勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【37話】 廃屋敷の幽霊

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夜、洋館の一室でペコが休んでいるとリリアが部屋に飛び込んで来て、ベッドにいたペコに布団事ごと抱き着いて大騒ぎしている。
「ちょっと、リリア何なのよ、言ってる意味がさっぱりじゃない、落ち着いてよ!」
「いるの!いたのよ!出たのよ!ここ出るの!」

廃村、墓地、廃屋敷掃討作戦開始4日目の夜。
2日目の夜、墓地掃討を強行した次の日、リリア達4人は廃村まで戻った。
村まで戻って作戦内容を報告していると、行方不明になったメンバーが次々戻って来た。
憔悴していたり大怪我している者もいたが、とにかく全員昼までには帰還。さすが中級者以上のメンバー。ヨルダを含む3人のメンバー、アンデット系に酷くダメージを受けた者は解毒薬を飲み、大事をとって早めのリタイアで教会に向かわせた。
3日目は疲労困憊のメンバーを休ませ4日目の今日、昼から廃屋敷に入った。
この時点で戦力はリリア達6名と口を動かせば体を動かせなくてよい偉い人達3名の合計9名パーティー。

4日目の今日で今回の掃討作戦は最後の予定。
廃屋敷はもともと、地主がガーゴイル、ゴーレム、スケルトン等に呪文で屋敷を守らせていた。地主代理が術者の魔石を持っているので、リリア達パーティーメンバーは攻撃される事なく洋館に入いれた。昼間調べたが、特に何者かが侵入した形跡や荒らされた形跡もなさそう。後は一泊して夜の異常が無い事を確かめる。幽霊が出たら報告と退治、ススワタリが出たら追い払って大掃除、白いニシキヘビ、座敷童が出たら丁重にもてなして直ぐに報告。何でもニシキヘビと座敷童が出る屋敷は幸運だと貴族に高く売れるらしい。
たいてい何も出はしないものなので、一泊してめでたく終わるはずだった…


「ペコいたの!あたし見たのよ!幽霊よ幽霊!髪の長い女」リリアがペコにしがみついて大騒ぎしている。
「ちょっと、わかったから、とりあえずどいてよ、抱き着かれてたらどうにもできないじゃない」ペコがリリアを振り払う。

「トイレから出たら廊下の奥にいたのよ、幽霊!怨念よ怨念、怨念がいるのよ、怨念がおんねん!」リリアがまくし立てる。
「…… どうしてリリアはなんでも大騒ぎにしちゃうの、何が勇者リリアよ怯者リリアよ」
「うまい事言ってその気にさせようたってその手には乗らない!とにかく居るのよここ。お願いここに居させて、もう部屋帰りたくないの。天井の模様が人の顔に見えるよ、いやあれは人よ、人の憎悪が天井に宿っているのよ。部屋の肖像画なんて、あたしの体を飽きることなく舐め回す様に見てくるのよ!あれはもうセクハラよ、セクハラ。夜中に3面鏡みちゃうと異次元に引き込まれるのよ!人形なんて、ジッとこちらうかがっているのよ、凄い目つき、異常者、ゴスロリ服着て本性を隠しリリアの寝込みを狙っている証拠よ!」
もう、何がなにやらメチャクチャだが、すっかりビビっている。ビビり勇者リリア。


リリア、ペコ、ゾールの三人でリリアの部屋で魚雷戦ボードゲームをしている。
次の当直はリリアだが、前直者はリリアの部屋に交代と引継ぎに来る。そのためリリアは二人を強引に誘ってリリアの部屋でゲームをしている、まぁ、リリアの相手をさせられていると言うのか…
何故ゾールがいるのかというと、リリアが
「幽霊と至近で遭遇したら近接攻撃の係りが必要でしょ?あたしとペコでは接近戦は不利」とか言い出して、ゾールを部屋から連れ出して来てしまった。
ボードゲーム、トランプ、UNOを荷物から出し、お菓子の大盤振る舞い。リリアのプロ意識は遠足気分程度か?とにかくリリアはニコニコしながらエンターテイメント、ペコとゾールを帰らせない。ペコとゾールも最終日なので、多少寝不足でも明日は大丈夫。なんだかんだちゃんとリリアの相手をしてあげている。大人な対応。
木造の大きな洋館、雨上がり後で部屋が、廊下が歪んで軋む度にリリアが
「怨念よ!怨念がおんねん!」といちいち騒がしい。
ペコは、適当に聞き流しているが、ゾールは無機質な表情で舌をチロチロさせながら
「おまえ、面白いなぁ」とポーカーフェイスで言う。皮肉なのか面白がっているのかはその表情からはうかがい知れない。

そのうち前直者がリリアの部屋に来た、交代の時間だ。特に異常なしと引継ぎリリアの当直になる。リリアはペコとゾールに付き添いを頼んで見回り開始、ゾールが先頭の隊列、いったい誰の当直なんだろうか。


「捕まえたぞ不審者め!」ゾールとペコが見回り中に突然現れた長髪、白装束の女を取り押さえた。リリアが何気なく開けたゲストルーム内に立っていた女だ。座敷童風だが、背が高くてごっつい。リリアが部屋のドアを開けて
「出たああぁぁぁぁ!」と叫ぶので、ゾールとペコが部屋に飛び込み取り押さえたところ。
「髪の毛は… カツラ?… おまえ、地主代理人じゃないか… なにやってんだ…」ゾールが冷静に問う。
理由を説明させると、どうやら、座敷童が出る屋敷は高く売れるということで、報告書の座敷童出現にレ点を付けたかったらしいが、国の監査人に納得してもらうために目撃情報作りに変装していたらしい。俺は本来女装趣味なんかない!とやたら強調しているが、皆この男に女装趣味があるかどうでもよい事だと思っている。

「そういうわけなんだって、リリア」ペコがリリアを振り返る。
リリアは… 泡を吹いてひっくり返っていた。なんかピクピクしている。
「こいつ、本当にこれで勇者なのか?」
ゾールは相変わらずのポーカーフェイスで言う。
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