勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【105話】 選択の人生

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「覚悟よ!」リリアは狂人に向って走り込もうとする。
「いかん!リリア!そいつは後回しだ!」ゴグスタフに止められた。
「な、なに?こいつが元凶でしょ?」
「絡んだ呪には順序がある!とにかくそいつは後だ!死霊どもを片付けろ!」
リリアにはまだ理解できないが先生がいうのだからそうなのだろう。
「アキツグ、炎のエンチャは要らない、ホーリータッチを剣に!」
アキツグがリリアの剣にエンチャントする。これで、死霊どもにも効果が上がる。

使い魔バディが床で魔法陣を張り、先生が呪い(まじない)を行う。リリア達は事前にプロテクトされている上、魔法陣の中では死霊もリリア達には手を出せない。あまり陣の中に長くもいられないようだ。飛び回りながらリリア達を狙うのをリリアが切りつけ、アキツグがホーリーライトでダメージを与える。
リリアは素振りしているようだが切った時は少し感触が伝わる。死霊は影を横切ったり影の中に潜んだり隠れ回りながら隙をみては襲ってくる。アキツグがホーリーライトで影をどかし、リリアが反撃を試みる。
「リリア!後ろにいます!」アキツグが叫ぶ。
危なくなったらリリアは魔法陣に逃げ込む。
「やっ!… はっ!… せい!…………… ハァ、どうかな…」
剣を手に肩で大きくしながら魔法陣の中に戻るリリア。最後の死霊を切ったようだ。
「……… そうですね… 死霊は退治したようですね」アキツグがライトでくまなく部屋を照らす。

「おまえら… 俺の… 許さんぞぉ…」狂人が呟きながらリリア達に詰め寄る。
「ようし、親玉、覚悟よ!」リリアは改めて剣を構えなおす。
「そいつは手出しするな!リリアはこっちに来て下がっていろ!バディ、解呪の魔法陣だ!」先生がリリアに注意する。バディ返事をすると床の魔法陣が変化した。鮮やか!!
「この床、焦げ臭いし居心地悪いぜ」魔法陣バディは愚痴っている。
先生が呪文を唱えると魔法陣の中央に子供達の魂が現れた。兄妹で手をつなぎランタンはもっていない。
「おぉ…アーベル、サラ、父さんだ、魂をもらって復活させてやる… 家族で一緒に…」
狂人はふらふらと魔法陣に歩き入る。表情が少し穏やかになったようだ。リリアは先生の傍らで息を殺してジッと見つめている。
「旅人よ、家族の御霊を解いて天界へ、安らぎの中へ返せよ」先生が厳かに言う。
「…ぅぅ… 恨むぞ… 妻の病を治すため各地を放浪し治癒の研究をしてきた。妻の病は治らなかったが、それでも得た知識で人々を救ってきた… それが足休めにこの地に寄り… ある日少し留守にした間に… 家族は殺され、焼かれ…恨むぞ… …ぅう… ふっふっふ、家族を呼び戻す…魂をいただく…」
「旅人よ、そなたは魂を売ってしまった。このままではおまえは生きたまま、おまえの家族の魂はこの世に残り腐っていくだろう。ターブルの上はご家族の遺体、床は恐らくおまえが家族を黄泉帰らせるために命を奪った集落の人間… 家族のためとは言え、魂を売り、人を殺め、家族の魂までケガしてしまった。おまえの子供の魂がおまえを案じてここの女に助けを求めて来たぞ。もう教会では天界に送れん、自分で道を選ぶしかないぞ」
シャーマンとプリーストでは仕事が違うようだ。リリアは黙って見守っている、狂人にはとても気の毒だが一線を越えてしまっている…
「旅人よ… 清らかにはなれないが… まだ選べる」
先生が呪文を唱えると魔法陣の中の扉と剣が現れた。
「旅人よ、昔から人を呪わば穴二つと言ってな… その剣はおまえの憎しみを増幅させおまえの力となる、と同時おまえ自身もじきに生きたまま腐っていくだろう。全てを許し、受け入れ、扉をくぐれば家族とともに静かな世界に旅立てる」
狂人は黙って立っている。
しばらく沈黙が続いた。相変わらずの小雨。リリアは剣の重さを覚えて剣先を地面におろした。
狂人の表情が少し動いたように見えた。
「その剣を手にするならば、我々がおまえを成敗するだろう。汚れとなり永遠と彷徨うこととなる…」先生が言う。
ハッとしてリリアが剣を構えなおすがアキツグがリリアを制す。
「………タ―ナ、アーベル、サラ…  家族のため… 父さんはおまえ達のため…」
狂人は剣に寄る…

