムドの腕の中にいた。丸太のような太い腕。リリアの小さな口にお酒が流し込まれる。
「っぶ!ゴフっ」リリアは咽ると同時に胃の中の水を吐き出した。
よく見るとシェリフと村の男たちがランプや松明を手に立っている。リリアがショウを見るとメルが治癒魔法をかけているのが見えた。大丈夫だったらしい。心臓さえ動いていれば何とかなる。
少し安心すると自分の腕が目に入って来た。両手でしっかりと果物ナイフを握りしめている。血と泥だらけだ、なぜか再び痙攣しだした。
「お前今頃怖くなったのか。手からナイフが離れないだろう」ガウが言う。
確かに、痙攣し続ける指先は力を入れても、どういうわけかナイフをしっかり握って放さない。
「初めて戦場に出た兵士は、たいてい自分で剣を放せなくなる、それだ」そう言うと、リリアの指先をゆっくり解し始めた。
「リリア、お前もこれで一人前の戦士だな」誰かが言うとポツポツと笑いが出た。


リリアがもう一度ショウを見るとガウがリリアに言った。
「お前は後回しだ。当分痛い思いをしとけ」
リリアはしばらくジッと震えていたが、ポツリと呟いた。
「リリア、痛くない」

空では星数が減って来る時間になっていた。
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