勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【101.5話】 輪の中のリリア ※年末の話し※

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年の末でルーダ・コートの街は活気が良い。
「何でしょうかね…」友達とお茶した帰り、コトロがバーに戻ろうと歩いていると街角に人だかりが出来てやんやの騒ぎになっている。
雰囲気から察すると揉め事か、喧嘩か、とにかく君子危うきに近寄らずである。
「世の中は暇人が多いのですねぇ」コトロは呟いて通り過ぎかけた。喧嘩にせよなんにせよ、わざわざ見に行って巻き込まれるような事になってもつまらない。
「………??……まさか… いや、ありえなくないです…」
人だかりをスルーするつもりだったコトロが足を止めると人だかりに割り込んでいった。
「すみません… ちょっと通ります…通ります!」
コトロが野次馬をかき分けて人垣の最前線に出る。
「うわぁ… やっぱり…」
やんやの声援の中心で背の高い巨乳のポニーテール女が何やら揉めている。

人だかりの一要因はリリアだ…

「相手はどこの連中でしょうか?…」
様子からするとどうやら、“冒険者ギルド・繋がれていない犬たち“、通称ドッグスの連中だ。
傭兵、戦闘、用心棒、借金返済の手伝い、揉め事の仲裁等を中心とする戦闘民族亜人がメンバーの多く、それに腕利きの治癒術士等もギルメンにいる。手荒く街中では連中自体が厄介者視されがちだが、強力な魔物、数多の賊が出現する場所等の危険地帯でも飛び込んで行って働いてくれる。これはこれで必要なギルド。
リリアはドッグスのメンバー6人相手に喧嘩している。一歩も引かない決心が後ろ姿からでも見て取れる。
「姉ちゃんいいぞ!」「ドッグス、そんな女捻ってやれぇ!」
野次馬共がけしかける。
何が原因か知らないが、ルーダの風のメンバーが街中で喧嘩等とんでもない。
しかもリリアは国の勇者、ドッグスに勝てるとは思わないが、衛兵にでも捕まったらまた誤解の種を生む。

「リリア、辞めときなさいよ」コトロも野次の中心に入っていく。
「コトロ!!…大丈夫よ!こんな連中リリア一人で十分よ!あっちで幕の内弁当でも食べながら見物していて」大きなリリアが大きな胸を揺らし大きな声で言う。
「いや、加勢に来たわけではないですよ。うちのギルドはこういう揉め事禁止です」
「これは揉めて無いよ、試合よ。勇者と勇者をバカにする連中の試合よ。父さんまでバカにされたのよ」
リリアはもう何を言っても聞き入れないモードのようだ。
「勇者が国民相手にケガさせたらまずいですよ」
コトロが言うとこれには少しリリアも反応した。ちょっと自覚があるらしい…
「……とにかくコトロは下がってて。この連中を寝かしつてやるだけよ」
「……… やれやれ……」
コトロは黙って人垣まで下がった。恐らく何を言っても無駄だろう。これ以上言ったら意地になってとことんやりかねない。どうせ一瞬で負けるに決まっている。それで気が済むだろう。
大型亜人ども相手に引かず劣らず怒鳴り返す長身のポニーテール、リリアはとても様になっているように見えた。ヘボ勇者だが皆が「リリア、リリア」と気に掛ける人間性が見える気がする。コトロは黙って見ている。もっとも止めようもない。

「バカにしないでよね!父さんの分も含めて泣きを入れさせてやるわ!!」
とうとう鞘ごとの剣でリリアはドッグスに殴りかかった。


「もう気が済んだでしょ、帰りますよ」コトロが路上で泣いているリリアに声をかける。
予想通りリリアはあっさり負けた。当然だ、全然格が違う。
「意外にあっけなかったな」「負けた方は勇者だって」「根性は認めるな」
野次馬は解散していく。
「いや、帰らない」リリアはブシブシと泣いている。
「まだやるんですか?これ以上はギルドの風紀を乱したことで退ギルドですよ」コトロも少し強めに言う。
「違うの、マチャネコさんに仕事で呼ばれて来ているの」
リリアが言うには先刻マチャネコさんに急ぎの仕事を頼まれて集合場所に来てみたら、ドッグスのメンバーと揉め事になったようだ。どうやらマチャネコさんのキャラバンが賊に襲われて、消息不明になり緊急で捜索に出るらしい。
リリアとドッグス、両方ともマチャネコさんに呼ばれているようだ。何で喧嘩になるんだ…
「あたし悔しの!一番に荷物見つけて取り返してやる!」
「まったく… あなたって人は…」呆れるコトロ。
ベソをかくリリアの所にマチャネコさんがやってきた。
「リリアちゃん、なんか… 連中と喧嘩したんだって?…仲良く頼むよ。それでさっきちょっと説明した通りなんだけど、暮れで忙しいのに大変な事件で… 危険だけど捜索に出ないといけなくて、リリアちゃんならちょうど良いと思って… 頼むよリリアちゃん」
「マチャネコさん、あたしやるわ!一番に賊を見つけて、一番に荷物取り返してやるから。あいつら全員仕事で見返してやるわ!」リリアの目から、なんかレーザー光線みたいな決意が出ている。
「わしも一緒に現場に行くから。捜索はドッグスとわしで、リリアちゃんは店のお留守番頼むよ」マチャネコさんは言う。

「勇者のリリアちゃぁん、お留守番ですかぁ?いい子にしてるんですよぉ」
「お土産は盗賊の刀でいいですかぁ?」
「リリアちゃん、夕ご飯はお鍋の中ですよぉ、ちゃんと食べるんですよぉ」
ドッグスのメンバーが武装して意気揚々とマチャネコさんの馬車に乗り込んでいく。
リリアは店番に残される。

「コトロ、あたしやっぱ帰る」店の奥で項垂れたリリアが言う。


「……… いや、帰っちゃだめでしょ」コトロが言う。
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