勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【118.5話】 フェアリーフライと草餅カエル

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「何かバーゲンやってないかなぁ?」リリアは独り言を言いながら錬金ショップで足を止める。
ルーダリア地方は徐々に夏に向かってきている。まだ路地裏とか、井戸の陰とかに冷気が残っている気がするが、日向に立つと暑い季節になってきた。

リリアは仕事前の買い物中。
錬金ショップに立ち寄ったところだ。マジックアイテム屋、薬屋等と少し違う錬金ショップは少しモドキなアイテムを売っていたりする発見のあるお店。

「……… これって亜人権及び妖精権法違反じゃないかしら?」
お馴染みの錬金ショップの店先の籠にフェアリー種が入れられている。宿り木の上にうずくまるようにしているが、蝶の様な大きく美しい羽根を持った妖精さんぽい。
美しくって何気なく足を止めて眺めていたリリアだが、よく考えたら籠に入れておくなど妖精権利を不当に扱っている。
「…… ネルネコさん… こんな事する人かな?」
ネルネコだって亜人だ、名前も容姿も典型的な猫人。これが違法だと知っているはず…

「……………」
店の奥を見たがネルネコは留守にしているようだ。見まわしたが、人々が行き交い、周辺の店は忙しそうにしているだけでネルネコの姿はない。用事にでも出ているのだろう。
街に出てきたころペットと使い魔を混同してかなりやらかしたリリアだが、最近は慣れてきた。っと言うか、うかつに関わらないことにしている。
これを慣れたというか… まぁ、街に適応して生活していると言ったところか…

「妖精さん、ちゃんとご飯食べてるの?」リリアは籠をコツコツしながら話しかける。

返事がない… 屍のよう… いや、ちゃんと生きているよ…返事しないけど…

「何だこれ?これが餌?… いや、ご飯かな?」
妖精は食事せず、自然界や主従関係のある者からエネルギーを取り込む種類もいるが、食事をとらないといけない妖精もいる。また、エネルギーも取り込め食事で生活できる者もいれば中には、特に食べる必要はないが、主人や周囲に合わせて口に食べ物を運ぶ妖精もいる。
しかし、地べたに直接食べ物を置かれたり極端に周囲と目線の合わないような食事を与える方法は禁止されているはずだし、ましてや籠の底に食べ物を置くだなんて不当な扱い極まりない。
見ると籠の底に草餅のちょっと大きいのが入れてある。これを食べろというのか?
「妖精さん、どこから来たの?いつから籠に入ってるの?ネルネコに入れられたの?」リリアは話しかけてみるが、じっとして返事をしない。
“いやいや、待てよ… 何度も恥ずかしい思いをしてきた。妖精に似ているけど違うのか?”
リリアはジィっと観察してみる。
大きく綺麗な羽根、少し不格好だが人の形をした胴体、妖精に間違いなさそうだ。
不格好だが色んな妖精が存在するのだ。
以前「へんちくりんね」っと何気なくリリアが言ったら
「人間の勝手な価値で話すな」っと怒られたことがある。格好では決められないが妖精に間違いなさそうだ。
「これはネルネコさん戻って来たら注意しないとね」
リリアは辺りを見渡す。知り合いのお店だ。結構リリアにはサービスしてくれる。
「向こうのお店ではバイワン・ゲットワンフリーよ!一つ買ったら一個ただでついてくるよ」とリリアが言うと
「じゃ、向こうに行ってくれよ!」と言いながら少し負けてくれるのだ、良い人。
しかし、これはいただけない…
下手に衛兵等に通報しない方が良いだろう。知り合いのお店でサービスもしてくれる、リリアがそっと注意して丸く収めて恩を売り、弱みに付け込んで買い物をバーゲンしてもらう。
まっとうな勇者と堅気のお店の付き合い方だ!
リリアは妖精の様子を見ながらネルネコを待つことにした。


「ん…… あの娘、リリアか?」
ネルネコが用事を済ませて店に戻って来ると自分の店頭で大騒ぎしている女がいる。
人々が足を止めて女を見ている。リリアが自分の店先で何かさわいでいる、何だろうか?
「いや!ダメ!ちょっと!食べちゃった!お願い吐き出して! でなきゃ、噛まずにお尻から出してぇ!」
リリアはおかしな事を叫び、籠を壊そうとしている。
「おいおい!リリアじゃなかぁ、何だよ、どうしたんだよ!」ネルネコがリリアを呼び止める。
「ネルネコ!草餅が妖精をたべちゃったよ! 魔物よ!魔物草餅よ!」リリアは大騒ぎ。
「……………… はぁ?…   あぁ!  わっはっはっはっは、 リリアらしい」
一瞬フリーズしていたネルネコが大笑いしだした。


「それじゃ、妖精だと思ったのはフェアリーフライっていう虫の仲間で草餅みたいなのは草餅カエルだったのね… あたしてっきりお餅が妖精を食べたのかとビックリしたよ」
リリアは事情を聴きながらネルネコさんのお店でお茶をいただいている。
話しを聞くとリリアが妖精と思い込んでいたのはフェアリーフライという蝶の一種で、敵から身を守るために妖精とそっくりに擬態する虫だったようだ。珍しい蝶ではあるもののその姿から取り引きとしては嫌悪感を持つものが多く、要するに無価値な虫。
一方草餅カエルは団子にそっくりな姿と飼う手間の少なさからペットとして需要があるカエルのよう。
ただ単に、カエルの籠に餌を入れておいたらリリアが勝手に勘違いして大騒ぎしていたってところ。
「はぁ、名前は聞いたことあったけどあんなに妖精に似てるとは思わなかったわ…」
恥ずかしい思いをしたリリア。
「わっはっはっは、本当に俺が妖精を籠に入れて売ると思ったか?」ネルネコ。
「… まぁ、そんな事する人とは思ってないけど… まぁ、勘違いよ…」

リリアはお茶を飲みながら冷や汗を拭いている。
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