勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
212 / 519

【106.5話】 進水式のリリア

しおりを挟む
春めいた陽気の中汗ばみながらリリアはワインボトルを手に合図を待っている。
合図と同時にリリアがボトルを投げ、軍艦の舷側で割ることにより軍艦の進水式が終わるのだ。
今リリアはルーダリアの公認勇者として正式な鎧とマントを着けてドックの岸壁でその合図を待っている。鎧とマントが暑く手が汗ばむ。


前日
リリアはルーダ港の軍港ドックを案内されて歩く。
王国軍のドック等今まで気が付かなかったが、現在、急激に拡張中のようだ。
岸壁に係留され艤装中の船一隻と陸上で建造中の船二隻が見える。機密保持のためあまり近づけないそうだ。
「船の違いってよくわからないけど、今までも軍の船ってなかったかしら?」それらしき船を沖に見た気がするリリア。
「今まではルーダ港の警備部が海防艦と戦闘艦を一隻ずつ持っていましたが、海運貿易が増えるにつれ、敵国や海賊から商船を守る事が重要になりました。そこで今回ルーダ港の警備部は海軍に格上げされルーダリア王国海軍発足と相成ったのです。明日は新しく建造された軍艦の進水式と海軍発足の宣言及び記念式典です」案内係が説明する。
リリアの目付け役としてディルと独占取材のピエンが同行している。
ピエンは船を見て興奮しているし、ディルも淡々とはしているがテンションが上がっているのがわかる。男達はなぜ船を見てテンションを上げているのだろうか?リリアには理解不能。
「で、あたしは王国の守護神として式典に参加するのね…」最近公認勇者っぽくなった扱いにテンションが上がるリリア。

「その… 警備部と海軍と何が違うの?」リリアが質問した。
ガテン系の亜人を満載した馬車が行き交いする。
「大きな違いは予算ですね。軍になった事で予算が増え、人員を導入し大きな船を建造可能になり、ドックの設備と技術も向上できます」ディルが答える。
「カンゼイがなんちゃらで… 値段が上がったぁ~とかトラネコさん言ってたけど、これのせいなのね… 船ってそんなにお金かかるの?… そんなに!! じゃぁ、あそこに置いてある木材だけでリリアのお給料分以上じゃない! 何なのよ!そんなにお金あるなら勇者に給料出しなさいよ!… はぁ?軍艦は国益を守ってくれる?… リリアだって魔物をチマチマ倒して国益守ってるわよ!命がけなのよ!勇者馬鹿にしてんのか!… 自分は国の決定を伝えるだけ?… あんたいつもそうやって逃げるじゃない!たまにはリリアの決定を国に伝えなさいよ!… 給料出さないなら明日の式典出ないからね!…………  なら近衛兵隊長が恐らく変わる?……  いいよ… わかったよ… せっかく勇者らしくなってきたから… やればいいんでしょ… たっまく、何よ…」
リリアとディルは相変わらず。ピエンは苦笑いしながら聞いている。


はい、式典になります
式典には大勢の関係者が来ている。かなりの身分の人達も来ている上、国王自らの宣言があるためかなりの厳戒態勢。
「あれ?公認勇者ってこんな場合国王の身辺警備の仕事でしょ?」リリアが質問する。
「あ!勇者リリア様はそのような訓練を受けておられませんので、素人の方が入られますと… リリア様、今回はゲスト席の方で…」と、誰だこいつ?ってやつに言われた。
椅子に座ってればよいならそれでいいけど…
言い方ってもんがあるだろ!!どいつもこいつも勇者リリアを馬鹿にし過ぎだ!!

国王の宣言に続き、初代海軍総司令官、初代海軍提督、初代海軍作戦司令長官、初代海軍参謀長、初代艦長…
初代づくめの人達の挨拶が続く。リリアはウトウト…
軍の式が終わり、軍艦の進水式。っと言っても既に水に浮いている。
リリアはちょっとドキドキして式を見ている。すごい情報を仕入れたのだ。
「船の名前?… そっか、業物にも飼い犬にも名前つけるものね、船にも名前つけても不思議じゃないわね」式典前のリリア。
説明によるとルーダリア王国の初代軍艦なので伝説の勇者からエディンと名前を付けようとしたらしいが、フリートから勝手に勇者エディンの名前を使うなと待ったがかかったそうだ。フリート帝国ケチくせぇぞ!
「こんな場合、軍艦の名前は伝説の神々の名前、その国の重要な城、要塞、過去の国王、英雄、勇者の名前から因んで命名されるがルーダリアでは現在、神々の名前は大型攻城兵器に使われ、城等の名前は作戦上の混乱を防ぐため使わないようにされ、国王の名前はリスペクト上、簡単に使用されない事となっているらしい。過去の英雄、勇者関係はフリートに使用権を抑えられているのでこんな場合は現公認勇者の名前を使われる可能性が高い!しかも女性の名前なら間違いない」と説明をされた。
「初代軍艦の名前がブレイブ・リリアとか、あたし歴史に名前を残すのね」
リリアは期待する。

式が進み、船が紹介され、ファンファーレとともにネームを覆っていたカバーが外される。
“クイーン・ルーダリア”と軍艦に彫られている。当たり障りのない名前。
「まぁ、そうだよね… 期待はしてなかったけど…」リリアは消沈。


で、式の最後になりリリアが呼ばれた。
「それはではボトル式をルーダリア公認勇者…… 勇者ライラ様… あ、失礼いたしました、勇者リリア様より…」
どこまでリリアを馬鹿にするんだ!国の守護神なんだぞ!三文字の名前くらい覚えとけ!

とにかく、リリアはワインボトルを手に岸壁に立つ。
後ろの席まで見えるようにちょっと高いところに投げ当ててくれと係に注意された。
リリアの立ち位置から船の舷側まで3mと無い。大きな軍艦だ。ミスりようがない。
「さぁ、勇者リリア様、どうぞ!」合図が来た。
“リリアはダガー投げで練習してきたのよ!ダガー投げの命中率はちょっと良くないけど、ここから船にぶち当てるのくらいわけない所業よ!景気良くぶち割ってやる!くらえーーー”
リリアは高い所を狙って投げ上げる!
“ツルリン! しまった!!”
汗をかいていた手がボトルを滑らした。
ボトルはフラフラっと上がると“コチン”と舷側に当たり“ドブン”っと割れずに海に落ちた…

場がシーンとする… 気まずい…
“こんな時は成功を確信した自信たっぷりな態度で誘い拍手よ”
リリアは満面に愛想笑いをうかべ自ら拍手する…
パチパチパチ… パチ…
「…… 勇者リリア様 ありがとうございました」
司会者だけは釣られてくれたが、会場には静けさが漂っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...