「お願い!考え直して!複雑な事は良くわからないけど… その剣を手にしたら見過ごせなくなるの… 家族だって他人の命を奪ってまで… 望んでないから子供が助けを求めてきたのよ!アーベルとサラの為に、タ―ナってきっと奥さんでしょ?悲しむよ… 受け入れて生きるか、今家族で扉をくぐるかよ」リリアが呼びかける。

「おまえに、おまえらに何がわかる… 家族は俺の全てだった。家族のためにつらい旅をつづけ、妻の病気を治すために苦労を重ねてきた。子供達には穏やかな暮らしを我慢させてきた。世のためにも尽くしてきた。タ―ナの病気は治らず、子供達には辛い思いをさせてきた。それが…どうだ… この最後、恨んでも恨み切れない。俺は家族を取り戻す、全てを取り返す…」狂人が絞り出すように訴える。

「あたしもここから東にある村で育ったけど、父さんも母さんも殺されたよ… もちろんもう一度家族で暮らしたいと思うけど、他人の命を奪ってまで… 悔しいのはわかるけど、自分の為に、家族のために辞めてあげて」泣きべそ勇者リリア。

「無理だ… 俺は手を汚し、タ―ナの魂は既に汚れてしまっている。解放のため魂が一つ要る。タ―ナ無しで扉をくぐれない、俺は一人で生きるつもりもない… もう始めてしまった、家族と生きるためにはこれしかない…」狂人がゆっくりと剣に手を伸ばす。

「ちょ、ちょっと待って!何かあるはずよ、シカとか何かで補えないの?」
リリアはゴグスタフとアキツグを見る。が、皆表情は絶望的。
子供達は無表情で立っている。
「俺の全てだったんだ。苦労を我慢できたのは家族のためだった、それをこんなに虫けらのように…」狂人が呟く。
「ねぇアキ!あなたプリーストでしょ?どうにか出来るはずよ」
「自ら闇に魂を売って… 呪うとはこういう事です。家族の魂、犠牲者の魂を天界に戻すには呪縛主に解放ししてもらうか、この世で殲滅するかです」
「ちょっと、ゴグスタフ、何でこんな意地悪な選択なの?他にやりかたあるでしょ!」
「言ったろ!全てこの男が選んだ道だ!呪うには犠牲と代償と効果を天秤にかけるんだ… それより… こっちも時間が無いぞ!気力がもたん」
「子供の頼みとは言え、犯罪者にここまでしてやってんだ!とっとと選べこの野郎!力尽きそうだ!リリア、いよいよとなったらこいつの首をちょん切れ!」床のバディも限界が近いらしい。
魔法陣が歪み、色褪せ始めた。狂人の正気も再び消えそうだ。
「くっく… 家族… 俺は…」
「だ、ダメダメ!お願い家族のため!剣はダメ!バディ、もうちょっと頑張って!」
リリアは慌てて魔法陣に駆け入る。
「リリア、いかん!おまえが剣に触れちゃいかん!」

リリアが魔法陣に入って剣に手を伸ばす。狂人の手は剣まですぐそこ。
「リリィ」「リリア」
魔法陣の効果かガウとメルが一瞬リリアの視界を遮った。
「父さん、母さん、ごめん!あたし行くわ」
リリアは幻をかき分け剣に飛びつく。
“こんなの残酷過ぎる!何か方法があるはずよ”
剣までもう一伸び!剣は握らせない!


“ドッ”
リリアは飛び込んだ勢いのまま床に転がった。
剣を握ろうとした手は空を掴んでいた…
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