勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【79話】 プリースト・フレイラ

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村には四家族居たが、移動を希望したのは二家族。後はやはり残るらしい。本当に行く当てもなくなく村も大変だが、人数が減れば何とかなると言っていた。
リリア達5人と4人家族が二つ。と、万が一の時に用意したスクロールで藁人形をクリエートした。
さっそくリリアが「藁君」と命名したので、皆に藁君で親しまれている。
鈍足劣悪クリチャーだが、子供が居て移動速度に限られている今、頼れる戦力と言える。いや、頼れる捨て駒かな?
藁君は荷物を引き受け、武器にもなる農耕具をぶら下げ、大きな板を抱えてドテドテと歩いて行く。大きな板は狙撃から子供達を守るため。良い様に荷物を押し付けられているが愚痴一つこぼさず、淡々とドテドテと歩いている。
魔法使いが3人いるので、誰でも命令を与えられる。
“術者に従い指定の人物を守れ”と今は命令されている。
良い捨て駒だが、気を抜くと一時間くらい経つととち狂った方向に離脱しだす。
その度に魔法を使える連中がリセットをかける。

「藁君またどっかいっちゃうよ」子供たちが言うので振り返ると藁君は何を思ったか、道を逸れて大股で歩いて行く。“さっきからどこに行く気だ!”滑稽である。
ペコが愚痴りながらリセットする。
「さっき命令してたのアリスだよね。誰が命令してもどっか行こうとするのね。あたしペコの命令が悪いからどっか行っちゃうのかと思ってたよ」リリアが冗談を言う。
「黙ってなさいよ。命令出来ないくせに」ペコが言い返す。
「出来るわよ、取説読んで発音したらいいんだから」リリアも言い返す。
「じゃ、やりなさいよ、指定人物を護衛させなさいよ」ペコ。
「… わかったよ、出来ないよ… どうせ無能力で村の教会が最終学歴よ…」
「… 発音教えるから、やってみなさいよ」ペコがちょっと優しい。


子供が居る事も考慮して早朝から移動を開始したリリア達。
治安が悪く、魔物が多い。ゾンビ系はもちろんソールイーター等の死霊系、吸血植物、デスナイト、ヘルマジシャン等から、死体に群がる大ネズミ、ヘルハウンド、ヘルキャット、ありとあらゆる魔物と出会った。
「まるで魔物のミュージアムね」誰からともなく皮肉を言う。
難民を連れ、戦闘と緊張で疲労してくる。

「家族とプリースト二人はそこで待機。リリアは右側から確認して。ペコはサポートお願いね」オフェリアが通信する。
路上に襲われた馬車が打ち捨てられている。
「一… 二… 荷馬車三台か…」
どれも車輪が壊れ、ひっくり返っている。大ネズミか、ヘルハウンドが何かに群がっている。距離はあるが鼻を突くような匂いが漂う。死の匂い…
「これは子供には見せられないわねぇ」オフェリアの通信。
振り返ると、家族とアリス、フレイラは待機、空気を読めずドタドタ歩く藁君をペコが停止させている。
「待って、あたしとペコで群がっているあれをどかすわ」リリアは弓を手に、ペコを呼ぶ。
「ペコのファイアーとあたしの弓で同時攻撃よ」リリアの指示。
「結構数多いけど…」ペコが答える。
「野生が死肉に集っているだけよ、脅かしたら逃げるよ」
リリアが通信をかける。
「死体に群がっている連中をどかすわ。逃げるはずだけど、こっちに来るかも… いちようスタンバイしておいて」
リリアがペコに続ける。
「ネズミね… カウントスリーで行くわよ。こっち来たらファイアーウォールをお願い」
「距離50ってことろね…」ペコ。
「50も無いよ、目と鼻の先よ」リリア。
リリアは弓を引き絞り、呼吸を整える。心を無に… この距離、あの目標、逃しようがない。ネズミが団子になり何かを貪り、小刻みに頭を動かしているのが気持ち悪い。
「ペコ… 3… 2… 1… ビュン!」
リリアの矢が到達する方が一瞬早かった。ネズミの尻に矢が刺さり、ファイアーボールでなぎ倒されるや否や、残りはクモの子を散らすように逃げていく。
「うわうわ!!… ネズミ!」
突進してくるネズミに驚いたペコが無駄に巨大なファイアーウォールを張り蹴散らした。


家族、フレイラ、藁君を迂回させて道の先にいかす。子供には腐乱死体は見せられない。
「馬も人も… 二日と経ってないわね」アリスが言う。
「人間の仕業ね、服まで剥ぎ取られ持って行かれているわね」オフェリア。
「7人… 生存者無し… 私が焼いて埋めるか… このまま立ち去るか…」ペコ。
リリアはうずくまってゲーゲー吐いている。
フレイラがやって来た。
「リリアさん、家族をみていて、私、ゾンビやスケルトンにならないように祈りを捧げるから」
「…… うぅ… 埋めるなら、あたしも手伝うわよ、アリスが家族みていて」リリアは吐いている。

フレイラは腐乱して肉片かじられた死体の傍に跪くと亡骸の目を閉じさせ、手を組ませてあげ、厳かに祈りを始めた。臭気と損壊が激しく、皆遠巻きに見るだけだったが、まるでテーブルに座ってティータイムでするかの様に自然な動き。
匂いにたまりかねて、オフェリアもとうとう吐き始めた。リリアは先ほどから吐きっぱなし。
アリスはフレイラの姿を食い入るように見つめていた。
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