156 / 519
【78.5話】 リリアとトラップ ※少し前の話し※
しおりを挟む「ヴぁ… 痛っ… いたたた… いったい誰よこんな…」
リリアはある村で一泊して、バイトがてら山に入って鹿か猪狩りをしていた。
最近事故で腕の良い村の狩人が亡くなってしまって肉が手に入らないと聞いて仕事を買って出た。
山に入り獲物の形跡を追っていたら、うっかり誰かの仕掛けたベアクロートラップにかかってしまった。プレッシャープレートが付いていて鹿等が踏むと鉄の爪が足を捕らえる仕掛けだ。
見知らぬ山で追跡に夢中になっていたとはいえ、プロのハンターのリリアにしてはらしくないミスだが、トラップの設置場所自体、でたらめにも程がある。
「誰なの… こんな獣道でも無い場所に仕掛けて… かかるわけないじゃない… いったぁぃ…」
鹿がかかると思えない場所でリリアはしっかりかかっている。
しかも、こんな大きなトラップ… グリズリーでもなければ、足を引きちぎるサイズだ。とにかくあまりもがいては行けない、冷静に仕掛けを外さないと…
「小さい頃は脛にトラップガードしてけどねぇ…」激痛に顔が歪む。
リリアは皮のブーツを履いている。かなり上等品だ。が、やはり多少なりとも貫通して肌に食い込む。
「いだあぁ…」
普段は簡単に外せるはずだが、古く錆びているため手こずった。仕方が無いので剣を蝶番にかけてテコの原理でこじ開ける。
「…素人もいいところね」
とりあえず、ブーツを脱いで薬草を塗っていると、気配がした。
“何か来た… 獣じゃない… 魔物でもない…”矢を弦にかけて気配を窺う。
「あら?こんにちは、あなたに神のご加護がありますように」
リリアは警戒を解いて挨拶をする。恰好だけは一人前の男の子ハンターが茂みから現れた。リリアの怪我を見てびっくりしているようだ。
どうやら、トラップはこの子が仕掛けた物だったようだ。男の子の名はカベロ。
一ヶ月程前に父親を山で亡くしたらしく、最近父の師事を頼りに山に入ってハンティングをしている。村での話はこの子の父親の話しだったらしい。
「ごめん、俺、鹿か猪が獲れると思って…」カベロがしきりに謝っている。
「すぐ治るしいいのよ。それよりここに仕掛けても何もかかんないわよ。山ってどこでも歩けるけど、獣が良く通る道があるのよ。ここに仕掛けてもかかるのは美人で巨乳のお姉さんだけね。将来美人と結婚したくなったらまたここにトラップを設置することね」リリアは微笑む。が、少年はじっとリリアを見つめるばかり。
“ちょっと冗談が大人過ぎたか…”
父が居なくなって、母親と自分で生活しないといけないのだろう。放ってはおけない。リリア少し面倒をみることにした。
「獲物を獲ったことある?」リリアが弓を手ほどきして尋ねる。
「ないよ、父ちゃんとは獲ったけど」カベロが答える。
「… だよね… これから毎日四時間弓の練習ね」
リリアが教えて弓は良くなったが、恐らく弓で獲物を仕留められるのは最低半年先だろう。
「お父さんはこのトラップ使って、捕獲してたの?… 違う?でしょうねぇ、形は一緒だけど、これより小さいのがあるはずよ… 大きいから獲れるとか、それとは違うのよね… お父さんはあまり仕掛けて無かった?… うん、山に精通しないと… 毎日来て観察して、鹿の通り道とかあるのよ… 教えてくれって?教えてあげたいけど、お姉ちゃんも教えられるのは地元の山よ。とにかくコツは教えるから、自分で… なんというか… 自分で研究していくと言うのかな…」
今日はカベロと一緒に山を回ることにした。
今日は絶対何も獲れないだろう。野生の動物に近づくのには息を殺して、細心の注意を払わなければならない。教えながら、歩き回りながらでは無理。恐らく、この周囲にはすでに獲物は無いだろう。
この日一日リリアは、カベロに獲物を追う振りをしながら山を教え、観察して村に帰った。
村に戻るとカベロはリリアを夕食に招待したいと言ってくれたが、母親と妹に挨拶すると宿に戻って食事した。裕福でもないのに、必要以上の食事を用意させるのは気の毒。
夜ベッドに入ったリリア。ランプの灯りを消そうと思ってふと考えた。
「あたし、どうやって教わったかな?…」
天井の模様を見ながら考える。
今日、ハンティングを教えたが、なかなか難しい。というより、全てセンス、経験、感だ。
「こうなんだけど、後は自分でやってみるしかないわね」に終始する。
こんな教え方で良いのだろうか?
弓はガウに教わった。ガウはよっぽど変わった武器でなければ一通り精通していた。リリアの成長に合わせて適正な弓をくれた。基本は習って後は自分で工夫して覚えた。これなら教えられる。
狩りは…
「誰かに教わった記憶がないなぁ」呟くリリア。
ガウと山に入ったり、村の子と遊ぶうちに、自分で丘に上がったり、木に登ったりしだした。そのうち、食事に戻るのが面倒なら果実や木の実を食べて終わらすようになり、メルの薬草採取を手伝ううちに山を覚えた。
鹿の親子を見て感動しては、何とかもっと沢山近くで見たいと思い、猪やクマに襲われては自分で逃げ回っていた。
ある日、そばまで近づいた鹿を弓で獲ったら、家でも村でも喜ばれたので、それ以来山を観察して歩いて狩りを始めたら、いつの間にか上達していた。
「…… うーん… 教えられる事じゃないわねぇ…」
「とにかく仕留めないとね」
リリアは呟くとランプの灯を消して布団を被った。
廊下を酔っ払いが大声で話しながら歩いていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
